捧げ物 | ナノ

“またね”の魔法

「フユカ、電話のコールが鳴ってるみたいよ?」
「あれ、ホントだ。ありがとう水姉さん」


プラターヌ研究所で旅の疲れを癒していた夜、突然パソコンの画面に電話の絵文字が浮かぶ。モニター電話から誰がかけてきたんだろ?久しく会ってないあの子かなと予想しながら応答すると、画面に浮かんだのは全く見た事のない男の子だった。


《わぁ。こんにちは、おねえちゃん》
「え?君、誰……?」
《ぼく?ぼくはね、白恵だよ。はじめまして》
「は、初めまして……?」


画面越しにお辞儀されたから私もつい返しちゃった。妙に礼儀正しいこの子は誰なの?白恵と名乗った男の子は研究所の内装が気になるのか、顔をゆっくり左右に動かして中を覗こうとしている。私の困惑した様子が伝わったのか、水姉さんがソファから立ち上がり私のほうへ寄ってきた。


「知り合いからじゃなかったの、フユカ?」
「うん。この子まだ子どもみたいだし、間違い電話かな?」
「晩ご飯できたって〜!緑炎と烈が呼んでたよ!……あれ?」
「……その子、誰……?」
「ありゃフユカちゃん。いつの間にそんな小さい子の知り合いできたわけ?」


上から悠冬、蒼真、龍矢の3人が部屋に連れ立って入ってくる。悠冬がキラキラした目でモニターに食い付いた。


「すごーい!君、どうして瞳の色が違ってるの?ねえフユカ、なんで?」
「うーん……説明が難しいんだけど、人や動物の中には稀に違う色の瞳を持つ子が生まれることがあるんだって」
「そういえば、ニャース系統のポケモンによくオッドアイの事例が報告されてたわね」


ニャースってことは、ネコ系のポケモンか。そういう部分は似てるんだなぁ。私もオッドアイが具体的にどういう要因でなるのか知らなかったけど、アレックスさんやプラターヌ博士に聞いてみたら何か知ってるかもしれないな。

すると白恵君のいる部屋のドアから誰かが入ってきた。雅のような和装を身に纏う、女の人?


《マメ助、お前ここで何をやって……なんだコイツらは》
《あっちゃん、ちゃんとこんにちはしないとだめだよ》
「おっ」


あの人は“あっちゃん”って言うんだ。あっちゃんと呼ばれた女の人は怪訝そうな面持ちで私たちを見ている。彼女を見た龍矢がすかさず声をかけようとしたのでその口を塞いだ。


「ちょっと龍矢!画面越しの女の人まで口説き始めないで!」
「やだフユカちゃんヤキモチ?かわいーなぁもう」
「私の前でそんなこと言うなんていい度胸してるわね龍矢」


水姉さんが笑いながら黒いオーラを放って右手に拳を作っている。龍矢が冗談だってと水姉さんを宥めるのと同時に女の人はワナワナと身体を震わせた。


《……おい、誰が女だと言った貴様ら》
「「え」」


低い声で私たちを睨みつけるあっちゃんさん。お、男の人なの?!そう聞けばあっちゃんさんは溜息をつき、《何故赤の他人にまで……》とボヤいていた。なんかすみません。龍矢も見抜けなかったことにショックを受けてる。


「俺とした事が、一度ならず二度までも……!」


いや、それ以前に見境なく声をかけるのをやめようか?
心の中でツッコミを入れていると、ドアが小さくコンコンと鳴る。


「姫、失礼致します。夕食の席に中々いらっしゃらないのでお迎えに上がりました」
「皆様集まって何をしていらっしゃるのですか?」


今度は白刃に雅がやって来た。段々この部屋の人口密度が高くなってきてないかな!?


《なんだ貴様らはゾロゾロと増えていって……まるでディグダの群れのようだな》
《いっぱいだね〜》
「そういえばあっちゃんさん、白恵君を探してたんじゃないんですか?」
《誰があっちゃんさんだ!》


最早反射と言わんばかりのスピードで、ビシッと私に指をさす。……この人、ツッコミが様になってるな。
あっちゃんさんはハッと我に返ったようにこほんと咳払いして、白恵君の首根っこを襟越しに掴んだ。


《経緯は分からんが、こいつが迷惑をかけたことは理解した。その点は謝罪しよう》
《あっちゃん、なにかわるいことしちゃったの?》
《今回はお前だぞ》
「やっぱり間違い電話だったんだね。でもなんでここにかけてきたんだろ?」
《こいつの考えてることは正直僕たちも分からん。……それより一つ気になる事があるのだが、その男の言った“姫”とは誰のことだ?》


