捧げ物 | ナノ

シャイニングフレンズ!

「あつーい……シンオウ地方って北国のはずなのに何この暑さは」
「俺はそんな暑くないけどなー」
「やっぱりほのおタイプだからかな?反対に碧雅は死んでも外に出ないって言ってるし」


そんな正反対コンビは置いといて、私たちは旅の休憩のためタウンマップに載ってたとある街に向かっているんだけど、今日の気温が物凄く高い。晴れるとは聞いていたけどここまでとは予想していなかった。まさに雲ひとつない晴天の青空だ。いや、今日は夏空って言った方がいいのかな。


「あ、なんか建物が見える」
「着いたな!」


日陰の存在を求めつつ歩いていると、レンガの温かみのある茶色が見えてきた。獣道から舗装された道へと変わり、レトロな雰囲気の街並みが姿を現した。
おお、この雰囲気すごく好きだぞ。レンガの壁に絡みつく蔦の生命力に圧倒される。シンオウ地方ってやっぱり自然が豊かなんだなあ。

さて、いつものように散策したいところだけど、まずは水分補給がしたい。けれどそう都合よく飲み物を売ってるお店には出会えず、このままだと散策前に干からびてしまう。結構汗もかいたしね。今も歩いてるから散策なんじゃというツッコミはあるだろうけど、これはノーカウントだ。


『……ユイ、あれ』


すると、今までボールで大人しくしていた碧雅が声をかけてきた。言われた方向に目をやると、そこは噴水広場のようだった。この街のシンボルらしい花のアーチに囲まれた大きな噴水の周りには、ベンチや自販機が置いてあった。……自販機?


「飲み物あったあぁ!」


しかし考えていることは皆同じのようで、ほとんどの飲み物は既に売り切れていた。残っているのはミックスオレ。とりあえず飲めればなんでもいいと小銭を入れて買っていると、3本目が出た時に1本おまけでついてきた。やった、当たりだ!


「いい事ありそうな予感〜!」
『単純な頭で羨ましいね』
「外に出してあげようか」
『その瞬間君の身体は全身冷たくなってるけど、いいの?』
「すいません」


くそぅ相変わらず勝てない。ちょうど日陰が当たっているベンチも見つけたので、そこで休憩だ。碧雅はどこか建物にでも入った時に飲むらしい。
紅眞と一緒に冷えたミックスオレを開け、いただきまー


「えっ!売り切れちゃったの?」


……す?

ミックスオレを口に運ぶ前に聞こえてきたのは幼い女の子の声。


「うん。今日は暑いから、みんな喉が渇いてるんだね」
「ううっ、ミックスオレ……」
「仕方ないよ笑理、こんな日もあるって」


私たちのいた自販機の前に立ち、悲しそうな顔をする水色のカチューシャが特徴的な女の子と、その子を宥める黄緑に近い色の髪をした女の子。どうやらミックスオレを買いに来たらしいけど、私が買ったもので最後だったみたい。
そうか、それならと女の子たちの元へ向かう。少し待ってて、と紅眞に伝えた。


「ねえ、あなたたち」
「!誰……?」


不意に話しかけてしまったからか、カチューシャの子に少し警戒されてしまった。わわ、決して怪しいものではないよ!両手に2本のミックスオレを持ち、2人に差し出す。


「突然ごめんね。これ、良かったらどうぞと思って」
「あ、ミックスオレだ!」
「でも、これお姉さんの分じゃ……」
「元々1本おまけでゲットしたものだし、この後PCに行こうと思ってたから、私は大丈夫だよ」


幸いなことに先程PCの看板を見つけた。場所も遠くないから、私はそこで飲み物を買えばいいし、最悪紅眞のを分けてもらえればいい。
少し戸惑いを見せていた2人だけど、このままも申し訳ないと思ったのか、ミックスオレを受け取ってくれた。あ、片方蓋開けちゃったから気をつけてね!


「お姉さん、ありがとう!」
(か、かわ……!)


太陽に照らされキラキラ輝く白い髪に負けないくらいの笑顔。えみり、と呼ばれてた女の子は嬉しそうにミックスオレを飲んでいた。


「私の分もありがとう、お姉さん」
「どういたしまして。私はユイ、よろしくね!」
「私は來夢。この子は笑理っていうんだ」


來夢ちゃんに笑理ちゃん。2人の可愛い女の子と知り合いになれて、早速良い事が起きたよ。
立ち話もなんだから、とみんなでPCに寄ることになった。途中でやっぱり喉が渇いた私は一口紅眞から貰う。うん、甘くて美味しい。
元から明るい性格の紅眞は2人にも臆することなく話しかけ、歳も近いからか仲良くなっていた。流石のコミュ力。

PCの中はエアコンが効いており、涼しい空気が私たちの身体を通っていく。生き返る〜!
碧雅もようやくボールから出てきて、助かったと言わんばかりに息を吐いた。


「……やっぱ暑い」
「これ以上涼しくなるのは難しいから我慢してね!?はい、ミックスオレ」
「あ!お兄さんもポケモンなの?」
「うん、グレイシアっていう名前のポケモンだけど……“お兄さんも”ってことは、あなた達も?」
「そうだよ!あたしはパチリス、來夢はランクルスっていうポケモンなの」


