"私はね、柚木くんの"特別"なの。"
家に帰ってからも、朝霧さんの言葉が頭の中で乱反射する。嘘だと解っているのに、疑心暗鬼になってしまう私がいる。
「名前?どうしたんだい」
梓馬さんが、不思議に思ったのか私の顔を覗き込んできた。
私は慌てて大丈夫だと答えたけど、今日の梓馬さんは引き下がってくれなかった。
「なにかあったんだろ?」
「…なにもないですよ」
「俺に言えないことか?」
「っ…そういうわけじゃ…」
「なら、言ってほしい。俺は、お前のたった一人の旦那なんだから。」
そう言われ、少し心が軽くなった。
そして、梓馬さんに朝霧さんのことを話してみた。すると、彼は呆れた顔をした。
「名前は、俺のこと疑ったのか?俺がお前を放って浮気なんかするわけないだろう?」
「ご、ごめんなさい…」
「…まさか朝霧がそんなことを言うとはね…彼女、ピアノの腕がいいから、お前が俺の大学来るまでは一緒に組んでいこうと思ってたんだけど…」
「…え?そうなんですか?」
「当たり前だろう?今は仕方なくお前を待ってあげてるんだよ。…俺のパートナーなんだから」
その言葉に驚いたと同時に、すごく嬉しくなった。
(梓馬さん…私のこと待っててくれてたんだ…!)
「梓馬さん、うれしい…」
「…だから、早くこっちまでおいで?俺は待っててあげるから。」
「…はい、」
そう言って私から梓馬さんにキスをした。梓馬さんは一瞬驚いていたけど、そのまま受け止めてくれた。
取り除かれたもの
(不安や疑心が、)
(あなたの一言ですっと無くなった)
110102
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