白刃を見つめながらあっちゃんさんがごもっともな質問をする。まぁ初めて私たちに会う人が“姫”って呼ばれてるのを聞くと、不思議に思うのは無理もないよね。白刃は何故か誇らしげに私の前に立ち、私に手を添えた。


「見て分からないのか、姫と言えばこちらにいらっしゃるフユカ様に決まっているだろう!」
「恥ずかしいからやめて!」
《はぁ?》


あっちゃんさんはしばらく私の顔をじーっと見て、一言。


《平民の間違いじゃないのか》
「姫にそのような口を叩くな無礼者!」
「フユカは世界で一番可愛いお姫様に決まってるでしょ!」
「白刃、敵意丸出しにしないの!」


そう言うと白刃は納得いかなそうだったけど渋々引き下がった。あと水姉さんも何言っちゃってるの!?元々私姫って柄じゃないし、一般人だし!あっちゃんさんは《なんだこの勢いは。この女の狂信者か……?》と引き気味だ。ごめんなさい。

そういえば結局、この人たち誰?なんだかんだ話は進むけど一向に何も分かってないような?
そう思った矢先、あっちゃんさんがなにかに反応するように部屋の壁、というよりドアを見つめた。


《……ちんちくりんが来るな。おいマメ助、早く引き上げるぞ》
《あ、えっと、》
「……切れちゃった」


突然やって来て、突然消えちゃった。


最後に言っていた“ちんちくりん”って誰?いや本当に、あの白い男の子が白恵って名前だって事くらいしかハッキリしたことが分からなかった。


「なんだったんだろ?」
「全く失礼な輩でした。姫のお優しい御心に感謝すべきです」
「僕、あの子にもう一度会いたいな!すっごく綺麗な目、実際に見てみたい!」
「……僕も、興味ある……」
「でも彼ら、一体どこの何方なのでしょうか?」
「プラターヌ研究所は有名だから、連絡先も調べればすぐ分かるし、イタズラじゃないかしら」
「イタズラにしちゃーもうちょいやり方あると思うけどねぇ」


みんながそれぞれの意見を口にする中、烈が呆れたように部屋に入って来た。


「おいお前ら、いつまでここにいるんだ?緑炎が“料理が冷めるってのに何やってんだアイツら”って怒ってるぞ」
「ヤバっ!みんな急ごう!」


バタバタと部屋を後にしキッチンに駆け込む中、私は最後のある瞬間を思い浮かべていた。


(白恵君、最後に何を言いかけたんだろう?)




◇◆◇




「ユイー!久しぶり!」
「フユカ!」


時は変わって現在私のいる場所は、シンオウ地方のコトブキ空港。友達の一人であるユイが出迎えてくれて、お互いハイタッチで再会の喜びを分かち合った。


「休憩しなくて大丈夫?」
「勿論!それじゃソノオタウンまで、レッツゴー!」


今回の目的はソノオタウンのスイーツビュッフェ。以前テレビで放送されてたカフェが、私たちが訪れた後大盛況になって、お店も拡張され今や名だたる名店にまで登り詰めたんだとか。で、今日はそのお店の記念すべき1回目のスイーツビュッフェが開催されるんだって。ユイが1週間前に連絡してきてくれて、私もまたあのお店に行きたいと思っていたので嬉しい知らせだった。


「ねえ、ユイの新しい仲間はいつ紹介してくれるの?」
「向こうについて落ち着いたらにしよ!」


あとはユイにも新しい仲間が増えて、ついにフルメンバーが揃った。私もその2人に実際に会ってみたいから、こうして今回はシンオウに遊びに来たって訳。水姉さんが寂しそうな悔しそうな顔をしてたのが若干心残りだけど。お土産いっぱい買って帰らなきゃ。


「お互い6体になったってことは、フルバトルできちゃうね!」
「そうなんだけど、1人があまりバトルに出たがらない子で……もし、本人が希望するなら参加させてあげたいな」
「そういう子もいるんだ。やっぱり個性出るよね」


2人で色々とお喋りをしながらソノオタウンに向かう。久々に訪れたソノオタウンは、相変わらずの花畑に囲まれた絶景だった。PCで一休み後、開けた広場で互いの手持ちを出す(まあ璃珀さんは擬人化してたんだけど)。


「おお〜、壮観!」
「やっぱり数が多いと凄いねぇ」


みんな種族も違うしね。知り合いの面々は互いに挨拶を交わしたり、似た性格同士でメンバーが固まりだしている。そしてキョロキョロと周りを見回してる2匹のポケモンが目に入った。

あの子たちか。私が気づいたと同時にユイが2匹を呼んだ。


「晶、白恵ー!こっちこっち!」
(……ん、?)


