捧げ物 | ナノ

Strange Party!

「ヨスガシティ、到着〜!」
「うわ、すげー人ばっか」


久々のヨスガシティにやって来た私たちはゲートを抜けた途端溢れかえる人の数に圧倒された。


『元々シンオウ地方の中心に位置する街だから人通りは多いけど、ここまで多いのは珍しいね』
「人酔いする……ハァ、僕は別ルートでPCに向かう」
「今回ばかりはボールで待機してる緋翠たちが正解だったかもね。じゃ、碧雅はまた後で合流ね」


人がたくさん集まると暑いもんね。碧雅は人通りの少ない裏道を通っていくみたい。


『マスター、大丈夫ですか?マスターは小柄ですから人の流れに巻き込まれやすいですし……』
『ユイちゃん、だっこー』
「え?」


緋翠が心配してくれる傍ら、トゲピーの状態でボールから出た白恵がぴょんと私の胸元に飛び込む。慌ててキャッチすると人の良さそうなお婆さんがあらあらと笑いながら私に話し掛けてきた。


「まぁ、可愛いトゲピーちゃんね。お嬢さんも今夜のイベントに参加予定なの?」
「イベントですか?」
「ええそうよ、今日はなんたってハロウィンだから。今夜はシティ総出で盛大なハロウィンパーティーを行うのよ」
「あ、今日ハロウィンだっけ?」


旅をしているとどうも日付の感覚がズレちゃうなぁ。この世界にもハロウィンの文化があるんだね、初耳だ。それにしても、パーティーって何するんだろう?不思議そうな顔をしている私にお婆さんはふふっと楽しそうに笑いながら教えてくれた。


「お嬢さんは初めてなのね。ヨスガシティは毎年ハロウィンの季節になるとこうやって街のみんなでイベントを開くのよ。大抵はコンテスト会場の衣装が貸し出されるからみんなで仮装して、ふれあい広場でスイーツやポケモンたちのお菓子を用意したり……あと街もハロウィンっぽく装飾するのよね」


そう言われ辺りをよく見てみれば、カボチャのランタンが至る所に飾られていたり、すれ違う人や子どもたちの中に魔女の帽子を被っている人がいたり、ピカチュウに似たような顔が描かれた布を被って歩いている子もいる(ミミッキュというポケモンの仮装だろうと後で璃珀に教えてもらった)。元々洋風の建築物が多い街だから夜になったら更に雰囲気出そうだな。


「あとはふれあい広場でのコンテストパフォーマンスが楽しいのよ。コーディネーターじゃなくてもみんな好きに技を振る舞っていいから、ちょっとしたお祭り騒ぎになるわね」
「へぇー……楽しそうですね!」


折角参加できるなら出てみたい気持ちはある。特に予定がある訳でもないしね。隣で話を聞いていた紅眞も目を爛々と輝かせていた。


「出てみようぜユイ!」
「うん!ただ、晶がなんて言うか……」
「まーまずは宿を確保してからだな!ばーさん、教えてくれてありがとなー!」
「わ!……あ、あの!ありがとうございましたー!」
『おばーちゃん、ばいばーい』
「はーい、楽しんでねー」


紅眞がニカッと笑顔でお礼を言って颯爽と私の手を取って走り出した。紅眞のスピードについて行くのと白恵を離さないように手に力を込めるのに必死だったけど、予定より早く着いたおかげが無事にPCの部屋を確保することができたのだった。




「下らん。僕はそんなものに興味は無い」


やっぱり。PCの部屋で寛いでる中話を振ったけど予想通り。つーんとしている晶の前に回り込み、下から見上げる。


「えー?お菓子食べれるよー?」
「甘味はそこまで好きじゃない」
「色んな格好ができるよー?」
「普段の格好で十分だ」
「強そうなポケモンに会えるかもよー?」
「…………やめておく」


今の間、ちょっと考えたな。やり取りを見ていた璃珀が見かねて「まあまあ」と言いながらこちらに来る。


「必ず外に出なければ行けない訳じゃないんだから、ボールの中で参加すれば良いんじゃないかい?気になったものがあったらご主人に伝えれば良いと思うし」
「…………それなら善処しよう」
「なんとも言えない返答」


まあいいか、一応来てくれるみたいだし。緋翠が部屋の窓から外の景色を眺め何かを探しているように下を注視していた。


「それよりも碧雅の帰りが遅いですね。何かあったんでしょうか?」
「ここのPCは前にも泊まったことがあるから、道に迷ってることは無いと思うけど……」
「碧雅に限ってそれはねぇだろー」
「確かに」
「今日は人が多いから、どこかで休憩してるんじゃないかい?」
「ああ、さっきも人酔いすると言ってたしな」
「……みゃーちゃんね、もうここにもどってくるよ?」


へ?


