捧げ物 | ナノ

From Mにて

「そういえばユイたちに最近会ってないけど、みんなどうしてるんだろうね?」


ある日の夕食中(献立は安定の誠士・緋色お手製のビーフシチュー)、何の気無しに友達の話題を口に出した。電話は時間がある時にこちらからする事が多いけど、反対にユイたちは旅をしている分かける頻度が少ない。
……まあ最近は、別の理由でかける頻度が少ない気がするんだけどね。

ちらりとある意味原因の一つであろうナオトを見やると、彼も懐かしそうにこれまでの事を振り返っているようだ。
その隣で、不思議そうに首を傾げ私たちを見つめる小さな頭。ナオトの服の袖を引っ張って、大きな目をキラキラさせて問いかけた。


「お兄ちゃん、“ユイ”ってだーれ?」
「そうか、メイはまだ会った事がないんだったね」
「私たちと同じ、シンオウを旅しているお姉ちゃんだよ」


ほら、といつぞやか記念に撮った写真をメイちゃんに見せてあげた。


「懐かしいね。知り合った頃はまだ勇人もタツベイだったっけ」
「今じゃ立派なボーマンダだもんね。食い意地は昔とちっとも変わらないけど」
「お前に言われたくねぇよ焔」
「現時点でご飯3合分食べてる奴が言うセリフじゃないな……追加は?」
「もちろん、食べる!」
「……ハァ。勇人といいアンタといい、よくそこまで食べられるな」


幸矢は2人の食欲を見てお腹がいっぱいになっちゃうみたいで、今日もギリ一人前未満の量で終わった。
お代わりの白米をよそいつつ、そうかと誠士も懐かしそうに情景を思い浮かべる。


「私が晶に“こけし”と呼ばれるようになってから久しいな、みんな元気にしているだろうか」
「ぶフォッ!?」


誠士の隣にいた緋色が綺麗に吹き出した。料理にかからなくてよかったよ。笑理が「お行儀わる〜い」と唇を尖らせて注意をするけど耳に入っていないようだ。
口元に手を当て肩をプルプル震わせながら誠士に事の経緯を聞いている。


「──という訳だが」
「ぶっ……っはは!いやだからってそのネーミングは可笑しいだろ!」


晶君、ユイたちにも独特のネーミングセンスであだ名つけてるもんね。私も密かに考えた事がある、他のみんなにどういうあだ名つけるのかなーとか。
端で聞き耳を立てていた銀嶺もククッと笑っている。


「言い得て妙とも思うがなぁ。いい酒の肴になったぜ誠士の小僧」
「まあな。……話を聞く限りは相当ひねくれてそうだけどな、そいつ」


誠士を流し目で見ながらぐびっとお酒を飲む銀嶺に、ひとしきり笑って目に浮かぶ涙を拭う緋色。2人の反応を見て思ったけどそっか、ナオトたちのポケモンはあまりユイたちと話した事無かったね。バトルをやった緋色と澪くらいかな?

すると「そうだ!」とナオトが突然立ち上がった。


「折角だ、ユイをウチに招待してみたらどうだろう?メイや僕の仲間も改めて紹介したいし、レイナも久しぶりにユイに会いたいんじゃないかい?」
「うぇ!?」


いやそれはまあ友達だし会えるなら会いたいけど……ってメイちゃんはもう「さんせーい!」って笑理と一緒に手挙げてるし。


「俺も賛成!前に会った時はポニータだったから驚かせてみたいな」
「右に同じ……ふぁ……」


天馬と澪も賛成らしい。そうか、天馬もフユカとユイを交えて集まった時に顔合わせはしていたもんね。
きっとユイは「可愛い癒しショタたちがぁー!!」って嘆いて碧雅君に冷めた目でまた辛口コメント貰うんだろうなぁ。あのやり取りも見慣れたものだね。

疾風も青刃も、私とナオトの友達ならと異論は無さそうだ。
で、“こけし話”でお酒をチビチビ飲んでた銀嶺はどうだろうかとナオトが確認を取る。


「あの小娘と仲間共が来るなら騒がしくなりそうだが……」
「たまには誰かの訪問があっても良いだろう?銀嶺にとっても良い刺激になると思うが」
「ハッ、俺は日々の安寧が何より大事でなぁ。刺激なんぞ求めちゃいないんだよ」


まあ銀嶺はどんちゃん騒ぎする性格じゃないもんね。私たちも初対面の時鋼鉄島でうるせぇって怒られちゃったし。けど青刃のフォローもあったからか、一応OKは貰えたようだ。

