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二年生秋(4)

side木葉


「赤葦さー、この前一年の子に告白されてたよねえ」

「は!?マジかよ赤葦!!!」

「……なんで知ってるんすか白福さん……」


練習後、自主練習を始める前のちょっとした空き時間に白福から降られた所謂恋バナに、面倒そうに顔を顰めた赤葦に小見と二人で詰め寄る。
クソう!コイツ前も三年の先輩に告られたって聞いたけど、今度は同級生かよ!!どんだけモテんだ!羨ましい!!
「付き合ったのかよ??」「リア充かよ!」とジト目で赤葦を見れば、「付き合ってません」と至極冷静に返され、「断ったのかよ!?」と小見が声を上げる。


「なんで断ったの??可愛い子だったじゃん」

「…だから、なんで知ってるんすか」

「たまたま目撃してー」

「………確かに綺麗な人ではありましたけど、よく知らない相手でしたし」

「付き合って見りゃすきになるかもしれねえじゃん!」

「そういうのは、ちょっと」

「赤葦は好きになった相手とじゃないと付き合えないって感じ??じゃあ、赤葦が好きになるのってどんな子?」


やけに食いつく白福に赤葦が更に面倒そうに眉根を寄せる。「特にないですよ」とテキトーに誤魔化そうとしているのが見え見えな答えを返す赤葦に、「ないってなによ、ないって。見え見えな嘘つかないで」と白福が眉根を寄せると、諦めたようにため息をついた赤葦は、視線を手に持っていたバレーボールにゆっくりと落とす。


「……本当に、タイプとかそういうのはあまり。…………でも、」

「「「でも?」」」

「………一生懸命な人は、嫌いじゃないです」

「へえ〜!一生懸命な人ねえ〜」

「……もういいですか?」

「うん。いいよいいよ。ありがと〜」


ヒラリと片手を振って離れていく白福に赤葦が怪訝そうに首を傾げている。こりゃあれだな。白福誰かに頼まれたか何かしたのだろうな。赤葦は分かってねえみたいだけど。
不思議そうに首を傾げる赤葦を挟んで小見と目を合わせる。一年のわりにしっかりしてるが、意外な所が抜けていたり変わってたりするからな、こいつ。色恋沙汰とか特に鈍そうだよな。なんて勝手に色々思っていると、「あかーしー!!トスあげて!!」とコートに入った木兎が両手を振って声を上げる。「あ、はい、」といつも通りの返事を返した赤葦がコートに入って行くのを見送ると、「赤葦モテるな………」と遠い目をした小見が頬をひきつらせた。


「まあ、男の俺らから見てもイケメンだしな」

「年の割に落ち着いてるし、クールだし、」

「話してみると結構接しやすいしな」


あ、なんか惨めな気持ちになってきたぞ。
「俺サーブ練してくるわ」「おー」と胸の痛みを隠すように木兎達の隣のコートに足を運ぶ。あーあ。俺も告白とかされてみてえ。誰か告白してくんねえかな。彼女欲しいわ。
なーんて一瞬考えてみたけれど、サーブを打ち始めりゃ、あっという間にバレーに集中してしまうのだから、俺も木兎の事笑えねえバレー馬鹿という事なのだろう。俺の青春はバレーってか。それはそれで満足だけどさ。
それにしても、白福に赤葦の情報を頼むということは、次に赤葦に惚れたのは恐らく二年生なのだろう。意外にも鈍感なバレー馬鹿の赤葦に惚れたのは、一体どこの誰なのだろうか。






            * * *






「あ、木葉、悪いがこれ、書庫に戻しといてくれ」

「え、」


昼休み。日直の仕事で集めたノートを持って職員室に行けば、追加で頼まれたお使い。マジか。まだ昼飯食ってねえんだけどな。だがしかし断る訳にもいかず、「ラジャっす」と一言返して渡された数冊の資料を持って書庫へと向かう。
梟谷は図書室がデカいと有名だが、課題や授業で必要な時以外ほとんど利用したことはない。図書室隣の書庫室に至っては一度だって出入りしたことねえしな。戻しておけと言われたが、誰か係の奴とか居てくんねえと分かんねえな、これ。
ため息と共に肩を落とす。さっさと終わらして飯食いてえんだよなあ。見えてきた書庫の扉に、おっ、と更に足を早め、扉に手を掛けたその時、


「そう言えば、苗字先輩がこの前勧めてくれた本、読み終わりましたよ」

『え、もう?早くない??というか、あの本図書室に置いてなかったんじゃ……』

「古本屋で見つけたので買ってみたんです」

『そ、そっか……。ど、どうだったかな??』


中から聞こえてきた二人分の声。どちらも聞き覚えのあるそれに、扉を開けようとした手が途中で止まってしまう。僅かに開いた扉の隙間からそっと中を覗き込むと、本棚の前に立つ二人分のシルエットが。

やっぱり。赤葦と苗字だ。


「面白かったです。でも、恋愛小説だと最初に勧めて貰ったのが一番面白かったかな」

『あ、やっぱり??私もあれが一番好きなんだよね』

「知り合いにも勧めたら、凄くいいって気に入ってくれました」


不思議な組み合わせだ。赤葦と苗字って接点あったっけ?…あ、あの時のキーホルダーか。
一人で勝手に納得しながら、視線を二人へと戻す。何故だろう。さっさと入って用を済ませたいのに、足がどうにも動こうとしない。聞いちゃいけねえ話をしてるとか特別大事な話をしてるとかそういう訳ではないのに、それでもこの会話に割入れないのは、


