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三年生秋(21)

春高最終予選、決勝トーナメントを終えた翌日。熾烈な都内予選を制したのは、インターハイ優勝校である井闥山学園だった。
フルセットの末、惜しくも敗れてしまった梟谷の皆は東京二位枠で春高本戦へ。そして、一回戦で梟谷に敗れた音駒高校はというと、三位決定戦で見事戸美学園を下し、開催地特別枠として春高本戦出場を決めた。
熱戦を終えた夜。メッセージアプリを通して送られて来た黒尾くんからのメッセージ。梟谷の春高出場を祝う言葉と音駒の出場報告が綴られたメッセージに、労いとお祝いの言葉を返すと、直ぐさま付いた既読サインののち、次に送られてきたのはクリスマスデートの詳細について尋ねる内容だった。

授業終了を告げるチャイムが鳴り終わる。

多くのクラスメイト達が教室を出ていくなか、アプリのトーク画面を開いて黒尾くんからのメッセージを確認する。今朝の時点では待ち合わせ場所だけが決まっており、時間はいつでもいいよ、と黒尾くんの返事を待っている状態だった。
開いた画面に映し出た二件の未読メッセージ。一件は、待ち合わせ時間を伝えるもの。もう一件は、“会えるの楽しみにしてるね”という何とも彼らしいメッセージだった。
返事を打つべく動かした指先。フリックで文字を打ち、送信ボタンを押そうとした時、


「苗字、クリスマス黒尾とデートすんの???」

『っ!?』


にゅっ、と突然後ろに現れた木兎。驚きに送信ボタンを押そうとした指が空振ってしまう。大きく大きく見開いた目で木兎を振り返ると、木兎の後ろには赤葦くんの姿もあって、「他人の携帯盗み見るのはマナー違反ですよ」と言う後輩からの注意に、「え??ごめん??」と疑問符付きの謝罪が伝えられた。


「“ごめん??”じゃないっての」

「マナー違反どころか最低だからね」


呆れと軽蔑の眼差しで木兎を見るかおりと雪絵。マネージャー二人からの冷たい視線に、「ス、スミマセン、デシタ、」と心からの陳謝が届けられる。
昨日の試合も相まり、本日の梟谷学園男子バレー部は休養を言い渡されている。普段は部活に費やしている放課後の時間を持て余してしまっているのか、木兎はもちろん、赤葦くんや雪絵、猿杙や小見くんまでうちのクラスに集合してしまっている。
いいよいいよと笑って応えつつ、送り直そうとしたメッセージ。すると、確認した画面には先程打ったメッセージの他に、支離滅裂な文字の羅列が映し出されており、間違った送ってしまったであろうそれに、え、と小さな声を漏らしてしまう。


「?どうかした??」

『な、なんか、間違ったメッセージ送ちゃったみたいで、』

「あ、誤爆しちゃった感じ??」

「向こうが見る前に取消しちゃいなよ」

『…………もう、見ちゃったみたい』


「既読サイン付いてる、」と顔を引き攣らせれば、あららと眉を下げた猿杙が苦笑いを浮かべる。慌てて謝罪文を送ろうとしたところ、それよりも早く届いた返信文。“誤爆?笑”と送られて来た返信に、今度こそ謝罪の言葉を送ろうとすれば、一体何を思ったのだろうか。「スマホ貸して!」と言う木兎に、思わず目を丸くする。


『えっと…………なんで??』

「黒尾に借りてたCD見つけたの今思い出した!から、苗字のスマホで打っていい??」

「いや自分の携帯使えよ」

「じゅーでん切れてる!」

「何のための携帯だよ……」


はあ、と揃って吐かれた大きなため息。あまりに息ピッタリな様子に皆の苦労が伺われる。けどまあ、思い出した今のうち伝えておきたいという木兎の気持ちも分からくないし。「ちょっと待ってね、」と誤爆の謝罪を送ったあと、木兎にスマホを渡すことに。
さんきゅー!とスマホを受け取り、早速メッセージを打ち始めた木兎。「ほっときゃいいのに、」と呆れた声を漏らす木葉に眉尻を下げていると、ほい!と直ぐ様返却されたスマホ。差し出された画面に見えたのは、“CD見つかった!”という恐らく木兎が打ったであろう文字。


『……木兎……これじゃあ誰が送ったか分からないよ……』

「え??」

「木兎あんたね、名前のスマホから送ってるのに、自分の名前入れないでどうすんのよ」


まったく、と二度目のため息零したかおりは、「ちょっと貸して、」と手を差し出して来る。はい、と苦笑い気味でスマホを渡すと、慣れた手つきでフリックをするかおりの横から何やら悪い顔をした雪絵がスマホの画面を覗き込む。


「私もうちた〜い」

「打ちたいって……あんた、自分のスマホがあるでしょ?」

「いいからいいからー」


かおりの手からスマホを奪った雪絵。ていうかそもそも、雪絵は一体黒尾くんに何の用があるのだろう。首を捻りながらも、スマホが戻って来るのを大人しく待っていると、「ありがと名前〜」と漸く帰ってきた自分のスマホ。手にした画面をかおりと二人で確認すると、かおりが打った“木兎より”の文字に続く、悪戯心満載のメッセージが。


“黒尾くん!私と雪絵とかおりをスイパラに連れてって欲しいな!”