白恵の言葉通り、ドアがガチャと音を立てて開き、まさに話をしていた碧雅本人が戻ってきた。


「……疲れた」
「おかえー……り……?」


入ってきたのは確かに碧雅なんだけど、何その格好?しかもやつれた様子だし。


「へぇ、碧雅くんは意外に乗り気だったんだね」
「この顔のどこがそう見えるわけ?」
「なんだその格好は。さっきのちびっ子どもが被っていた物と似ているが」
「急に捕まって着替えてこいって押し付けられた」
「魔法使い碧雅じゃん!……プッ、」
「紅眞、後で覚えときな。はい、ユイにあげる」
「ぶっ」


被っていた紺色の魔法使いの帽子を私の顔面目掛けて被せてきた。もしかして、お婆さんが話していたコンテスト衣装の貸し出しなのかな。でも、誰に押し付けられたんだろう?興味本位で聞いてみると思い出したくないのか顔を顰め、ボソリと「ジムリーダー」と呟いた。


「ここの街のジムリーダーに声かけられて、気づいたらこの衣装を着るように話が進んでた」
「メリッサさんかー……」
「確かにあのジムリーダー、こういう行事好きそうだな」
「専門タイプがゴーストだからね、ハロウィンにはうってつけだと思うし」


確かに。ハロウィンといえば浮かぶのはカボチャやお化けだったりするもんね。メリッサさんなら嬉々としてこういうイベントに参加しそう。紅眞が璃珀の言葉でメリッサさんがゴーストタイプのエキスパートだと思い出したらしく若干ビビってるけど、そんなに怯えなくても大丈夫だと思うけどなぁ。




◇◆◇




「ハーイユイサン!お久しぶりデース!」
「メリッサさん、お久しぶりでぐぼっ」


時刻も夕方近くなってきたので、衣装の貸し出しをしているコンテスト会場に向かう。会場で最初に出会ったのはメリッサさんだった。私と目が合うや否やダッシュで駆け寄ってきて、勢いのままハグされる。ジム戦の時もそうだったけど、メリッサさんはスキンシップが激しい。カエルの潰れたような声が出ちゃったけど不可抗力だと思う。隣にいたメリッサさんのムウマージにケタケタ笑われちゃった。


『アハハハ!アンタ元気そうで何よりネ!!』
「今日のイベントはユイさんも参加されるのデスか?衣装はまだ沢山ありますから、好きなの選んでクダサーイ!」
「ありがとうございます……。それにしても、本当に無料で貸し出してくれてるんですね」
「エエ、これはアタシのアイデアデース。衣装も着られないのならタダの布、折角のキレイなお洋服たちが仕舞われたままなのはカワイソウデス」


衣装部屋から出てくる仮装した人たちはハロウィンの仮装、と言うよりはもう少し煌びやかな、様々な意匠が施されたフォーマルな物を着ている人たちが多い印象だった。確かにコンテストの衣装は多種多様だし、持参してくる人も多い。レンタルの衣装を使う機会が少ないからこういう場で機会を増やすのは良い試みだと思う。


「あとはやっぱり、今回のイベントを機にコンテストに興味を持ってもらうのも狙いの一つデスね!」


……そういえばメリッサさん、コンテストでも活躍してたんだっけ。コンテストパフォーマンスもイベントの一部に入ってたみたいだし、結構ちゃっかりしてるなぁ。

さあさあ!とメリッサさんに促され、ムウマージに仲間のボールを回収され、私は一人で衣装部屋に行くことになってしまった。
あ、碧雅が無理やり着せられた衣装は返しといたよ。「oh……なんて勿体ない!」なんて、メリッサさんは余程碧雅に仮装させたいらしくて悔しそうだった。


人が20人は有に入れる広い衣装部屋は正に服の宝物庫。可愛めのドレスや男装用のタキシードもあれば、ハロウィンらしいお化けの布や魔女風のワンピースまで選り取りみどりだ。どれにしようかな。