なんということでしょう。知り合った女の子はポケモンでした。パチリスは聞いたことあるけど、ランクルスっていう名前は聞いたことないなあ。ポケモンって何種類いるんだっけ。

……待てよ、2人はポケモンということは、もしかしてトレーナーさんがいるんじゃ。
その予感は見事的中し、笑理ちゃんはある人の存在に気づくと後ろから思い切り抱き着いた。


「レイナー!ただいまー!」
「わっ!……びっくりしたよ笑理、待ち合わせの時間にはまだ早いけどどうしたの?」
「私もいるよ、レイナ」
「來夢も、2人ともおかえり!」
「みんなは何してるの?」
「誠士は部屋でご飯作ってて、焔は勇人に連れられてPCの中にあるバトルフィールドに行ったよ」
「今日は暑いから自由時間でもみんな建物の中にいるんだね」


会話から察するに、あの子が2人のトレーナーなのかな。


「2人とも、あの子は誰なの?」
「ユイっていうんだって!」
「実は……」


レイナちゃんという女の子が私に気づき、2人に尋ねていた。経緯を來夢ちゃんから聞いたらしいレイナちゃんが私に駆け寄ってくる。


「2人がお世話になったみたいでありがとう、私はレイナっていうんだ」
「い、いえいえそんな滅相も無い!私はユイです、えっと、レイナちゃん?」
「……ふふっ、敬語なんて良いんだよ!歳近そうだし」


そう言い笑いかけてくれるレイナちゃん。見た目は私と同じくらいの歳なのに、私より落ち着いた穏やかさを感じさせる。

來夢ちゃん達と会話を弾ませるレイナちゃんを見ていて、ふとどこかで彼女を見たような感覚に襲われた。どこだっけ、確か見たことも無いポケモンも見たような……あ!


「ねえ!レイナちゃんってポケモンコンテスト?っていう大会に出てなかった?」
「え?」


テレビで“ヨスガシティ・ポケモンコンテスト特集!”と大きくシンオウ・ナウで放送されていた時にレイナちゃんが映っていたのを思い出した。今の服装と違いドレスアップをしていて、元の素材の良さを引き立てていてとても綺麗だったのを覚えている。

あの時出していたポケモンは白いリスのような外見のパチリスと、緑のゼリーのような物体に覆われたポケモンだった。そのポケモンの名前がランクルスと解説されてたと思う。私よ、ちゃんと名前聞いてたじゃないか。

ポケモンバトルとはまるで違う、魅力を引き出すという戦い方がとても新鮮でパフォーマンスを見るのが楽しかった。レイナちゃんのクラウンの演出も見事で、優勝したのも納得だった。あの時のポケモンが來夢ちゃん達だったんだね。
けれどレイナちゃんにとっては嬉しくも恥ずかしい思い出らしい、知られてたのか!と恥ずかしそうにしていた。


「っそ、そういえばそろそろお昼ご飯できたかな!」
(あ、話逸らしたな)


その反応がちょっと可愛くて思わずクスリと小さく笑ってしまった。
どうやらレイナちゃん達ご一行はこれからお昼ご飯らしく、私達もまだだったのとお礼も兼ねてご一緒させていただくことになった。




「戻ったかレイナ……客人か?」


レイナちゃん達に案内され通された部屋に入ると、良い香りと共にキッチンから男の人が顔を出した。い、イケメンさんだ!


「誠士ただいま。笑理達がお世話になったんだって、お昼足りるかな?」
「問題ないだろう。焔が食べるからいつも多めに作るしな」
「なら俺も手伝うぜ!世話になりっぱなしなのも悪いしよ」


紅眞が名乗り出る。誠士君は「すまないな、感謝する」と小さく微笑み紅眞と一緒にキッチンで作業を再開した。


「かっこいい人だねぇ。料理もできるなんてすごい」
「誠士は寡黙だけど、優しいしすごく強いんだよ。ちなみに種族はフカマル」
「そうなんだ!うちの紅眞はアチャモっていうんだ。コトブキで出会ったんだけど、真っ直ぐな子なんだよ」
「うん、そんな感じする!」
「紹介が遅れたけど、ボールの中で休んでいるグレイシアがパートナーの碧雅。さっきも出てきたんだけど、ミックスオレ飲み終わったらまた戻っちゃったんだ」
「こおりタイプには今日の天気はちょっと辛いのかもね、よろしくね碧雅君」
『……どうも』


ちょ、全くこの子には困ったものだ。多分ご飯になってアイスをあげれば回復すると思うんだけどね!ごめんねと謝ればレイナちゃんは気にしてないよと言ってくれた。
そのまま來夢ちゃんと笑理ちゃんも交えて4人でガールズトークをしていると、ドアが開き1人の男の子とその腕に抱かれた1匹のポケモンが入ってきた。


「ただいま〜お腹空いた〜」
「おかえり焔、勇人」
『おうっ!戻ったぜ!……誰だ、コイツら?』


小さな手足と一回りほど大きな頭部が特徴的な、どことなくヒョウタさんのズガイドスを彷彿とさせるポケモン。右手を挙げて話すその様は気さくさを感じさせた。タツベイの勇人君と赤髪の男の子は焔君だと紹介してもらった。すごいなあ、5匹もポケモンがいるなんて。なんか大家族って感じ。

勇人君はバトルが大好きらしく、今日は焔君と一緒に戦ってきたらしい。なんだが紅眞と気が合いそうな予感。焔君は話の節々から言われていたように食べ盛りの食いしん坊みたいで、キッチンを気にしてソワソワしていた。つまみ食いをしようとしないだけ良い子だと思う。
そうして皆で話をしながら待っていると、待たせたなと誠士君達が料理を運んできた。お、美味しそうだ!


