涙雨【完】 | ナノ
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雲外鏡のうつしよ 肆

 足先を襲うじんじんとした痛み。椅子を使いがちな現代人にとって、長時間の正座はもはや拷問ものだ。「大丈夫?」と眉を下げた潔子ちゃんに苦笑いで頷き返すと、未だその“拷問”を強いられている二人、孤爪くんと日向くんに視線を移した。

 雲外鏡の一件から一夜。

 鏡の世界から帰還した私たちを待っていたのは、焦燥する烏養さんと嶋田さん。そして、かなりご立腹な様子の及川たち屋敷の皆だった。
 秋祭りを訪れたみんなは、早々に私がいないことに気づいたらしい。初めはどこかに出掛けているのだろうと特に気に止めていなかったものの、いつまで経っても戻って来ないことを不審に思ったみんなは、慌てて周辺を探し歩いてくれたのだとか。心当たりをあたって行き、漸く訪れた烏養さんのお祖父様のお宅。けれど、みんなが着いたのは、私たちが“うつしよ”に囚われた直後らしく、鏡の外はかなりの騒動だったらしい。
 鏡の中に囚われていた私たちはと言うと、日向くんの陽の気の力で何とか鏡の世界を出ることに成功する。けれど、戻った先で待っていたのは、それはそれはご立腹の及川たちで。今はそのみんなから、お説教を受けているところだ。
 仁王立ちする澤村くんと黒尾くんを前に、肩を縮める日向くんと居心地悪そうに目をそらす孤爪くん。さっきまで私も“怒られる側”に加わっていたのだけれど、足の限界を迎えたことで一足先に解放されたのだ。私の離脱を機に、お説教側に居た及川達青城のみんなも縁側へ。どうやら日向くん達のことは、澤村くん達に任せるらしい。囮になると言い出したのは私なのに申し訳ないな、と眉尻を下げて二人を見守っていると、漸くお説教から開放されたのだろう。畳んでいた膝を伸ばし、その場に立ち上がった二人。ぐーっ!と大きく背伸びをした日向くんは、ワクワクを隠し切れないとばかりに孤爪くんへと向き直る。


「研磨!はやくはやく!」

「そんなに急がなくても大丈夫だってば」


 背中を押して来る日向くんにため息を零した孤爪くん。今から二人は、映画の予習をするべく、原作となったサスペンスゲームに興じるらしい。「反省してんのか、あれ」と呆れ混じりの岩泉の声に、「反省よりワクワクが勝ってんだろ」と答えた菅原くん。微笑ましさに、ふふ、と小さな笑みを浮かべていると、説教役を買って出た澤村くんと黒尾くんが仕方ないとばかりのため息を零した。


「けど、チビちゃんはともかく、研磨が苗字さんの案に乗ったのは意外だよな」

「チビちゃんにゴリ押しされたんだろ」

「それに、意外と好戦的なとこがあるもんな、研磨は」


 日向くんに背中を押されたまま縁側を歩いて行く孤爪くんを音駒の三人が柔らかな表情で見つめる。「けど、名前は無謀すぎ」と付け足すように落とされた及川の苦言に、う、と思わず肩を竦めた。


『心配かけてごめんなさい……。二人を見てたら、何かしてあげたくてつい……』

「……まあこうして無事だったわけだし、お小言はもうやめにしようぜ」


 そう言って俯く私の肩に手を置いた松川。不満気な顔を見せていた及川も、それもそうか、と仕方なさそうに頷いてみせる。
 そこへ、「研磨さん!俺もみたいです!!」「あ、おれも!!」と張り上げられた灰羽くんと犬岡くんの声。足を止め、揃って振り向いた孤爪くんと日向くん。並び立つ二人の姿に顔を綻ばせてきると、気づいた花巻が不思議そうに首を捻ってみせた。


「?どした?」

『………私、日向くんと孤爪くんは、正反対だって思ってた。性格とか、考え方とかは全然似てなくて、でも、だからこそ、全然違うからこそ、惹かれ合うものがあるのかなって。……でも、違ったね』


 灰羽くん達を加えて今度は四人で歩き出した背中。顔を見合せて笑う二人の横顔に、緩んだ唇をゆっくりと動かした。



『二人とも、友達は思いなところが、よく似てる』



 紡いだ言葉に一瞬瞬いたみんなの瞳。けれど直ぐ、ふっ、と嬉しそうに笑ったみんなは、「「「「「確かに」」」」」と笑顔で頷いたのだった。

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