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04


金曜日。つまり、二度目のヘルプ日だ。
前回と同じく商品事業部のオフィスに出勤してきた私に、「お!おはよ!!苗字さん!」「おはようございます!!」「おはよーさん」と木兎くん、日向くん、宮くんが挨拶をしてくれる。そんな三人に「おはよう」と返しつつ、前回と同じデスクに座ってパソコンの主電源とデスクトップの電源を付けると、ふと隣を通った一人の男性社員が目に入り、脳裏に同期の姿が思い浮かんだ。

合コン。どうしよう。

前回のヘルプの際、昼休憩中に再会した同期の彩希。彼女は学生時代から高校バレーを見るのを好んでいたらしく、その時見に行った春高の会場で佐久早くんの試合を観戦したらしい。一目見て佐久早くんのバレーに惚れてしまったと言う彩希。もちろん初めはあくまで彼のバレーに対する熱であって、佐久早くん本人とどうこうなんて考えてなかったらしい。しかし、何の偶然か。佐久早くんはMSBYブラックジャッカルに所属することとなり、彩希と佐久早くんは必然的に同じ会社に通う社員同士となった。今まで雲の上の存在だと話すことさえ諦めていた相手と同じ会社に通うことになった偶然。この偶然をただの偶然とするには彩希の想いは大き過ぎたらしい。
昨日半ば無理やり連れていかれたランチで語られた佐久早くんへの思い。彩希の熱い思いに根負けしそうになっていると、「お礼は前払いで!!」とランチ代まで奢られてしまったものだから、いよいよ断る選択肢はなくなってしまった。
こうして親睦会という名目で合コンを開くことになった訳だけど、佐久早くんの参加が絶対条件という無理難題まで押し付けられている。そもそも私は佐久早くんと一切関わりがないのに、一体どうやって彼を誘えというのだ。
隣を通り過ぎて行く佐久早くんを目で追っていると、「なんや苗字さん、臣くんみたいなんがタイプなん?」と驚いたような声が。え?と後ろを振り返ると、頭の後ろで手を組みながら立つ宮くんがいて、ちゃうの?と首を捻ってくる彼に慌てて首を振ってみせた。


『いやいや。違いますから、』

「あれ?そうなん?てっきりタイプやから見てたんかと」

『私じゃないんだよなあ……』

「???」


不思議そうに目を瞬かせる宮くんに渇いた笑みが漏れる。
これがまだ宮くんとか木兎くんを誘って!っていうお願いだったら幾らか誘いやすかっただろうに。そこまで考えた所で、あれ、と一旦思考を止める。
確かに彩希は佐久早くんを誘って欲しいと言っていたけれど、他のメンバーに指定はない。と言うことは、木兎くんや宮くんを誘っても問題はない。二人と佐久早くんはチームメイトな訳だから、お願いすれば何とか連れて来て貰えるかもしれない。もしも断られたら。それは……うん。その時に考えよう。
とりあえず勝負は昼食時だな。今日は私から行こうと声を掛けさせて貰おう。そう勝手に意気込んで、本日の業務に勤しむための準備を始めた。





*****





「「「合コン??」」」

『……うん……。なんとか、お願い出来ないかな……?』


二日前と同じく、木兎くん、日向くん、宮くんと一緒に外へランチへ。今回は私チョイスの中華料理店に連れていくと、「こんなとこあったんやな」と宮くんが感心するように零していた。どうやら初めてくる店だったらしい。
木兎くんは餃子定食を炒飯大盛りで。日向くんは回鍋肉の炒飯セットを。宮くんは天津飯に餃子を付け、私はエビチリにライスとスープのセットを付けて注文した。
物珍しそうに店内を見る日向くんと木兎くんを横目に、メニューをしげしげと眺める宮くん。そんな三人に、あの、と少し改まって口を開くと、各々別の場所に向けられていた視線が一斉にこちらへ。じっと向けられる視線に少したじろぎつつ、「実はお願いがありまして、」という前置きののち、漸く口にしたのが例の合コンの件である。
唐突な申し出に申し訳なさが募る。まあダメで元々だ。了承されたらラッキーくらい思えば別に、


