ああ、もう戻れなくなるんだ、と後悔しつつもシャツのボタンをひとつひとつ外してゆく彼の指を好きなようにさせていた。すべてを諦めた今は照明の落とされた寝室のベッドで大人しくその時を待っている。
 これから始まる二人の関係はわたしが心から望んでいたものとよく似ているようで、望んでいるものではない。もしも有り余る幸せの先にこの瞬間があったなら、こんなにも冷めた感情で彼に向き合うこともなかっただろう。そうこれは始まりによく似た終わりだ。

「さわって」

 愛の言葉もなく、口付けもなく、ただ淡々と行為は進んでゆく。彼がこんな風に女を抱けるなんて知りたくもなかった。
 せめて想いだけでも伝えられたなら良かったのだろうが、臆病なわたしには心の内を知られることがひどく恐ろしかった。伝えた先で拒絶される恐怖よりも、手っ取り早い関係を望んだのはわたしの方だ。恋人のように抱いて欲しいなんて言わないから、だからせめてわたしに最後の思い出を残してほしかった。

「ブチャラティ、キスして」

 そう請えばすぐに柔らかな唇が触れた。角度を変えて、何度も何度も繰り返すそれはすごく義務的で、壊れた機械のようだった。いっそわたしも壊れてしまえれば良かったのに。欲しかったのは欲を満たすための行為じゃない。わたしはただあなたに振り向いて欲しかっただけなのに。

「君、泣いているのか?」
「泣いてないわ。ねえ、はやくして」

 下から突き上げられる衝動で今すぐにでも飛んでしまいそうな意識をなんとかシーツに繋ぎ止める。彼の額から流れ落ちた汗がわたしの目尻を濡らした。

「君は、どうして、俺と?」
「知らな、あっ、ぜんぶ、しらな、い」
「そんなはずは、ないだろう」

 困った顔で笑う彼に心臓を握り潰されたようだった。そんな顔が見たかったわけじゃない。馬鹿なわたしはきっと無意味な期待してしまうから、お願いだから、冷たく、どうでもよく抱いてよ。

「あ、ダメ、いく」

 小さく痙攣し始めた腿を彼が押さえつけて激しく揺さぶってくるもんだから、思わずシーツを手離してしまった。目の奥で弾ける小さな星たち、ピンと伸びた足の先、弓なりに反る体――。限界が近いのだろう、それでも彼の律動が止む気配はない。立て続けに襲って来る絶頂の波に何度も飲まれながらやがて彼が倒れ込んで来るまで、わたしはずっと目を開けられないままでいた。
 最初はチームの仲間としてそばに居られるだけでよかった。次第に彼を独り占めにしたくなった。誰にも見せたくない、渡したくないと思うようになってしまった。でも彼は誰か一人のものになるような人間ではなかった。みんなに愛されていて、自分のことは二の次で、いつも自分以外の誰かのために生きている。そんな彼が好きだったはずなのに。

「さようなら、――」

 次にこの目を開けて彼と目があった時に全てが終わるのだ。わたしの恋も、彼への想いも、今までの関係も全て。


20/01/02


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