sweets! | ナノ

01


「ほげぇ」


この情けない赤ちゃんの泣き声、誰の口から放たれたものだと思います?私です、ハイ。
突然意識が無くなった私。明るいところに出たと感じた瞬間に口から出てきたこの情けない声。普通はもっと元気良い「オギャアアアア!!」じゃないの?身体は意識とは裏腹にほげぇ第一声を発した後も泣き続け、目開けたいんだけど開かないし身体も思うように動かない。どゆこと。おめでとうございますと女性の嬉しそうな声が聞こえた。


「元気な女の子ですよ!」


……待って?元気な女の子ってそれもしかして私なん??我赤ちゃんなん?あいあむべいびー??
そのまま抱き抱えられる感覚を覚え私はどこかに横たわった。あ、目開けられそ。
ぼやけた視界の中見えたのは汗をかいていて私の顔を見て幸せそうにはにかむ女性の顔と、ピンク色の髪をした白衣の天使と言うべきジョーイさんが……ジョーイさん?!何故?コスプレ?新手の妊婦さんのためのサービス?美人さんですね似合ってますよコスプレ。
私を産んだお母さんらしき人物はタオルに包まれた私をそっと撫でた。その心地良さに微睡み、私はぐぅと夢の世界へと旅立って行ったのである。


……いや、私なんで赤ちゃんになってるの?




◇◆◇




「初めまして、xxさん」
「誰ですか」


目が覚めたら真っ白な空間に真っ白な人物がいた。しかも仮面オプション付き。そう、例えるなら見た目は子ども頭脳は大人な高校生が文化祭で正体隠すために被ってたアレ。アレに近い。それが似合うってことはこいつはイケメンに違いない。輪郭で相当整った顔立ちの持ち主だと言うのがわかる。ニヤニヤしてるのがムカつくけどその仮面ぶんどってビンタかましたい。


「わたしはそうですね、あなたたちの言葉で言うと神様です」
「そうですか。ここどこですかオプション仮面」
「わたしはそのような名前ではありませんよ、xxさん」
「ねえその私の名前?らしき部分聞こえないんだけどバグ?」
「おや、もう聞こえないのですか。残念ですが手遅れでしたか、あー残念!」
「お前全然残念がってないな工藤〇一」


なぁにそのわざとらしい態度!仰々しく手を額に当てるなムカつくその長いマントに足引っ掛けてすっ転べ変態仮面野郎。おっと、またこの口が良くないことを言ってしまった。
オプション工藤〇一は軽く咳払いをした後、事情を説明した。


「簡単に言うと、あなたは死んでしまったのです」
「……はい?」
「ええ、そりゃもう交通事故でエグいことに。聞きます?」
「遠慮しておきます」


何言ってるのこの人、死んだって何?嬉々として人の死に際を話そうとしてくる目の前の仮面の人物心象がただの仮面からろくでもない仮面にレベルアップした。軽く引くわ。


「それは別に構わないのですが何かの手違いでわたしの世界であなたの魂が転生してしまったようで。もう生まれ変わった自分の姿は見たでしょう?なのであなたは前世の名前が分からないし、わたしの口からその名前が聞こえないんですよxxさん」


こいつ“それは別に構わないけど”って流さなかった?人の生死なんだけど??それに生まれ変わったって……まさか、あの時の赤ちゃんが、生まれ変わった私?夢じゃなくて?


「ですからそう言ってるじゃないですか」
「心読むな。……ーー」


そういえば先程の赤ちゃん(in私)の見た景色の中で、お母さんらしき人ともう一人、ジョーイさんの格好をした助産師さんがいたよね。あれは結局ただのコスプレだったのだろうか。病院内のコスプレにしては完成度めちゃくちゃ高かったけどな。私の時は蟲柱の人のコスプレがいいな。


「xxさん。本当はもう気づいているんでしょう?」


仮面越しの金色の瞳が私を捉える。何が?抽象的に語ったところで分かるわけ無いだろ自称神のろくでなしバーロー。こちとら突然死にました生まれ変わりましたとか訳分からないこと言われて混乱してるんだよ。なーにが前世よ君の前前世よ。ちょっと雰囲気出そうとしてるんじゃない。形の良い唇が弧を描くのを見て私は咄嗟に嫌な予感を感じた。
細く長いピアニストのように滑らかな手が私の手を取る。


(触んなゴラ)
「何はともあれわたしの世界へようこそ。もう二度と会うことは無いあなた。わたしはあなたを歓迎しよう」


さ、行ってらっしゃい。


その言葉と共に手が離れ、胡散臭く手を振るオプション仮面……自称神に振る手なんか存在しない。しかめた顔で仮面を睨みつけ心の中で中指を立ててやったのを最後にテレビの電源が切れたようにプツンと意識を失った。




人間の存在が消えた白い空間に佇む一人の“人”。彼女が消えた何も無い跡を見つめ、仮面の裏に隠されたその均整な顔には愉快な笑みが浮かぶ。ほくそ笑むように笑うその人に意を唱える者は誰もいない。


「さあ、」


その真意を知る者は、彼のみだ。


「この物語は、わたしを楽しませてくれるかな」


ーー神のみぞ知る。

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