「行く!!!!」

『……へ??』

「合コン行きたい!!!」


そう言って、はい!と勢いよく手を挙げた木兎くん。そんな彼に倣うように「俺も!!行ってみたいです!」と日向くんの手も挙がる。予想外の好感触な反応に目を見開いていると、「まあそらそうやんな」と宮くんがからからと楽しそうに笑った。


「チームは男所帯やし、会社の部署も男の方が多い。出会いなんて殆どないんやから、合コンなんて願ったり叶ったりや」

『そ、そうなんだ……。……ちなみに宮くんは……?』

「もちろん参加で。俺もそろそろ癒してくれる可愛い彼女が欲しいと思っとったとこやし」


二人と同じように軽く手を挙げみせる宮くんにほっと息を吐く。よかった。とりあえず三人は参加してくれそうだ。
「ありがとう」と机に頭を打ちそうな勢いで頭を下げた所へ、お待たせしましたー!と料理が運ばれてきた。湯気がたつ美味しそうな料理の数々に三人がおお!と感動したように声を上げる。いただきます、と早速全員で食べ始めると、味もお気に召して頂けたようで、三人はばくばく箸を進めていく。気に入って貰えたなら何よりだ。
三人に釣られたようにいつもより少し早いペースで食べていると、「ほんで?」と宮くんが再び口を開く。え?と手を止めて彼を見ると、食べていたものを飲み込んだ宮くんは含みのある笑みを浮かべてみせた。


「誰目当てのお誘いなん??」

『っ!ごほっ!ごほっごほっ……!……き、気づいて……』

「なんとなくな。俺らに声掛けるっちゅーことは、俺らの中の誰かか、俺らと縁のある奴を呼びたいんかなーって」


す、鋭い。引き攣った頬を隠すようにお水に手を伸ばす。一口水を飲んでから、もう一度宮くんと目を合わせると、答えを促すように宮くんはにっこりと笑いかけてきた。


『……佐久早くんを、呼んで欲しいんです……』

「………なんや。やっぱ臣くんかい」

「え??苗字さんオミオミのこと好きなの??」

「そうなんですか!?!?」

『いや、私じゃなくて!!……私の友達が佐久早くんと仲良くなりたいんだって。それで、彼がいる部署にヘルプに言ったって話したらなんとか合コンを取り付けて欲しいって……』

「ほーーーん……。そらまた、臣くんを好きになるなんて難儀な子おも居るもんやなあ」


「あれは中々落とせんと思うで?」と挑発するように笑う宮くん。そんなに気難しい人なのか。と先程みた佐久早くんの姿を思い浮かべていると、「臣さん面白い人ですよ!」日向くんから擁護の声が。


「臣さんの手首!ぐにゃーってなって面白いです!」

『……手首の情報かあ』

「翔陽くん、それじゃフォローにはならんわ」

「オミオミはいっつも眉間に皺寄せてるよな!!あとすげえ綺麗好き!!」

『潔癖気味ってこと??』

「気味っちゅーか、普通に潔癖やな」

『そっかー……潔癖症で手首がぐにゃーってなる人かー……』

「すごい覚え方されたな臣くん」


ははは。と笑うだけで訂正はしない宮くんに肩を落とす。これ以上は本人と話してみなければ分からなさそうだ。もしも佐久早くんが合コンに来てくれたとして、彩希は佐久早くんが想像していたような人じゃなかったはどんな風に思うのだろう。知らない一面を知れたと喜ぶ?それとも、思ってた感じと違ったと落ち込む?どちらにせよ、先ずは会わせてみないことには何も始まらない。
でももし。もし彩希が佐久早くんと話して、そのうえで彼とそういう仲になりたいと望むなら、それはやっぱり応援してあげたいな。
嬉しそうに佐久早くんのことを話す彩希を思い出し、目尻を下げる。そんな私を「?どした??」と見つめてくる木兎くんに小さく首を振ると、残ったエビチリに手を伸ばし、再び箸を動かした。


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