「紅眞が手伝ってくれたおかげで、かなり助かった」
「へへ、俺も楽しかったぜ。ありがとうな、誠士兄ちゃん!」
「ほら碧雅、アイスもあるよー」
『ふぁ……』


欠伸をしながら出てきた碧雅。そのまま人型になりまず先にアイスを食べた。アイスは碧雅の動力源と本人談だったけどあながち嘘ではないのかもしれない。目に活気が戻ってきてる気がする。


『!お前強そうな気配がするな……なあなあ!後で俺とバトルしようぜ』
「え、やだけど」
『んなっ!お前それでもポケモンかー!』
「煩いよ、それに僕らは絶対戦わないといけないわけじゃないでしょ」
「まあまあ碧雅、受けてあげたら?」
「……仕方ないな、今日みたいな日じゃなかったらいいよ。すぐに終わらせてやるけど」


意外に君も好戦的だよね。戦って己を高めようとするのはポケモンの本能なのかな。


『へへっ、そうこなくっちゃな!相手が強い方がより燃えるってもんよ!』
「はいはい勇人、まずはご飯ね」


焔に全部食べられるよ、と言う笑理ちゃん。テーブルを見れば既に空のお皿が数枚。焔君のお腹はブラックホールなのか!?


「これ美味しい〜!2人が作ってくれたからいつもよりもっと美味しく感じるよ、いくらでも食べられちゃうな」
「洒落にならないから怖いよ!」
「もーいただきますも言ってないのに……」
「だが、こんな日も悪くないな」


確かに、ここまで大人数との食事はこの世界に来て初めての経験だ。十人十色とは言ったもので、みんなそれぞれ違った個性があって、この数時間はとても楽しかった。ご飯中も会話が弾まないことはなく、とても素敵なランチタイムを過ごさせてもらった。




◇◆◇




そして時間が更に経ち、次の日の朝。レイナちゃん達は今日出発する予定だったらしく、旅支度を既に整えていた。


「ユイ達はもう一泊するんだね」
「うん、もう少し休んでから行こうと思うよ」


ショップで買い物もしたいし、散策も終わってないからね!
昨日はみんなでお泊まり会をして女の子同士で仲良く寝させてもらった。男部屋はどうすごしたら分からないけど、隣からドンドン音がしていたのでヤンチャ組が枕投げでもしてたんだと予想する。
來夢ちゃんと笑理ちゃんが私の前に来る。その顔はどことなく寂しそうに見えた。


「ユイ、あたしユイと会えてよかったよ!」
「私も!仲良くなれて嬉しい!」
「……わ、私もだよ2人ともぉ!」


人目を気にせずギューッと2人を抱きしめる。あああ可愛い癒される……!碧雅の変質者のような行動しないでくれるかなと毒舌が聞こえた気がするけどきっと幻聴だ。


「気の所為じゃないから。水でもかけてあげようか」
「ごめんなさいその手に構えているみずのはどうをしまっていただけないでしょうか」


気候が涼しいおかげか、今日は外に出ても平気そうだ。どうやら昨日の勇人君との口約束を果たしてくれていたみたい。結果はどうなったのか後で聞いておこう。
各々過ごしていた仲間を呼び戻し、みんなを見渡すレイナちゃん。


「みんな揃ったかな?それじゃあ行こうか!」


みんなから元気よく返事をもらった(誠士君は静かに返事をしていた)後、ボールに戻すレイナちゃん。そして、私の前に手を差し出す。


「また会おう、ユイ。私たち、友達なんだから!」
「……っ」


ともだち。
その響きがとても嬉しかった。
私はレイナちゃんの手をしっかり両手で掴み、お互い握手をした。


「っうん!うん!絶対また会おうね!」


偶然出会った2匹のポケモンから、沢山の友達が増えた。
あなたの旅路に、たくさんの幸運がありますように。
そう祈りを込めながら見送った。
レイナちゃんの背中が完全に見えなくなって、さて私も準備しないと……と思った時、ふと気づいたことがあった。


あれ、そういえば


(レイナちゃん、あの時碧雅と勇人君の言葉がわかってたような……?)


かくいう私も原型の2人の言葉を無意識のうちに理解して話していて、無事レイナちゃんから疑問を抱かれていたらしい。
お互いポケモンと話せることを知ったのは次の日、旅立つ前に交換した電話でのやり取りのことでした。

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