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逃げ水




「あ。」
「ん?どうしたの?」

祓魔塾の午前の授業が終わり昼休みになった。私は、奥村先生もとい雪男くんに手伝って欲しいと頼まれ、次の授業に必要な道具を買いに来ていた。
ついでにレストランでご飯を食べてきたのだが…、その帰り道…

今日は風がない。そして暑く私たちを照り付ける太陽は私たちの真上にある。
さらに今月に入り、雨はまだ降っていない。

それなのに、私たちの目の前の道路には大きな水溜まりのような物があった。

「雪男くん…あれ…水溜まり?」

私たちはそのまま普通に歩いてるのだが、その水溜まりに私たちがたどり着く事はなく、一定の距離を保ったまま私たちの前にあるのだ。


「あぁ…あれは逃げ水といって、風がなくて晴れた暑い日に、道路などで、遠くに水があるように見える現象のことなんです。」
「…てことはあそこに水は無いの?」
「えぇ。この暑さのせいで、地表付近の空気が熱せられ膨張することにより、部分的に屈折率が変わって、上方の景色が道路の表面に映ったように見えるんです。」
「なるほど…へぇ…逃げ水…」


相変わらず私たちと一定の距離を置いた場所にある逃げ水と呼ばれた、水溜まりのような物。
水溜まりに見えるせいか見てるだけで、少しだけ涼しく感じた。


「雪男くんは物知りだねぇ。」
「そんなこと無いですよ。昔に逃げ水を見て、気になって調べたことを、たまたま覚えていただけですから。」
「またまたぁ、謙遜しちゃって!」
「謙遜なんかじゃ無いですって。」
「はいはい、そう言うことにしておきますよー。…奥村センセ?」

私が少しからかうように微笑むと、雪男くんは呆れたように微笑んで、軽く私を小突いた。




110806



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