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少しの前進



2日目、美ら海水族館を見学したあとの、自由時間となった。
みんなで集まったところで冬夜くんが開口一番こう言った。

「じゃ、俺沙雪(彼女)のとこ行ってくるから、こっからは別行動で!んじゃまた後でな!」
「え!?」
「…チィッ!うらやましいわ、ホントに。私も、雅人さん(彼氏)と沖縄観光したかった!」
「だったらするかい?」
「え?」

私と愛佳ちゃんがびっくりして後ろを振り向けば、立派な車の窓から愛佳ちゃんの彼氏の雅人さんが顔を出していた。

「雅人さん!なんで…」
「実は愛佳の修学旅行に合わせて、有給取っといたんだ。一緒に沖縄観光しようかと思ってね。」
「雅人さんっ……ごめん名前、私…」
「あ、いいよいいよ!せっかくのデートの邪魔するなんて野暮なことしないよ!」
「ありがとう、名前。後で何か奢るね!」
「へへ、ありがとう。」

愛佳ちゃんも行ってしまった。
…あれ?私ぼっちじゃね?
なにこの寂しい観光…ぼっち観光とか涙出ちゃう。
そんなことを考えながら歩いていたら、誰かにぶつかってしまったのか、衝撃とともに後ろによろけてしまった。
転ぶかと思ったが、私の体に衝撃はない。代わりに人の温もりが。どうやら私は相手の人に抱き抱えられているらしい。

「すっ、すみませっ…」

謝りながらバッと上を見れば、そこには愛しの谷原先生の顔が。

「大丈夫か?苗字。」
「た、谷原先生っ!ご、ごめんなさい!私がボーッとしてたから…」
「謝らなくていいよ。俺もよそ見してたからおあいこだ。それより、怪我とか無いか?」
「あ、はいっ、おかげさまで…。」
「よかった。」

心配してくれるのは嬉しいんだけどそろそろ離してほしいっ…は、恥ずかしいし…

「あ、あの…は、恥ずかしい、ので…離して貰えませんか…?」
多分私はものすごく真っ赤なのだろう。

「あぁ…んー、もうちょっとこのまま。」
「えっ!?」

そう耳元で囁かれ、びっくりして上を向けば、いたずらっ子のような笑顔の谷原先生がいた。

「せ、先生っ…」
「ごめんごめん、冗談だよ。」

はははっ、と笑いながら先生はようやく離してくれた。

「ところで、苗字一人か?梨本と神山は?」
「…ははっ、二人とも今恋人とラブラブランデブーですよ…」
私は遠い目をしながら答えた。

「やっぱり高校生って恋人の一人や二人、いるもんか…?」
「え?…まぁ、そうなんじゃないでしょうか?」
「そうか…」
「それが何か?」
「いや、俺高校のときなんか、男子(一部男子のようなノリの女子)としかつるんでなかったからよ…そうか…そういうもんか…。」
そんなことを呟くように言った谷原先生は、顔に苦笑いを浮かべていた。

「苗字は?」
「え?何がですか?」
「恋人とか、いないのか?」
「うっ…先生、ドSですね…いないから今一人でここにいるんですよぉ!」
「え、あ、悪ぃ…」
「ぐすん、だからこれからぼっち観光なんですよ…」

私が肩を落とし項垂れていると、谷原先生が何かをひらめいたように、手をパンッと鳴らした。

「だったらさ、俺と観光するか?」
「…え?」


谷原先生が今すごいことを言った気がした。






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愛佳の彼氏は一流企業に働く超エリートだったりします。




110728


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