夕食の片付けが終わり、ひと段落したところでユイたちに連絡を取ろうとパソコンのモニターに手を伸ばす。
久々に電子の画面越しで見るユイは大きな海色の目を丸くさせていた。


《え、いいの?お邪魔にならないかな?》
「そんなに私たちに気を遣わなくて大丈夫だよ。それにナオトも自分の仲間たちを改めて紹介したいって言ってるし、来てくれたら嬉しいな」
《レイナちゃん。ぼく、もーもーがたべたい》
《本人がいいって言ってるんだから行けばいいんじゃない?あ、僕はアイスケーキでよろしく》
《なら僕はあんみつを所望してやろう》
《こら!何勝手にリクエストしてるの》


晶に至っては何その上から目線!と突っ込むユイの後ろから現れたユイの仲間たち。まだ子どもの白恵君と甘党アイス好きの碧雅君はともかく、人間嫌いの晶君まで画面に現れるとは思ってなかった。


「あっはは!いいよ、暇だしとびきり美味しいの作っとくから!」
《ええぇごめんレイナ……材料費とか払うからね?》
「こっちから声かけたんだから気にしないで。それじゃさっき話した日付と時間にマサゴタウンのPCで待ってるね」


そして日時の確認を取り、モニターの画面が暗くなり照明の反射で映るのは私の楽しみにしているワクワク顔。

さーて、いっちょ張り切りますか!




◇◆◇




そして約束の当日。私とナオトはユイたちを迎えに行くためマサゴタウンのPCにやって来ていた。メイちゃんは笑理と來夢と一緒にお留守番を頼んでいる。料理担当の誠士と緋色を除く手持ちが着いてきてくれたけど、バトルジャンキーコンビと幸矢は身体を動かしたいとバトルフィールドに行ってしまった。


「三度の飯よりバトルって感じだね」
「もう、ユイと合流したら迎えに行かなきゃ」
「ポケモンは戦いが本分だからね。自己研鑽に励んでるのはいい事だと思うよ」


ふと、視界の端で誰かがバトルフィールドの方向へ進んでいくのが見えた。


「……あれ、?」


一瞬、見慣れた金髪が見えた気がした。思い当たるのは一人の人物だけど、まさかこんな所にいるはず……ないよね?
一点を見つめる私に心配そうに声をかけるナオトの声で我に返り、再び先程の方角を見るとその姿は消えていた。……気の所為だったのかな。


「レイナー!ナオトー!」
「あ、ユイが来た」
「ごめん!お土産選んでたら時間かかっちゃった!」


その言葉の通り、ユイの両手はお土産用の紙袋で塞がっていた。その後ろから同じく両手の塞がってる碧雅君がやって来るのが見える。その顔は不機嫌というか、呆れてる。


「商品を選ぶのに時間かけすぎ、優柔不断。だから約束の期日に余裕あるから前もって下見するなり早めに買っておくなりしろって言ったのに」
「うっ、返す言葉もございません。荷物持ちありがとうございました。このお礼はアイス1個で」
「やだ、3個」
「えー」
「ユイに断れる権限があると、へぇ?」
「喜んで買わせていただきますので冷気をしまってください寒いです」


……うん、相変わらずだ。


「……ボール越しから見てはいたが、お前らはいつも主従が逆転してるな碧雅の小僧共。ユイの小娘がその調子じゃいつまで経っても舐められたまんまだぞ」
「わっ、ムキムキのおじさん……?」
「顔のゴツさに見合う口の悪さ……。ユイがこうなのはもう慣れっこだし外野がどうこう言うのはやめてくれる」
「こらこら碧雅、会って早々やめて」
「銀嶺はいつもこうだから、気にしないでくれ」


ナオトが苦笑いで銀嶺の弁解をしつつ軽くメンバーを自己紹介……の前にバトルフィールドにいる仲間を迎えに行かないと。その事を話したらユイの仲間も数人バトルフィールドに行っているとの事で、丁度いいとばかりに一緒に向かう事になった。

その道中で現在いるナオトの仲間の紹介に入る。


「えぇ!天馬君と澪君、進化したの!?」
「えへへーそうだよ、驚いたでしょ?」
「進化したことは素直に喜びたいんだけど……か、可愛かったのに……」
「僕は元々シャワーズになりたかったから。シャワーズも可愛いって評判けど」
「うん、それは認める。認めるけど……あの小ささが良かったってのもあって……!」


まあ、イーブイもといブイズはどの地方でも人気あるみたいだからね。私たちの後ろではそれぞれの手持ちが人型になり各々会話を交えて着いてきている。


「お前はキルリアの緋翠と言ったか。聞けばお前は紅茶を入れるのが得意と聞いている」
「得意という程のことでは……ですがそう言っていただけるのは恐縮です」
「謙遜をするな。奥様があの茶葉はどこで手に入るのかと興味を抱いているのを聞いている。試作の菓子に使用してみたいと仰っていたのだ」
「へぇ、もう“奥様”になったのか。順調で何よりだね、レイナさん」
「まだ!婚約中!ですから!」


璃珀さんのあの顔、間違いなくからかってる!


