捧げ物 | ナノ

あなたらしさを精一杯

「いやー今日も稼いだ稼いだ!皆お疲れ様」
『ああ』
『おう!』
『……今日はこれからどうするんだ?』
「この先の街にPCがあるらしいから、今日はそこで泊まろうかな」
『やったー!あたしミックスオレ飲みたーい!』
「はいはい」


本日もうちのバトルエースメンバーのおかげで資金を稼げた。うちには大食漢が2人も居るからね、食費を稼がないと。とある街のPCで部屋を確保しようと立ち寄ったところ、先に受付をしているトレーナーの後ろ姿に見覚えがあった。


「ナオト?」
「……あれ、レイナかい?」
「こんな所で会うなんて偶然だね」


やっぱりナオトだった。普段は私が話しかけられることが多いから驚いた様子のナオトは新鮮だな。肩に乗っていた笑理も嬉しそうに挨拶している。私も部屋を取って勇人達を預けたあとカフェスペースでお茶をすることに。先に席を取ってくれてるナオトを待たせちゃ悪いと急いでカフェに着くと、緋色君が人型になり席に誘導してくれた。


「皆は元気にしてるかい?」
「元気元気。緋色君も変わりなくて何より」
「まぁな。俺が風邪でも引いたら誰がコイツの面倒を見れるかってんだ」
「あぁ……」


確かに、ナオトは料理できな……苦手だもんね。茶化すように言う緋色君になんとも言えない表情で苦笑いをするナオトに何故ここに来たのかを尋ねた。


「ああ、なんでもこの街で面白い催しが開かれると聞いてね。天馬が見たいとせがむからやって来たんだ」
「へぇー。どんな催しなの?」
「“ポケモンなりきり大会”。知ってるか?」
『何それ!楽しそー!』


こういうことには真っ先に興味を示す笑理がキラキラと目を輝かせてる。でも私も気になるな、名前からして楽しそうだし。“ポケモンなりきり大会”とは、ポケモンが自分とは違うポケモンになりきり、そのなりきり度を競う大会らしい。明日の開催で、当日参加もOKらしくて……ってこの流れはもしや。


『レイナ!あたし出たい!』
「言うと思ったよ!」
「なんだお前ら、出るのか?」
「そうなのかい?なら応援しないとね」
「待って待って!まだこの街に着いたばかりだし準備も必要だし……!」
『……レイナは、イヤだった?』


うっ。そのうるうる目に弱いのを知っててやってるな笑理。でも私も逆らえないのが辛い。


『……実は私も興味があるんだ、レイナ。笑理の為もあるけど……ダメかな?』
「來夢まで……。ちなみに焔は」
『僕は皆が楽しかったらなんでもいいよ。ナオト達と一緒にいるのも楽しいしね』
「ううっ〜……ええいままよ!こうなったら目指すは優勝!」
『『やったー!!』』
『誠士達が戻ってきたらビックリしそうだね』


成り行きで参加することになったけど、完全ノープラン。でもピュアトリオの嬉しそうな笑顔が見られたから、まあいいかな。




◇◆◇




「何、衣装だと?」
「そうなんだ。明日の昼頃までになんとかしないと……」
「……笑理は何になりきるつもりなんだ」
『えっとね、』
「ーー成程。レイナ、材料はあるか」
「笑理に事前になりきりたいのを聞いて買ってきてあるけど、どう?」
「…………これなら間に合うか」


裁縫が得意な幸矢が居てくれて本当に助かった。時間が惜しいみたいで幸矢は頭の中で簡単に完成図を想像し、手早く針を進めていく。なりきり大会が開催されるからかミシンもレンタルしてたので、借りてくると今度は慣れた手つきでミシンを使い始めた。す、凄い。
勇人が生地を眺めながら懐かしそうな顔を浮かべていた。


「その大会なら俺もじーさんばーさんと一緒にテレビで見た事があるぜ。毎年やってるみたいで中々面白かったな」
「て、テレビ!?テレビに出るの!?」
「コンテストに引き続きまたテレビに出ることになっちゃうね」
「やったじゃねぇかレイナ、有名人だぜ」
「良くないよ!恥ずかしい……」
「アンタら、気が散るから向こうでやっててくれないか」


幸矢に注意を受けたところでナオトの部屋で食事を作っていた誠士が呼びに来る。今晩はナオト達一行と一緒だ。幸矢は衣装作りに専念したいみたいで、誠士に自分の分を取り分けてもらうよう頼んでいた。