『ネェネェ!アンタまだ悩んでるノ?』
『ばるんたち、遊びに来たよぉ』
「あれ?メリッサさんのポケモンたち?」


なんでこんなところにと聞くまでもなく、ムウマージが『ヒマなのヨ!』と上下逆さまに漂いながら訴えてきた。フワライドのばるんも久しぶりだね、と頭を撫でてやれば喜びを示すかのように手のような4つの部分を掲げふわふわ舞い上がった。


『アンタ、せっかくならこれ着てみなヨ』
「……これって」


ムウマージが持ってきたのは自分と同じカラーの紫のローブと帽子。真ん中の赤いジュエリーが良いアクセントになってる。ムウマージをイメージした衣装なのかな、結構可愛いかも。
するとフワライドがムウマージを押し退けるようにふわふわと浮かび、私に一着の服を渡してきた。


『ばるんはこれがいいなぁ』
『ケッ!ただ布を被るだけのものじゃないノ!』
『でも似合うと思うよぉ?』
「フワライドの……被り物?」


人一人は丸々と入れそうなくらい大きなフワライドの被り物。とはいえ本物のような球体にはなれないけど、まるで着ぐるみみたい。どうやらお互い自分の種族の仮装をして欲しいみたいで、いがみ合ってる(ほぼムウマージしかしてない)2匹がちょっと可愛いと思ってしまったのは内緒。折角選んでくれたんだしどちらにしようか悩んでいると、ふとある事が閃いた。


「…………。」
『アンタどこいくノ?』
『着替えないのぉ?』
「……いい事思いついちゃった!」
『『?』』


この時の私の笑みはさぞかし楽しそうだったに違いない。




あれから30分程時間が経った。私は大満足な表情を浮かべ、ふれあい広場に向かっている。その隣には原型に戻って恥ずかしそうにしている緋翠と紅眞、のほほんとしている白恵が並んで歩いていた。


「か、可愛い……やっぱりこの直感は間違ってなかった……!最高……ハロウィン、サイコー……!」
『少々この格好は恥ずかしいのですが……でも、マスターが喜んでくださるのならこの程度の羞恥……くっ……』
『がおー』
『てか、なんで俺たちが仮装してるんだよ!』


そう。ポケモンサイズのムウマージの衣装をキルリアの緋翠に、フワライドの衣装をワカシャモの紅眞に、バケッチャと呼ばれるカボチャみたいなポケモンの着ぐるみを白恵に着てもらっているのである。だって他のメンバーだと断固拒否か人前に出られない〜とかで着せられないんだもん。
まさか本当にポケモンサイズの衣装も置いてあったなんて……グッジョブコンテスト会場!ナイスアイデア私!自分の仮装をすっかり忘れていたけど、どうせ碧雅と晶にバカにされる未来しか見えないから仮装しなくて良し!


『トサカ頭やマメ助はともかくひっつき虫は原型が人間に近い分、似合っているんじゃないか?……はっ』


ほら、晶もボール越しだけど3人の仮装に珍しい反応示してるし。鼻で笑ってるけども、失礼だけども。


『…………。』
『無言の微笑みで圧をかけるのはやめろ』
「フワライドはやっぱり無理あったかなぁ?でもポンチョ着てるみたいで可愛い〜!」
『男に可愛いって言うな!白恵、お前も何か言ってやれ!』
『がおー』
『以前手伝ったカフェの時もそうだったが、お前の“ぼきゃぶらりぃ”はそれしか無いのか』
「可愛いから良いんだよ」


プンスコしている紅眞の頭を璃珀が普段しているように撫でると、子ども扱いすんなと更に異議を唱える。でも残念、そんな格好で言われてもちっとも怖くない!


『ちぇー……。どうせならゾロアークみたいにかっけぇのが良かった』
「ゾロアーク?」
『図鑑を開いてごらん、ご主人』


聞いたことのない種族にクエスチョンマークを浮かべながら言われた通りに図鑑を開くと、黒い身体に映える真紅のたてがみが印象的な、しなやかなポケモンだった。なるほど、ちょっと狐っぽいし確かにかっこいい。


「……どこかで、見たような……?」


妙な既視感に襲われていると、紅眞が突然私の背に何かを被せてきた。


『仕返しだ、喰らえ!』
「……?何このもふもふ」
『失礼いたします、マスター!』
「ぼ、帽子!?」
『とりゃー』
「白恵にビンタされた!?」
『ユイもちゃんと仮装しろよな!』