『ぎんちゃん、おっきいねー。たかいたかーい』
「……おい白恵の小僧、満足したなら降りろ」
『もーちょっと、だめ?』
「あぁ?」
「銀嶺、落とすんじゃないぞ」
「す、すみません銀嶺さん、白恵の相手をしてもらって……」
「ユイの小娘より更にガキがいたとはな。お守りなんぞこれ以上御免だし、柄じゃねぇんだが。……バトルフィールドに着くまでだからな、白恵の小僧」
『いいよー。わー、むーちゃんがぼくよりちっちゃいや』
「あっはは、白恵がおっきくなっちゃった。良かったら食べる?おやつのおにぎり」


トゲピーの白恵君を頭に乗せてあげる銀嶺は、相当レアな気がするぞ。あと焔、おにぎりはおやつじゃない。

そういえばユイの持ってきたお土産はなんなんだろうと渡された小さな袋を覗いてみると、入っていたのはリゾートエリアの有名ホテルのディナー食事券。


「本当はペアの物にしようかと思ったんだけど、碧雅に“もう買ってあると思うしかさばる”って言われたからこれにしてみたの。婚約のお祝いのつもりなんだけど……どうかな?」
「すご……!これ、高かったんじゃない?」
「お金のことは気にしないでよ!せめてもの気持ち。あ、他の紙袋はポケモンたちのおやつとか各地方の名産品だよ。どの味が気に入るか分からなくて、買えるだけ買っちゃった」
「ありがとうユイ。引っ越しが落ち着いた頃にでも使わせてもらうよ」
「引っ越し……?」


ナオトの“引っ越し”の単語にユイが首を傾げたところで、タイミング良くバトルフィールドについた。まだバトルしているようで、フィールドは土煙が立っており誰がいるか判別がつかない。
話の続きはまた後で、バトルジャンキーたちを呼ばないとね。


「勇人、幸矢、疾風!しゅー……ごー…………」
「レイナ、どうしたんだい?」


声をかけつつふと横を振り向くと、壁に寄りかかっている人物は先程私が気の所為かと錯覚した金髪の男の人だった。どうやらバトルを見ていたようで欠伸を零し、私の視線を感じたのか青い瞳と目が合った。
な、なんでここにいるの?


「デンジお兄ちゃん!?」
「んぁ?」
「いつ来たの?言ってくれれば迎えに行ったのに!」
「え、レイナ。どうしたの?」
『なんだなんだ?』
『騒がしいが、どうかしたのかレイナ』
『大人数でご苦労な事だな、アンタら』
『ちんちくりんと甘味女に……誰だ貴様は』


どうやら偶然会ったらしい勇人、疾風、幸矢、晶君がバトルをしていたようで、ゾロゾロとこちらに近付いてくる。それよりも私の視線はデンジお兄ちゃん(?)に集中していた。
…………よく見ると、目がいつもよりパッチリしているし、いつもと違う服装だ。そもそもデンジお兄ちゃんの手持ちで私を見る度に抱きついてくるライチュウがいないし、腰にボールを下げてもいない。
デンジお兄ちゃん(?)は困ったように苦笑いをして頬をかき眉を下げた。


「おいおいレイナ、俺は違うって」
「あ、紅眞。バトルしなかったんだ」
「おー。ジャンケンで負けちった」
「え……っ紅眞君!?」


嘘!?今までの面影は何処へ!?ユイの話によれば最近進化したらしいんだけど……にしても変わり過ぎじゃない?これは優良物件だ、女の子が放っておく気がしない。誠士と一緒に街に並べてみたい……ゲフンゲフン。


『よしレイナたちも揃ったことだ、第2ラウンドと行こうぜ!』
『ああ望むところだ。次はお前とも戦いたいしな、紅眞』
「おーいいぜ!」
『アンタら、当初の目的を忘れちゃいないか』


幸矢が呆れたように第2ラウンドを始めようとするバトルトリオを止める中、晶君が人型になりナオトを睨むように近づいた。


「おいちんちくりん、このひょろっちい男は誰だ」
「こら晶、開口一番で失礼なこと言わないの!」
「はは。初めまして、僕はレイナの婚約者のナオトと言うんだ。ユイとは友人でね、よろしく頼むよ」
「婚約者?……ああ、前におしゃまリスが話していた男か」


やっぱり初対面の人間は警戒しちゃうのか、それきり晶君はナオトから離れてしまった。ていうか“おしゃまリス”って……もしかしなくても笑理?