今、聞き覚えのある名前が耳を過ぎったんだけど。こっちに近づいてくる2匹の内、チルタリスが私の姿を見ると驚いたように身じろいだ。


『な゙っ』
(この声、どっかで……)


聞いた事がある。記憶のタンスを開け、ここ最近の記憶を振り返った。

……あっ、もしかして!?
合点がいった私と、引きつった顔をしたチルタリス君。そしてボーッと私を見つめているトゲピー君に、何も気づいてないユイ。

ユイがニコニコと紹介を始めた。


「まずはこっちの子からね。ドラゴン・ひこうタイプのチルタリスで、名前は晶」
(晶……だから“あっちゃん”)
『おいちんちくりん。これは一体どういうことなんだ』
(そして“ちんちくりん”って、ユイの事だったの!?)


衝撃的な事実が明かされた気がする。晶君の問に対してユイは「だからこの前言ったじゃん、友達と会うよって。オンバットの龍矢君に会ってみたかったんでしょ?」と晶君が地味に焦ってるのに気づく素振りは無い。


「で、こっちの白いトゲトゲの子がフェアリータイプのトゲピーで、名前は白恵。よかったら仲良くしてね!」
「やっぱりこの前の電話の子だ!」
「え、何それ?」
『またあえたね、おねえちゃん』
『この女、人間だったのか……』


まさか2人ともユイの手持ちだったなんて!世間って狭い。ゾロゾロとこの前の電話の一件で一緒だったメンバーが私たちの周りに集まってくる。


『マジ?このチルタリスがあの時のポニテちゃん?』
『僕は男だと言っているだろう愚か者め』
『その声……!お前が姫に失礼な物言いをした男だな!』
「え、え?みんな2人を知ってるの?どうして?」
『説明すると長くなりますが……』
『わぁー!会いたかったよ!オッドアイ君!』
『わっ、つめたぁい』
『悠冬、特性が発動しちゃうから離れて……』


離れた距離では緑炎を混じえたユイの手持ちたちが私たちの様子を眺めている。


『……アイツら、やけに盛り上がってるな』
「そういう緑炎くんは混ざらないのかい?」
『いや、俺はその件に関わってないからな。……だが、関わらなくて良かったと今は思ってる』
『電話って、この前白恵がテキトーに番号押して遊んでた時あったよな。その時か?』
『幸運が妙な方向に働いたわけね……』

『晶』
『……な、なんだひっつき虫』


やけに圧のある緋翠君がニッコリと微笑みながら晶君に話しかける。あ、キルリアに進化したんだね。


『先程白刃の仰った“失礼な物言い”の部分、興味があります。教えて頂けますか?』
『僕は普通に接してただけだ。何も悪いことなど……』
『そうですか。……その割には“動揺”してますね?』
『っ僕の心を読むなひっつき虫!』
「……なんか緋翠君怖くない?」
「やっぱりそう思う?」


やっぱりってユイ。




◇◆◇




あれからなんやかんやと話が進み、ビュッフェ前の運動としてポケモンバトルを行うことになった。形式は時間がそれ程無いということで、2対2のダブルバトル。制限時間を設けて、どちらかのポケモンが戦闘不能か時間切れになった時点でバトルは終了。
運動というのは建前で、本当は以前ユイがカロスに来た時に戦えなかった蒼真と悠冬を戦わせてあげたいって言うのが本音。だから私の選出はこの2人でほぼ決まりなんだけど、ユイは誰を繰り出してくるんだろう。


(やっぱり相性的に紅眞君か、経験豊富な璃珀さんかな)
「それじゃあ、今回の審判は俺が務めるよ」
「あれ、璃珀さんが審判?」


ってことは、ユイが繰り出すのは……考えがまとまり切る前にポケモンを出すように指示される。
お互いに2つのボールをフィールドに投げた。


『頑張ろうね、蒼真!』
『負けない……』

『アマルスは厄介だな』
『サポートは任せてください』


私は予定通り蒼真・悠冬のコンビ。対してユイは晶君・緋翠君の組み合わせ。まだ未知な部分が多い晶君と進化したことで能力が上昇した緋翠君。これは楽しくなりそうだ。相性は晶君に対しては悠冬が圧倒的に有利、このアドバンテージを逃す手立てはない。

