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三年生春(19.5)

閑話休題



救護テントから出ていく木葉と名前の二人を見送り、チラリと気遣うように境田に視線を向ける。
騎馬戦で怪我をし、見学を余儀なくされた境田。けれど、わざわざ木葉と代わるなんて一体どういうつもりなのだろう。二人三脚の出場が決まってからと言うもの、境田と名前はよく話すようになった。自分から立候補して名前のペアを申し出ていたくらいだし、てっきり境田も名前のことが好きなのだとばかり思っていたけれど、それなら恋敵である木葉と交代する必要はないはずだ。木葉の態度から察するに、境田は木葉の気持ちに気づいているみたいだし。
疑問がそのまま顔に出ていたのか、「雀田、難しい顔してんね」と境田に笑われる。既に境田の前から保健医は居なくなっていて、境田は自分で氷嚢を押し当てている。


「……ねえ、境田。よかったの?その……木葉と交代して」

「……あー……はは。やっぱ雀田にも勘違いされてんの?おれ、」

「え?勘違い??」


どういうこと?と目を見開いて境田を見ると、「俺、苗字のことそういう意味で好きではないから」と笑う境田に、へ、と変な声が漏れる。


「うそ!?え、じゃあどうして、わざわざ立候補してまで二人三脚に出ようとしたのよ??」

「それは……苗字と話してみたかったってのは本当だったからで、」

「……木葉のやつ、勘違いに勘違いを重ねて、かなり嫉妬して境田に当たってたよね??違うなら違うって言えば良かったのに、」

「………それについては、俺もちょっと木葉に仕返ししたかったっつーかなんと言うか……」

「仕返し?」


木葉のやつ、境田に何かしたのだろうか?
「アイツに何かされたの?」と尋ねれば、「何もされてないよ」と苦く笑う境田。じゃあなんの仕返しなのだと眉根を寄せると、言いづらいことなのか少し迷うように視線を彷徨わせた境田は、動かしていた視線をこちらに定めると、やけに真剣な声音で言葉を紡いだ。


「……バレー部ってだけで、雀田と気兼ねなく話せる木葉が羨ましかったって言ったら…………笑われるかな?」

「…………………へ!?」


ドッ!と大きな音を立てた心臓。
今のって、なんか、そういう意味の言葉に聞こえるんだけど、聞き間違いじゃないよね?
多分真っ赤になった顔のまま固まっていると、パイプ椅子に座ったままの境田の手が伸びてきて、固まる私の左手の中指をそっと優しく握られた。


「せっかく苗字がくれたチャンスだし。俺も、少し木葉を見習って、これからは分かりやすく行くよ」

「な……なっ………」


ぶわりと顔に集まった熱。
今なら、分かる。黒尾くんに告白されて、少しドキドキしたと言っていた名前の気持ちが今なら分かる気がする。
「これからよろしくな、雀田」と爽やかに笑う境田。そんな境田にどぎまぎしているうちに、グラウンドには二人三脚の選手が入場していて、もうすぐ競技が始ろうとしていた。
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