「ごめんねナオト。晶、ちょっと事情があって……」
「構わないよ、ユイ。彼にも事情があるんだろうし、全てのポケモンが友好的とは限らないのは分かってるさ」


将来は育て屋を営みたいと考えている以上、色んなタイプのポケモンに触れ合う良い機会だと笑って答えるナオト。
……こういう前向きなところ、好きだなぁ。

思わず顔に出てしまったのか、璃珀さんに素敵な微笑みで「いい顔をしているね」って言われちゃった。




◇◆◇




「良く来たな、ユイ」
「ゆっくりして行ってくれ」
「お兄ちゃん、レイナさん、おかえりー!」
「みんな久しぶり!」
「わ、いっぱい紙袋がある!」


家に入ると留守番&料理組のみんながお出迎えしてくれた。お土産のお菓子をそれぞれ配り(甘い物が苦手なメンバーはビターな味のものと後で交換していた)、メインゲストのユイをリビングに案内する。
メイちゃんは元気いっぱいの笑顔でユイに挨拶していた。ユイはその可愛さに思わず身悶えしている。


「ナオト、こんな可愛い妹さんがいたなんて、なんでもっと早く教えてくれなかったの!?」
「えっ?!」
「気にしないで、いつもの事だから」


ほら興奮してないで離れろ変質者と碧雅君に引っ張られるユイ。とはいえリビングに3人のトレーナー+各々の手持ちが入り切る筈もなく、庭に繋がる窓を開けて外を使い、さながらホームパーティーのような雰囲気になった。


「おそらく立食になるだろうと踏んでサンドイッチ等をメインに作っておいた。各々好きな物を取って食べてくれ」
「甘いもん食いたい奴は冷蔵庫にレイナが作ったスイーツがあるからなー。あとお前らがリクエストしたやつもあるぞ」
「もーもー!」
「あれホントに作ったんだ……」
「……フン。おいこけし、鍛錬はサボってないだろうな」


お、晶君が誠士たちに近付いた。誠士もそれに気付いたのかいつものポーカーフェイスが少し緩くなった。


「久しいな晶。元気そうでなによりだ、来てくれて感謝する」
「何故お前が感謝をするのか意味が分からないな。腹ごしらえの後、一戦付き合ってもらうぞ」
「おっ、アンタが例の奇抜ネーミングチルタリスか。俺はハッサムの緋色、ナオトの相棒を務めてる」
「……あの人間か。なんだ、奇抜ねーみんぐとは。馬鹿にされてる気がするのだが」
「いやしてねぇし」


うん、あの時みたいな事は起きなさそうだ。少しほっとしつつ、大勢のホームパーティーを楽しむ。

紅眞君と誠士、緋色が料理談義に花を咲かせ。青刃が緋翠君の入れた紅茶の味に感動して淹れ方やおすすめの茶葉を教えてもらったり。
銀嶺は一人離れたところで昼間からお酒を飲み始めて澪は寝そうになって、それを天馬が諌めつつ白恵君と遊んでくれて。焔と勇人は次から次へとご飯を食べてて笑理と來夢に食べ過ぎと怒られる。
碧雅君は涼しい場所でアイスケーキを静かに堪能していて、晶君が料理談義をしている誠士たちの中に乱入しようとするのを疾風と幸矢が止め、先程のバトルの技の応酬の話が始まっていった。
私たちトレーナーはというと、お互いの手持ちについてや先程話し損ねたこれからの展望を話し合ったりしていた。


(銀嶺じゃないけど、賑やか過ぎるかな?)


近所迷惑にはならないと思うけど、こうして普段会えないメンバーを交えて大勢で過ごすのは新鮮で楽しいものだ。

そして気付けば女の子同士で固まり、輪を描きガールズトークが始まっていた。


「で、どっちが告白したの?」
「へっ」
「プロポーズの詳細、あたしまだ聞いてないからね!」
「いっ」
「メイちゃんはレイナに何が聞きたい?」
「うーんとね、お兄ちゃんのどこが好きなの?」
「え゛っ」


何これ、なんで私だけこんな質問攻めに遭ってるの!?しかもみんな楽しそうだし!
誰か助けを……と思っても周りが女の子だけだからか他のメンバーは離れてるし、ナオトも碧雅君や璃珀さんと何やら話し込んでるし。