「大変だな。私にできることがあればいつでも言ってくれ」
「悪いな。なら追加で飲み物も頼んでいいか」
「サイコソーダだな、分かった」
「後で手伝いに来るね」
「わ、私も手伝うよ」
「あたしも!」
「……俺が好きでやっているだけだ。気にせず早く行ったらどうだ」


……うん、あれは照れ隠しだな。小さく笑いながらナオト達の部屋へと向かう。ドアを開けると良い香りと共にいらっしゃいとナオトがお出迎えだ。ベッドでは澪君がスヤスヤと寝ていて、天馬君は焔と盛りつけを手伝っている。勇人ら疾風君と気が合うみたいで一目散に駆けていった。お互いバトルジャンキーだもんね。


「揃ったな?今日はたらふく食ってけよ」
「任せとけ!」
「待ってました!いただきまーす!」
「2人とも程々にね」
「わーってるって!」
「ホントかなぁ……」
「気にしないでくれよレイナ。誘ったのはこっちなんだから」


眉を下げ笑うナオトを見て、いたたまれない気持ちになる。確かに、せっかく厚意で誘ってくれたんだから楽しまないと逆に悪いよね。緋色君と誠士の2人の作った食事を堪能しながらナオトとの会話を楽しみ、仲間の和気あいあいとした光景を見守った。

明日は私と笑理が大会に参加することもあって、今日は早めにお開きとなった。準備を手伝うため來夢と笑理を連れて部屋に戻ると、幸也は図鑑を見ながら黙々と作業を進めていた。すご、あの短時間でほとんど終わってない!?ただの布だったそれはあるポケモンの皮のように形を形成していた。


「笑理、試しに原型に戻って着てみてくれ。サイズと着心地の確認がしたい」
「わぁ……!凄い可愛い!」
「笑理、着てみたら?」


原型に戻った笑理が衣装を身に纏う。クルクルと回って一回転。うん、身内贔屓で見なくても可愛い!


『すごーい!バッチリだよ!』
「……よし、あとは細かな部分の仕上げだな」
「流石に疲れたでしょ。私にも出来そうな部分があったら手伝うよ」
「アンタにできるのか?」


ジトと疑うような目を向けられる。確かに、お菓子作りならそれなりに自信があるけど、裁縫となると……。


『幸矢、あたしにやらせて!』


笑理が幸矢に力強い目で訴えた。


『あたしが参加したいって言い出したんだし、幸矢に全部任せ切りなんて無責任なことしたくないよ。あたしも裁縫得意じゃないけど……』
「…………。」


幸矢は黙って笑理を見つめていたかと思うと、「お前の得意とするものはなんだ」と笑理に問いかけた。


『えっ?』
「お前は人前に出ることを厭わない。着飾ることを好み、自分の雰囲気に合うよう上手く組み合わせることが出来る。俺はそういった事に長けているとは言えない。今もそれぞれの得意分野を活かしているだけだ」


幸矢が珍しく沢山喋ってる……!若干失礼なことを思ってしまったけど、笑理はコンテストや今回のなりきり大会みたいな華やかな舞台に出て、人前で披露することが得意……というか好きで、幸矢は元々手先が器用だから今回のような衣装作りが得意で……要は気にするなって言ってるってこと?相変わらず言葉が足りないけど、彼なりに笑理を案じていることはわかる。


「だが、どうしてもやりたいと言うなら指にケガをしない程度にな。難しい箇所は俺がやる」
『……うん!頑張る!』
(ここは2人に任せた方がいいかも……あ、)


そうだ!と頭に電球が浮かび來夢と共にキッチンへ。私は私なりに得意分野で2人を支えよう。來夢にも手伝ってもらってあるものを作る。


「レイナ、形はこれでいい?」
「うん。これで焼きあげよう」


しばらく経って出来上がったのはスコーン。これなら片手で食べられるし、ブリーのみとモモンのみの合わせジャムを付けてもらって糖分も取れる。ブリーのみは元いた世界だとブルーベリーに該当するみたいで、きっと目にも良いはずだ。
早速出来たてを差し入れると幸矢はともかく、笑理がとても嬉しそうに頬張ってくれて、良かったと笑みが零れた。來夢にもお疲れ様と特別にチョコチップ入りのスコーンをあげる。