紅眞に茶色いもふもふしたローブを着せられ、緋翠に耳のついた帽子を被せられ、白恵にはほっぺに星のペイントシールを貼られてしまった。


「えぇ!?いつの間にこんなの持ってきてたの!?」
『へへっ、ムウマージたちに渡されたんだ!』
『バレないように空の上に浮かばせながら運んで正解でしたね』
「何その高等技術」


道通りにあるお店のガラスの前に立ち姿を確認してみると、その姿はまるでイーブイ。


「なんじゃこりゃ」
『ユイちゃんもポケモンになっちゃったー』
『お似合いですよ!』
「恥ずかしいから脱いじゃダメ?」
『俺たちも脱いでいいならな』
「…………我慢する」
『そこは良いって言えよ!』


なんて、紅眞のツッコミが響いた。




ふれあい広場に到着すれば普段の自然豊かな公園はなりを潜め、色とりどりのイルミネーションにカボチャのランタンが光を灯し、ハロウィンパーティーと呼ぶに相応しい舞台に変身していた。
キャラメルを溶かした甘い香りが鼻腔をくすぐり、他には外で冷えるからとカボチャを摸したお皿にパンプキンシチューが振る舞われている。お腹すいてきたな……。


「あの人だかり、なんだろ?」


人の騒いでる声が聞こえてくる集まりに近付いてみると、タイミング良く指示を飛ばす声が聞こえポケモンが放ったバブルこうせんとオーロラビームが合わさり、涼やかな光が降り注ぐ。周りの人たちもその綺麗な光景に拍手やエールを送っていた。


『下にいるケイコウオとポッタイシの合わせ技みたいだね』
『話に出てたパフォーマンスの場所ってここなんじゃない』


ほんとだ、みんな我先にとばかりに次々にステージに上がり技を繰り出してる。ピカチュウとパチリスの電気で電気花火を起こしたり、ブイゼル2匹のアクアジェットの水の軌跡で文字を描いたり。その飛沫を利用して今度はユキメノコの氷のイリュージョンが繰り広げられる。誰も打ち合わせしてないはずなのにここまで完成されたパフォーマンスを繰り広げられるなんて、本当にお祭りみたいだ。

すると突然、後ろから抱き着かれた。慌てて振り返ると幼い女の子たちが目をキラキラさせて私を見上げる。


「おねえちゃん、イーブイだ!」
「一緒にお写真撮って!……わぁ、ポケモンさんも可愛い!」
「え、私?」


……しかいないよね、イーブイの格好してる人なんて。他にも素敵な仮装の人たちがいるのに私でいいのかなあ。まあこの子たちが良いならと同伴していた親らしき人に話を通して一緒に写真を撮り笑顔で別れると、何故か他の人たちにも話しかけられまた写真を撮る羽目に。
紅眞たちが私を連れ出そうとしても原型に戻っているのと仮装をしているからか、上手く動けずにいるようだった。


(私もお菓子食べたりしたいよぉ)
「あれ、君話聞いてる?」
「この後一緒にどーぉ?」


とはいえ折角声をかけてくれたんだからと無下にもできずにいると、突然視界に白い物が映る。


「あれ、雪……?」
「なんでこんな時期に雪が降ってくるんだよ」
「うわ、マジかよ俺寒いのダメだわ。建物の中に入ろうぜ」
「じゃーなー、おじょーチャン」


途端に集まっていた人たちはそそくさと去っていった。それと同時に紅眞たちがようやくこっちに戻ってこれたようだ。


『マスター、お傍でお守りできず申し訳ございません!あのような輩が出ることを想定していたのですが、返さなければならない衣装を汚してしまうのもマスターにご迷惑がかかると思い……』
「いやいや、あれは写真を撮ろうって話しかけてくれてただけだし。私お菓子食べたいなぁくらいしか考えてなかったよ?」
『こりゃ話聞いてなかったな』
『めでたしめでたし』
「それよりも突然どうして雪が降ってきたんだろ?」
「この危機感無し」


その言葉と共に頭部に衝撃が走る。チョップされた。いつの間にか碧雅がボールから出ていて人型をとっていた。その手にはもはや見慣れたソフトクリーム、あれはきっとスイートパンプキンマホイップ味だ。