あ、他のみんなは蒼真たちをフィールドに登場させた後に観客席の方に行ってもらったよ。ユイの方も同じく。


「それでは、試合開始」


璃珀さんの静かな号令で、バトルがスタートされた。


「蒼真、サイコキネシス!」
「こっちもサイコキネシス!」


2つのサイコキネシスがぶつかり合う。念力の衝撃波がフィールドをねじ曲げ、立っているこっちもフラフラしそうだ。続けて晶君の柔らかなチルタリスの翼が自分を包み込み、不思議な光が2匹を包む。しんぴのまもりだ。


「攻めてくよ悠冬、晶君にれいとうビーム!」
『いっけー!』


しんぴのまもりを発動中に4倍弱点を狙う。当たればかなりのダメージになるはずだ。でも現実はゲームとは違い、一筋縄では行かない。


「りゅうのまいで避けて!」


りゅうのまいでスピードの上がった晶君がサイコキネシスのせめぎ合いをしてる蒼真の背後へ。まずい!タイミング良く緋翠君が技を解き、蒼真が一瞬よろめいた。


「蒼真、10万ボルト!」
『わかった』
『……ちっ』


危ない、ギリギリセーフ。10万ボルトを自分を中心に放つことで攻撃を避けることに成功した。その余波で緋翠君が電撃を喰らったみたい。


「ニャオニクスって10万ボルト覚えるんだなー」
「加えて“ねこのて”でランダム性があるけど色んなタイプの技を使える可能性がある。案外ダークホースかもね」
「くっ。俺もバトルに出て、姫の雪辱を晴らしたかった……!申し訳ありません、姫」
「それを気にしてるの、お前だけだぞ」
「チルタリスってことは、俺とタイプ一緒かー。なんか親近感湧く感じ」
「あら、白恵。あなた何をなさっているのですか?」
「これ、あとであげて。みんなのげんきになる」
「いのちのしずく……。ありがとう、優しいのですね」
「白恵だけずるーい。ねぇ雅ちゃん、俺も撫でてー?」
「お前はこういう場でも遠慮しねぇな!」


あはは……。向こうもなんだかんだ話が弾んでるね。


「緋翠大丈夫?」
『直撃では無いので問題ありません。……成程、多彩な技を覚えていらっしゃいますね』
『ニャオニクスは僕が叩こう。お前はアマルスを』


こく、と緋翠君が頷く。なんだかんだ2人ともまとまってるんだな。


『どうする……?』
『僕の攻撃が当てられればなー……』
「大丈夫。必ずチャンスは巡ってくるから」


次にユイが緋翠君に得意のひかりのかべを指示し、特殊技に耐性ができた。蒼真と悠冬、どっちも特殊技を使うからね。ならこっちは、蒼真のリフレクター……と思ったけど、


「悠冬、げんしのちから!」
『!?分かった!』


フィールドから出てきた浮き上がる岩が2人を襲う。げんしのちからは確率は低いけど、全部の能力を上昇させる効果がある。今戦ってるメンバーの中で悠冬だけがまだ無進化。いくら相性は良いと言っても、種族値には大きな差がある。相性だけで勝てるほどポケモンバトルは甘くない。賭けではあったけど今回は無事に、低い確率を引き当てたようだ。


『凄い!力がみなぎるのを感じるよ!』
「よし、狙い通り!」
「……うん、緋翠」


ユイは緋翠君に離れるよう指示を出し、晶君が空に羽ばたいた。空気を思い切り吸い込み、ユイが耳を塞いだ。


「ハイパーボイス!」
『────!!』


覇音の衝撃波が岩を砕き、蒼真たちに襲いかかる。1割の確率を引いて能力が上がった悠冬のじならしで大地を揺らし、音の衝撃波をかき消した。直撃は免れても、最初に受けてしまった音は耳に残る。大音量のハイパーボイスで一瞬怯んだその隙を晶君は見逃さなかった。


(あの光、やばい。絶対重い一撃が来る)


体全体を光らせ、力を溜め込んでいるのが見て取れる。緋翠君は晶君を守るように前に立ち塞がり、サイコキネシスでげんしのちからの岩を逆に利用しこちらに投げ込んできた。これじゃ妨害はできない。……いいよ、受けてやろうじゃん。


「蒼真、悠冬の前へ」
『……うん、分かった』
「悠冬、もし隙が出来たら晶君の背後に回る。そこでれいとうビームね、いい?」
『うん!』


「行くよ、フユカ」


ゴッドバード!


