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偶然



激しかった体育祭は、私たちの団が応援団、さらに総合成績で1位を奪取し、終わりを告げた。



世は七夕の季節ということで、商店街や駅には笹の葉がそこかしこに見られた。
その笹には、子供からお年寄りまで、色んな人の願いが書かれた短冊がたくさん散りばめられていて、とても綺麗だった。

私はといえば、短冊に願いは書きたいものの、書きたい願いはただ1つ。いつかは先生と結ばれたい。
いや、正直言うと、書きたい願いはまだまだたくさんあるのだが。(今年受験だし…ね!)

話がずれたけど、先生と結ばれたいと書いてもいいんだけど、もしそれを先生に見られちゃったりしたら恥ずかしい。
だから、まだ書けずにいた。


そんなふうに短冊を書くか書かないか迷っていた夜。なんだかサイダーが飲みたくなってしまったために、コンビニに足を運んでいた。
店内に入ると相変わらずやる気の無い店員が「らっしゃーせー」とやる気の無い声で言ってきた。せめて「いらっしゃいませ」くらい言ってほしいものだ。
そう心の中で思いながら、奥にあるジュースのコーナーに行き、サイダーを手に取った。
その時、後ろから不意に声をかけられた。

「苗字?」
「へ?」

振り向いてみれば、あら不思議。大好きな谷原先生がいるではないですか!

「えっ!?た、谷原先生!?どうしてここに…」
「いや…家が近所で…」

新事実!まさかお家が近いとは!
…ていうか私めちゃくちゃ部屋着なんですけど…!でも、先生も部屋着だ…部屋着でもかっこいい…
そんな嬉しさと恥ずかしさで俯いていると、女の人の声が聞こえてきた。

「あれ、マッキーじゃーん。」

パッと顔をあげれば、髪の長い綺麗な女性が谷原先生の肩を親しげに叩いていた。

「うげ、堀さん…」
「うげ、とは何よ失礼ね。」

谷原先生にも女性の知り合いくらいいて当然だとは思う。だけど私の胸はトゲをたくさん刺されたみたいにチクチク痛んだ。

「あれ…、この子は…?…まさか、谷原…ロリコン?」
「んなわけあるか!えっと…俺の教え子の、苗字名前だ。」

谷原先生に背中を押され、彼女の前へ出る。身長差のせいもあって、上目遣いで見つめていると、いきなりぎゅっと抱き締められた。

「何この子かわいい!!谷原、ちょーだい!」
「いや、苗字を物みたいに言うなよ。」
「あ、あの…?」
「あ、ごめんね。私、堀京子。谷原とは高校のときからの付き合いで、私の召し使い。」
「違うっつの!…ごめんな、苗字。俺は、堀さんの旦那の中学からの友達なんだ。」

その言葉に、私はつい浮かれてしまった。だって、堀さんが谷原先生の彼女とかじゃなかったから…。

「なによ谷原ぁー。私とは友達じゃないっていうわけ?」
「いや、そういうわけじゃ…」
「あれ、谷原くん?」

ホッとしながら、谷原先生と京子さんの掛け合いを見ていると、また違う人の声がした。

「あ、宮村。買い物終わった?」
「うん。終わったよー。それより、どうしたの谷原くん」
「お前の嫁に絡まれてたんだよ」
「別に絡んでなんかいないわよ。ただからかって遊んでるだけ」
「それを一般的に"絡む"って言うんだよ!」
「もー、堀さんまた谷原くんで遊んでたの?」

なんだか人が増えて、3人の話についていけず、一人おいてけぼりになっていると、谷原先生がそれに気付いたのか、優しい笑顔を向けてくれた。

「悪い、急に人が入ってびっくりだよな。こいつがさっき言ってた堀さんの旦那で、俺の友達の宮村伊澄だよ。んで宮村、俺の教え子の苗字名前だ。」
「よろしくね、名前ちゃん。」
「よろしくお願いします、伊澄さん。」

谷原先生に紹介をしてもらい、最初は気がつかなかった違和感に気付いた。

「あれ…二人とも、名字が…」
「え?あぁ…なんだか、名字が慣れちゃって、未だにみんな名字呼びなんだよ。ね、堀さん」
「まぁまだ正式に籍を入れた訳じゃないしね。」
「あ、そうだったんですか…。」

なんだか色々複雑なんだな、と心に留めていると、京子さんが連絡先を教えてくれた。

「いつでも連絡ちょーだいね、名前ちゃん。」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃ、谷原くんも名前ちゃんもまたね」
「ん、じゃーな」

京子さんと伊澄さんは仲良く手を繋いで、帰っていった。
ふたりの背中が小さくなっていくのを見ていると、谷原先生に声をかけられた。

「俺たちも帰るか。」
「あ、はい…」

なんとなく、まだ一緒にいたいような気がしたけど、もう夜も遅くなっていたから、素直に頷いた。

「送ってくよ。」
「えっ、いや、良いですよ!家、すぐですし!」
「大事な生徒、しかも女の子をこんな夜にひとりで帰すわけには行かねーよ。」
「…じゃあ、お願いします…」

結局谷原先生は私が家に入るまでずっといてくれた。
七夕まであと3日。私が、ますます先生のことを好きになった日だった。









季節が真逆過ぎて書いてるときなんだか笑えてきた。
111207


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