「愛されてたいの」

 ラブソファに深く沈み込んだジゼルは悪びれた様子もなく、ミルクティーが湯気を立てる愛用のマグカップに唇を寄せた。先月ねだられて買ったプラダの黒いワンピースはやはり陶器を思わせるほど白く滑らかな肌によく似合っている。容姿も、気質も、品格も、なにもかもが完璧だった。美しく浮かびあがる鎖骨のすぐ上、見せつけるように残された鬱血痕さえなければ。

「24時間365日、ひとときも欠かさず愛されていたい。愛してくれるなら相手は誰だっていい」
「……言いたいことはそれだけかぁ」

 別に責め立てようというわけではない。ジゼルが俺のいないところで何をしようが誰と寝ようがこいつの勝手であって、その場にいなかった人間がとやかく言うものではない。たとえ二人が恋人という関係であっても。だが想いとは裏腹に口を衝いて出た言葉は余裕のない男の台詞だった。ひとまわりも歳の離れた子ども相手に情けない話だ。誰でもいいと言ったその相手が悪かったのかもしれない。

「よりによってなんでアイツなんだぁ」
「たまたま近くにいたのがディーノだった。それだけ」
「本当にそれだけか?」
「なに? 別の理由がほしいの? 実はスクアーロよりディーノの方が好き、とか」

 気の強いダークブルーの瞳が挑発的に俺を見上げる。認めたくはないが、小憎らしくて可愛げもクソもない態度にひどく安心している自分がいた。
 絶え間ない愛情が欲しいと言うのならできる限り与えてやりたいとは思う。だがジゼルは服や靴が欲しいとは言っても、24時間365日欠かすことなく自分を愛し続けろとは言わなかった。忠誠を誓った唯一無二の男の存在、剣に捧げた人生、暗殺業という特殊な職。全てを理解した上で、今までに関係を持った女たちのように価値観を押し付けるような真似はしなかった。そうして足りない分を埋めるために他の男へふらついたあとは必ずこう言うのだ。

「わたしが愛したいのは世界中でスクアーロ、あなたひとりよ」

「だから、ねぇ、怒らないで」
「勘違いすんなぁ。はなから怒ってなんかいねぇよ」
「ならいいけど、妬いてたでしょう?」
「その生意気な物言いを続けて殴られるか、おとなしく愛されるか、今すぐ選べ」
「あ、待って、お願い。乱暴は好きだけど服はちゃんと脱がせて。これ気に入ってるの」

 中身の減らないマグカップを取り上げて、慌てて守りの態勢に入ったジゼルを狭苦しいソファへ押し倒した。いつだったかパリへ出かけたときに買ってやった香水がふわりと鼻をくすぐる。よくよく見ればピアスも、長い脚の先にはまっているパンプスも、俺が与えたものだった。服に危害を加える気がないことを悟ったジゼルは強張っていた体の力を抜いて、うっとりと微笑みながら華奢な腕を伸ばして俺の頭を抱え込む。されるがまま胸に顔を埋めながらこれもひとつのカタチだと思った。最後にはここへ帰ってくるつもりならどれだけ靡こうが寄り道をしようが構わない。俺だけに愛されていろとも言わない。これは交換条件だ。せめてこうしていられる間はたくさんの愛を受けて満たされたその柔らかな胸で抱いて、飽きがくるまでずっと愛してくれ。


15/06/27

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