技名を叫んだユイに呼応するように、白い輝きを伴った晶君が蒼真たちに急速に突撃する。蒼真の顔は晶君を真っ直ぐ見据えているから見えないけど、分かる。目をそらすことなく相手を見つめている蒼真の姿が。両手をかざし、透明の壁が展開した。


「リフレクター!」
『……っ!うあぁぁぁ!!』
『頑張れ、蒼真ー!』


後ろから悠冬も蒼真を支え、ゴッドバードを迎え撃つ。激しい追突音が響きゴッドバードの威力で蒼真たちの足が力強く踏ん張っていても徐々に後ろに下がっていく。


『……っ!今だ!』


蒼真を支えていた悠冬が思い切り高く飛び、リフレクターを乗り越える。突如上に現れると思ってなかった晶君は、完全に不意をつかれた形だった。


「れいとうビーム!」
『今度こそ、当たれー!』
『これは、!』
「緋翠、マジカルシャイン!」


晶君にれいとうビームが当たり、フリーだった緋翠君が全体技で2人を仕留めに来る。2つの技が放たれフィールドには砂埃が生じ、煙が晴れてくると晶君は辛うじてまだ立っている状態だった。


(やっぱりひかりのかべの効果が大きい)


こっちはまだいけるけど、緋翠君はまだダメージが低いから持久戦に持ち込まれると危ないな。


「緋翠、いやしの……」
(嘘、回復技?)


やばい。と思った矢先、璃珀さんのストップの掛け声がかかる。……あ、そうだった。今回は時間制限ありなんだった。


「今回は引き分けだね。お疲れ様、2人とも」
「ヒ、ヒヤヒヤしたー!」
「晶大丈夫?凍らなくて良かったね。緋翠、いやしのはどうお願い」
『かしこまりました』
『しんぴのまもりを放っといて良かったな……っ……』

『楽しかったー!ね、蒼真!』
『うん……でも、疲れた……』
「はい、2人ともこちらをどうぞ」
『なにこれ?お水?』
「いのちのしずくという水です。これを飲むと体力が回復しますよ」
「みんな、がんばった。よしよし」
『ありがとうオッドアイ君……じゃなくて、白恵!』

「なーんか俺もバトルしてるの見てたら身体動かしたくなっちまったなー。碧雅、後でやろうぜー」
「やだ」
「即答じゃん碧雅。紅眞、俺で良ければ後で一緒にやろうか?」
「お!いいのか龍矢!サンキュー!」
「お前らな、この後予定があるんだよ。終わってからにしろ」


みんながガヤガヤとそれぞれ話を始めている。ユイと私は互いの健闘を称え握手し合って、体力を回復させた蒼真たちも向かい合っている。


『楽しかった!今日はありがとう!』
『また……やろ……』
『はい、勿論。こちらもありがとうございました』
『……おい、平民女』
「ちょ、何そのあだ名……」
「私?」


なんだろうと首を傾げると、晶君は私と視線を合わせることは無かったけど、一言呟いた。


『………………まあまあだった』
「はい?」
『お前たちの強さ、まあまあだったと言っている!僕の技を正面切って受けた防御力、咄嗟の判断で当てた攻撃、威力も悪くない。今回は時間切れで相性の問題もあったが次はこうは行かない。精々怯えているんだな!』
「…………あ、ありがとう?」
『フン。……仲間を大事にしろよ』


最後に呟いた言葉は聞こえなかったけど、晶君はそのままみんなの元へ戻ってしまった。憎まれ口ばっかだったけど、あれは一応褒めてくれたのかな?ユイはというと、晶君を見てクスクス笑っている。


「晶は素直じゃないから。本当はとってもいいバトルで楽しかったって思ってると思うよ」
『僕はそんな事言ってないちんちくりん!』
「地獄耳かな?」


相当距離離れてるけど?すると私たちの会話を聞いていたのか白刃が怒りの形相でこっちに来た。


「あの男、また……!姫、次は私をお使いください。必ずやあのチルタリスを下し、あなたに勝利を……──」
「いや、大丈夫だよ白刃。晶君は“ツンデレ”なだけだから、真に受けちゃダメだって!」
「は、はぁ……?」


楽しそうな顔になった私を見て、白刃も毒気が抜かれたような顔をしていた。「姫がよろしいのなら……」と白刃も一応納得してくれたみたいだし、一件落着?


「さぁご主人たち。そろそろ行かないと予約の時間に遅れちゃうよ?」
「ホントだ!急ご、みんな!」


みんなをボールに戻し、お店へ駆け込む私たち。スイーツビュッフェで甘く楽しいひと時を堪能し、また一つ、思い出のアルバムが出来上がったのだった。




「おい雪うさぎ、一つ尋ねたい」
「なに?」
「……“つんでれ”とはなんなんだ?」
「……はぁ?」

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