「この程度で退散する奴らで良かったね」
「バカにされた気がする」
『そっかこの雪、碧雅が起こしたのかー』
『グレイシアは空気を凍らせてダイヤモンドダストを降らせると言いますからね』
「これ、ただのあられなんだけど」
『でもきれーだよみゃーちゃん』


確かに、雪って綺麗だよね。他のポケモンのパフォーマンスも綺麗だし素敵だけど、私はこういう自然なものの方が好きかも。
すると晶と璃珀もボールから出てくる。雪で人気が少なくなって良かったね。


「早く行くぞちんちくりん」
「あれ、晶ボールにいるんじゃなかったの?」
「心配になったんだよね、晶くん」
「僕が気になったものをこのちんちくりんが言われた通りに理解できるとは思わないからだ。手始めにあそこの百味ポフィンから行くぞ」
『げっ、あれって中にはゲテモノな味があるポフィンじゃねーか』


晶がズンズンと先導し、璃珀がそれを面白そうに見つめながら着いていき、白恵が碧雅の手を引っ張って、碧雅がアイスを食べながら白恵と進んで行き、紅眞がゲテモノに当たりませんようにと祈りながらすれ違うお化けの仮装に驚いて、緋翠が私の衣装を整えて参りましょうと手を差し出して。


「…………。」


季節外れの雪空を眺める。
普段と違う格好で、普段と違う街の雰囲気で、普段と違う人たちの中で。


(なんておかしくて、楽しい日なんだろう!)


夜はまだ始まったばかり、楽しい時間はこれからだ!




◇◆◇




(…………へぇ、この世界にもハロウィンの催しがあるんだ)


とあるPCの一室で私はソファーに座りながらテレビを見ていた。テレビの中継先ではたくさんのポケモンたちが楽しそうに顔にペイントしていたり、ラッピングされたお菓子を受け取ったりしていて微笑ましい。

今日はハロウィンだったんだ。道理で外が騒がしいと思った。


(ま、私には関係無いけど)


前の世界でのハロウィンなんて人間がこぞって集まって騒ぐだけのはた迷惑なものだったしね。それを思い出しながらテレビの楽しそうに過ごしている人間たちの顔が映ると少しの苛立ちが募る。


《では今回のイベントの参加者の方にインタビューしてみましょう。……あ、そこのイーブイさーん!お時間よろしいですか?》
《へ?私ですか?》


ふと、その中で見覚えのある女の子の顔が映った。


「あれ……?」
『何じゃ?何かあったのかハル』


思わず言葉が零れ、一緒にテレビを見ていた翠姫が首を傾げている。画面に映っている黒髪の女の子を指差した。


「この子……」
『んぅ?……ほぅ、前に会った女子じゃな』
「あ、覚えてたんだ。あの子が着てるのってハロウィンの仮装だよね?」
『うむ、あれはイーブイじゃな。中々似合っておるのではないか?』
『何してるんだ』


紫闇がやって来た。テレビを指さす私に訝しげな目を向けるが素直にテレビの方をチラリと見ると、見覚えのある顔がいたことに一瞬驚いた様子だった。けどすぐ下らないとばかりに息を吐き捨て踵を返した。


『……どうでもいい』
「言うと思った。一応顔見知りなのに」
『またあの女子に会えるといいのう、ハル?』
「…………。」


翠姫の問いには返答せず困り顔でインタビューに答えるあの子が映ってる画面をリモコンで消した。真っ黒い画面には私の無表情と翠姫の横顔が映るだけ。


(別に、私はあの子を気にかけてるわけじゃない)


自分に言い聞かせるように心の中で呟き、気分を切り替える為ソファーから立ち上がる。


「ねぇ、折角だからお菓子買おうか。今日ハロウィンみたいだし」
『まことか!わらわはテレビに出ていたポフィンとやらが食べてみたいぞ!』
『俺は興味無いな』
「ポフィン……?この辺に売ってるかな」


興味無いと言いつつもボールに戻りいつでも出られる準備が万端だ。……“私”という隠れ蓑が無くなったら困るもんね。
肩に飛び乗り目をキラキラさせる翠姫の頭を撫でてボールに戻し、私は部屋のドアに手をかけた。

何を思うわけでもなく、ふと後ろを振り返る。そこには何もない、PCの室内が広がるだけ。


「……“また”、ね」


テレビの向こう側で仲間と楽しいひと時を過ごしているであろう彼女に向けて、届かない言葉を一人呟いた。

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