『………雪絵………』

「あんたこれ、タダでスイパラ行きたいだけでしょ……」

「おこぼれでも連れてって貰えたらラッキーじゃん」


むふ、といたずらっ子宜しく笑う雪絵に、「俺も焼肉食いたい!」「お!じゃあ俺も俺も!」「俺も送ろっかなー」と楽しそうに手を挙げた木兎、小見くん、猿杙の三人。「いや、あの、」と止める間もなく木兎に攫われたスマホは、三人の手を経て再び私の元へ。

“焼肉食いたい!”
“ラーメン奢って欲しいなあ”
“やっぱりお寿司がいいかも!”

と、皆の要望が書かれたメッセージ。しかも全て既読されている。後でちゃんと説明しなきゃな、なんて考えていると、「木葉と赤葦も何か送っとけば?」という猿杙の勧めに、「俺は別に、」と断った赤葦くんと仏頂面でスマホを睨んだ木葉。少し間ののち、ん、と差し出された木葉の手におずおずとスマホを差し出せば、数秒のフリックののち何度目かの帰還を得たスマホ。木葉が打った文字を確認しようとした瞬間、スマホに一本の電話が。


『っ、え、あ、ど、どうしよ、黒尾くんからだ、』

「先生に居ないし出ればよくね?」

「来たら来たで俺らが教えるし」


そう言って廊下側への移動した小見くんと猿杙。二人の厚意を有難く受け取り、電話に出させて貰うことに。「も、もしもし、」と少し上擦った声で電話を取れば、「名前ちゃん……だよね?」とちょっぴり訝むような黒尾くんの声が。


『は、はい、名前です、』

〈よかった。木兎あたりが出んのかと思ったわ、〉


「多分一緒にいるよね」と言う問いかけに、はい、と反省を込めた頷きで応える。「イタズラしてごめんね、」と謝罪を口にした私に、「イタズラしたのは名前ちゃんじゃないっしょ」と軽やかな笑い声が返って来た。


〈多分だけど、スイパラは白福で、焼肉は木兎かな。あと、ラーメンと寿司は猿杙、小見あたりとか?〉

『す……すごいね黒尾くん。大正解だよ、』

〈…………てことは、最後のメッセージは木葉が送って来たやつ?〉

『え……?……多分そうだと思うけど……木葉が送ったメッセージだけ、まだ見れてないんだよね』


「なんて送ってあったの?」と素直に尋ねた問に、僅かに生まれた沈黙。止まってしまった会話に、あれ、と小首を傾げた時、「ちょっと木葉に代わってもらっていい?」と言う黒尾くんに戸惑いつつもスマホを木葉へ。
「?なんだよ??」「黒尾くんが代わって欲しいって」「あ?なんで??」「なんでかは分からないけど……」
差し出したスマホを怪訝な顔でスマホを受け取った木葉。もしもし、と電話に出る木葉をハラハラした気持ちで見守っていると、スピーカーの向こうから聞こえた黒尾くんの微かな声。何を言っているのかまでは聞き取れなかったけれど、それを聞き取ったであろう木葉は眉間に皺を寄せながらも、とても落ち着いた声で応えてみせた。


「あっそ。好きにすりゃいいよ。お前がどうしようと、俺は絶対引かねえし、」


そう言って、電話を切ってしまった木葉。ん、と突き返されたスマホを覚束無い手つきで受け取る。木葉は一体何を黒尾くんに送ったのだろう。席に座り直す木葉を盗み見たのち、再び開いたトーク画面。黒尾くんからの通話履歴の前に送られていたのは、とても短く簡潔な一文だった。


“譲らねえから”


それが、“なにを”かまでは分からなかった。でも、たった六文字のメッセージに含まれた“何か”が、木葉にとって大事なものであることだけは私にも分かった。
「黒尾くんに何送ったの?」というかおりの声に、「なんでもいいだろ」と頬杖をついて答えた木葉。画面を閉じたスマートフォンを鞄の中に仕舞い込むと、廊下を見張ってくれていた猿杙と小見くんに、ありがとう、と声を掛けることにした。
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