『本当に??…気に入って貰えたなら良かったあ……』


薄らと赤く染った目尻。柔らかく細まった瞳と、嬉しそうに弾んだ声。赤葦を見上げる視線はやけに真っ直ぐで、いつも教室で見ているはずの苗字の顔がやけに輝いて見える。
ああ、そっか。白福が探りを入れていた理由って、もしかして、苗字か。
分かりやす過ぎる反応に苦く笑う。しかし当の赤葦本人はと言うと、全くもって気づいている様子はない。いくら何でも鈍すぎんだろ赤葦。あまりに鈍感な後輩に乾いた笑みを漏らしていると、「あ、すみません。俺、図書室の方でも借りたい本があるので、」と赤葦が図書室の方へと続く扉へ向かっていく。「あ、うん。またね」と軽く手を振って赤葦の背中を見送った苗字は、扉が閉まりきったのを確認すると、委員用の小さなカウンターに座ってふっと小さく息を吐いた。そういやうちのクラスの図書委員って苗字か。
今度こそ中へ入ろうと再び扉に手を掛けたその時、


『赤葦くん、今日もかっこいいなあ』


噛み締めるように呟かれた声。愛おしそうに和らいだ目は赤葦が消えた扉をじっと見つめている。

苗字って、こういう顔するんだ。

普段教室で見る顔とは別の、好きなやつを思って見せる顔。恋愛ってすげえな。好きな奴が居る女子って、こんなに可愛く見えるのか。


「(………ん?可愛く……??)」


い、いやいやいや。そういうんじゃねえから。あくまで、あくまで一般論的にだから!!
誰に聞かれている訳でもないのに勝手に一人で言い訳をして、ブンブン頭を振って思考を切り替える。今度こそ扉を開けて中に入ると、「あれ?木葉?」と俺に気づいた苗字が驚いたように目を丸くさせる。


『めずらしいね。なんで図書室?それも書庫の方に来るなんて、』

「先生のパシリだよ。これ、書庫に返せって」

『あ、なるほど。授業の資料だよね?私戻しとくから預かるよ』


はい、と差し出された小さな手。このまま本を渡せば苗字が棚に戻してくれて、さっさと教室に戻ることが出来るのだろうけれど。


「……いや、戻すとこまでやるわ。棚どこ?」

『え?……えっと……奥の方だけど……?』

「奥って??」

『あ、こっちこっち』


席から立った苗字が書庫の奥へと歩いて行く。案内されるままについて行くと、一際分厚い本や資料が立ち並ぶ棚に辿り着き、「あそこかな」と棚の1番上を見上げた苗字が一部空いた棚の隙間を指し示す。


「さんきゅ」

『わざわが戻すとこまでしなくても良かったのに。委員の仕事なんだし』

「……なんか自分でやりたい気分だったんだよ」

『ふーん』


不思議そうに首を捻る苗字を横に本を棚に戻していく。「三冊ともここ?」「うん」と苗字の返事を確認し、二冊目を棚に入れようとした時、ふと過ぎった先程の苗字の顔。試しに今の苗字を盗み見ると、何となく手に取ったのであろう本をパラパラと捲って流し読みしている。やっぱフツーだ。これが通常モードってか。


「………さっき、赤葦と話してたな」

『っ!え!?み、見てたの??』

「まあ、一応」

『こ、声掛けてくれればいいのに……』

「………誰かさんが分かりやすすぎて掛けづらかったんだよ」

『…………え、わ、分かりやすいって、』

「お前、赤葦のこと好きなの?」

『!?!?!?!?』


ブワッ!と一気に真っ赤に染まった顔。あ、とか、う、とか動揺が手に取るように分かる反応に、何故かこっちまでドギマギしてしまう。だから、分かりやすぎるだろ!
持っていた本を抱え込み、顔を隠すように俯いた苗字。気付かないふりをしてやれば良かったかな、なんて少し後悔しつつ謝ろうとすれば、パッ!と顔を上げた苗字が真っ赤な顔で一歩前へ。


『そ、そうだよ。私、赤葦くんのことが好きなのっ』

「っ、お、おう。見りゃわかった。つか、分かりやすすぎて、ちょっと心配になんだけど」

『そ、そんなに?そんなに分かりやすいかな??っ!ま、まさか、赤葦くんも気づいて……!!』

「いや、それはねえな。赤葦、そういうとこ結構鈍いし」

『そ、……そっか………良かったあ……』


ホッと胸を撫で下ろした苗字が持っていた本を棚へと戻す。「まさか木葉にまでバレちゃうなんて」と気恥しそうに頬をかく姿に、「お前、隠す気あんのか??」と呆れてしまう。


「あんな顔してりゃ誰でも気づくっつの。……まあ、さっきは赤葦と二人だったからかもしんねえけど」

『……あんな顔ってどんな顔??』

「どんなって…………」


“赤葦くん、今日もかっこいいなあ”


「…………」

『?木葉??』

「あ、あんな顔はあんな顔だよ!」

『??』


キョトンとした顔で首を傾げる苗字に、何故か頬が熱くなる。アホか俺。何赤くなってんだよ。
「昼飯食ってねえから戻る!」と何故か大きくなってしまう声。「あ、ちょ、」と何か言いたげな苗字に気付かないふりをして書庫を後にすると、タイミング悪くと言うべきか、図書室の方から赤葦が現れる。


「あれ、木葉さん。お疲れ様です」

「お、おー、お疲れ、」

「?なんか顔赤くないですか?」

「あ、赤くねえよ!!!じゃあな!!」


振り切るように歩き出した足。少しだけ遠回りして教室に戻ったのは、赤い顔を冷ますためだとか、そんな事は決して、決してないはずだ。
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