「ふーん、ナギサに引っ越すつもりなんだ」
「ああ。今はそのための資金稼ぎをしているんだ」
「ナギサシティか、大切な人の故郷を大事に想う気持ちは俺も分かる気がするね」
「……あぁ。お前と違ってまだナオトの方が男気あるんじゃ……むぐ」
「碧雅くん、ここでは内密に頼むよ」


話の内容は聞こえないけど助けが来ないことは分かった。
まるで四面楚歌、絶体絶命、私の羞恥が。


「そっ、そういうユイはどう!?」


咄嗟にユイの方へ話題をすり替えようとするけど、ユイは無情にも不敵に笑った。


「まっさかー!私には特に無いからこうやって無敵状態でレイナに話を振る事ができるんだよ」
「ぐぅ……!」
「ねぇねぇ、どうなのどうなの?」


詰んだけどあまりにも恥ずかしくて私が降参したからか、しょうがないなぁとみんな諦めてくれたけど、いつかユイが恋をした時に絶対同じように詰め寄ってやると固く誓ったのであった。


楽しい時間はあっという間に過ぎ去るもので、気付けば空はオレンジ色に染まっていた。ホームパーティーも終わりが近づき、片付けがボチボチ始まっている。


「ユイは今日マサゴタウンに泊まるんだっけ。良かったらウチに泊まらない?」
「うーんでも、2人のお邪魔しちゃ悪いし……」
「構わないよ。メイも白恵君や普段と違うポケモンが一緒で楽しそうだ」
「私も、もうちょっとユイといたいな」
「あたしも!まだまだいっぱいお話したいもん!」
「……みんながそう言ってくれるなら、お言葉に甘えちゃおうかな」
「やったー!ユイお姉さんも一緒!」


私たちの会話を聞いていたらしいみんな……というよりバトルジャンキーたちが早速反応した。


「よっし!それなら早速腹ごしらえのバトルと行こうぜ!」
「え、今から?」
「ここまでポケモンが揃う機会は滅多に無い。俺の不得意なタイプの奴もいることだしな」
「ぼく、みんなをおうえんしてるね。わっしょーいって」
「白恵、お祭りじゃないって」
「私は夕食の支度があるから辞退させてもらいたいんだが」
「ふざけるなこけし。せめて先程約束した僕との一戦を終えてから行け」
「おーおーなんだか盛り上がってきてるじゃねぇか」
「おい小僧ども。血気盛んなのは結構だが俺たちを巻き込むんじゃねぇ」
「なんだ、負けるのが怖いのかハガネール。図体の割に大したことない小心者だな」
「…………言いやがったな晶の小僧。その自慢の羽を叩き落としてやらぁ」
「晶、貴方は所構わず喧嘩を売るのをお止めなさい」


緋翠君がニッコリと晶君を諌める。流石の私たちも今日は時間も遅いし、バトルはできれば止めておきたいんだけど……。


「……ふわ、僕はもう寝てたいんだけど、いい?」
「お前は普段から寝過ぎだ、澪。……だが私も勝負よりは、緋翠ともう少し話をしていたい。鍛錬のための勝負は望むところだが、今日は休養日としても良いのではないか?」
「そもそも時刻も遅いしね。また明日改めてバトルするってのはどう?そっちの方がみんな一緒にいられる時間が増えるし、日差しある方が俺好きだし!」
「最後の意見は天馬にしか恩恵ないよー」
「焔も晴れてた方がいいでしょ?同じほのおタイプだし、紅眞も」
「俺?俺は誠士たちと一緒に飯作ろうかなって思ってたしなー。数も多いし、俺は別にいいわ」
「んなっ、ふざけんな紅眞!何のために進化したんだよ!」
「……ハァ、進化の理由は別に構わないだろ」
「俺で良けりゃあ後で付き合ってやるよ、勇人」


ワイワイガヤガヤ、人数が多いから会話の収拾がつかないし、いつの間にかユイたちが明日もいること前提で話が進んでるし。
ナオトとユイの方を見ると、2人もこっちを見ていて、お互いに仕方ないねとばかりに笑い合った。

とある1つの家にて、ひょんなことから沢山のポケモンとトレーナーが集まることになって。
在り来りな話かもしれないけど、私たちにとってはこれもまた大切な1つの思い出のメモリーになって、きっとまたどこかで集まった拍子にこんな事もあったねと笑い合うのだろう。


「それじゃあ、お世話になります」
「うん、もちろん!」


これは、そんな私たちのマサゴタウンでのとある一日の話。

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