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災い転じて、


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1話


「苗字、悪いけどコレ、バレー部の連中に持っててくれ」

『え、』


帰り際。委員会の仕事を終えて先生に報告しに職員室へ寄ったのが運の尽き。数学担当の先生から手渡されたのは三冊のノート。「なんですかこれ?」と首を傾げた私に、「バレー部連中の課題ノートだ」とこちらを見ずに返した先生。どうやら、バレー部が大会期間中に免除していた分の課題らしい。普段は厳しい怖いと有名な先生だけれど、そこら辺の融通を効かせてくれる為、生徒からの人気はそこそこある。
だがしかし。委員会の仕事を漸く終え、これから帰れると言う所での新たな頼まれごと。正直言って面倒だ。僅かに眉根を寄せた私に、「頼んだぞ」とノート上に五つの飴玉が追加される。お使い駄賃ということだろう。仕方なく、はい、と返事をして職員室を出ると、少し重たい足取りで運動部の部室棟へ向かうことに。
外はすっかり暗くなっており、校門に向かう生徒の数も随分と疎らだ。運動部の部室の明かりもほとんどが消えていて、点っているのはバレー部とバスケ部くらいのものである。深いため息を零しながら、コンコンッと部室の扉をノックする。「はいよー」と中から聞こえてきた馴染みのある声に、重い手つきでドアノブを回した。


「あれ?苗字??」

「こんな時間に何してんだ??」

『委員会の仕事で残ってたら、更にお使い頼まれたの。……って、あれ?海くんは??』


さっさとノートを渡して帰ってしまおうとしたのだけれど、随分とガランとした部室内に残っていたのは、同じクラスの黒尾と夜久、それに、二年の孤爪くんと一年のハーフくんの四人のみ。「海なら今日は居残りせずに帰ったぞ」と告げられた答えに、え、と思わず肩を落としてしまう。


『ええ……海くん居ないの??これ渡すように頼まれたんだけど………』

「ああ、数学の課題か。それなら海のロッカーに入れときゃいいよ。明日の朝練の時に気づくだろうし」

「お使いご苦労さん」


ひょい、と自分の分のノートを取り上げた黒尾と夜久。「ここが海さんのロッカーですよ!」と話を聞いていたハーフくんが海くんのロッカーを示してくれる。いやこれ、私が勝手に開けるのは如何なものだろうか。
「黒尾が入れてよ」「あ?なんで??」「私が勝手に開けるのは良くないでしょ!」「海はそんな事気にしないと思うぞ??」
苦く笑う夜久の声に、穏やかに微笑む海くんの姿を思い浮かべる。確かに。海くんなら、勝手にロッカーを開けてノートを入れたとしても、「わざわざ持ってきてくれてありがとう」と優しく笑ってくれそうだ。納得して頷き、海くんのロッカーに手を伸ばしたその時、





       ゴオオオオオオオオオオオオン





「っ、な、なんだ??」

「……今、何か音が……」


低い低い地響きのような音。その音が部室の空気を重たく揺らしている。ゴオオオオオオオオオオオオン、ともう一度響いた不気味な音。気味の悪さに顔を顰めていると、「…とりあえず外に出てみようぜ」と黒尾が部室の扉に手をかけた。しかし。


「……あ?」

「……おい黒尾、何やってんだよ?早く開けろって、」

「あ、開かねえんだよ!」

「「「『はあ!?』」」」


ガチャガチャと何度も何度もドアノブ捻る黒尾。「貸せ!」と夜久が変わってみるも、扉はうんともすんとも動かない。「え、俺晩御飯食べれないんですか!?」と声を上げるハーフくんに「食事の心配より、先ずここから出れるかどうかの話でしょ…」と孤爪くんがため息を零した。



その、次の瞬間。



『…………え?』




景色が、変わった。