「「…………。」」
「……あーもー!今日は特別!ただし1個だけね」


ドアの隙間から羨ましそうにこちらを覗く食べ盛りの2人にも分けることになり、片付けを終えて戻ってきた誠士も交えて結局みんなで夜遅いおやつの時間になってしまった。
けど、たまにはこういうのもいいかもしれない。




◇◆◇




《それではこれより、ポケモンなりきり大会の開催を宣言致しまーす!》
(うっ、やっぱ緊張するなぁ)


そして大会当日。私と笑理は参加者控え室に待機して、他の仲間はナオトたちと一緒に観客席で応援してくれている。衣装は無事完成したし、幸矢の頑張りに報いるためにも優勝を決めたいな。どの参加者のポケモンも正統派ななりきりもあればユニークなものもあり、なるほどこれは人気が出そうだと頷くのも納得だった。トランセルになりきるケムッソに、ヤドンになりきるコダック。グラエナになりきるウィンディはこの日のために毛をカットしたんだとか、気合いの入りようがすごい。

……そろそろ、私たちの出番だ。


「笑理、楽しんでこ!」
『うん!』
《続いてのなりきりさんは、レイナさんのパチリスです!》


司会の紹介と共に現れた私と、あるポケモンになりきった笑理。チャームな瞳に広めの耳、白いスカーフのようなものを身に纏う灰クリーム色のポケモン。


《これは!シンオウでは珍しいチラチーノです!特徴的なスカーフのように身に纏う白い体毛も見事に再現されています!》


パチリスのしっぽはチラチーノより大きい。けれどチラチーノの白い体毛と本体がほぼ同化しているので、そこに合わせて着ぐるみのように被ることで違和感は多少拭えてるんじゃないかな。恐るべし幸矢の手先。元々の顔立ちも似ているから、目元に合わせてサイズを調整したのて動くこともそこまで苦ではない、はず。
流石に空中回転とかはできないけど、ダンスを踊るように体毛を動かしアピールをする。ウケはなかなかいいんじゃないかな?観客の反応もそこそこに、私達はお辞儀してステージ外へと捌け控え室に戻った。


『ーー……はぁー……!ちょっとドキドキしたけど楽しかった!』
「お疲れ様笑理、後でミックスオレでも飲もう」
「レイナ、笑理!お疲れ様」


來夢が真っ先に控え室にやって来た。続けて他の仲間もそれぞれ労いの言葉をかけてくれる。ナオトたちは流石に人数が多いと迷惑だろうからと遠慮したらしい。別に構わなかったのに。


「やっぱり生で見るなりきり大会は面白ぇな!」
「ああ、俺も初めて見たが参考になるものが多かった」
(何の参考になったんだろう)
「僕も見てて楽しかったな。ナオト達ともどの子が良かったか話をしてて盛り上がったし」
「ちなみに優勝者には賞金とトロフィーが授与されるそうだ」
「優勝かぁ〜……」
「笑理のなりきりも完成度高かったし、いけるんじゃねえか?」


勇人が期待を込めて言うのと同時に審査が全て終わったみたいで、モニターに参加者の顔パネルが映し出された。


《今回のポケモンなりきり大会の入賞者の発表を致します!皆様今年も素晴らしいなりきりの数々でした!》


では早速、優勝者からーー


もしかすれば、一縷の望みをかけ手に力を入れた。


《ーーーー優勝は、リョウタさんのバリヤードのパーフェクトトレースです!》
「…………ダメだったか」


誠士の少し残念そうな声が響いた。


「仕方ないね、ほぼ飛び入りで参加したようなものだし」
「でも私達の中では、笑理とレイナが一番だよ」
「そうだぜ!寧ろ飛び入りであそこまでのクオリティだったんだ。他の奴らにも負けてなかったと思うぜ」
『……ごめんね、幸矢。せっかく作ってくれたのに』
「アンタが謝ることは無いだろ」
「イッシュのポケモンになりきってインパクトを得ようと思ったけど……そもそもイッシュのポケモンに馴染みがなかったらどれだけ似てるのか分からなかったかもね」
『確かにそうかも……』
《ではお次に、優秀賞の発表に移りたいと思います!優秀賞はーーーーレイナさんのパチリスで、天真爛漫なチラチーノです!》


…………え?
言われたことに理解が追いつかず、思わず瞬きを繰り返した。


「おい!やったじゃねえか笑理!」
『ゆ、優秀賞……?』
「すごいよ……!」
「やったね笑理!」


まさか優秀賞に入れるなんて!幸矢の衣装のクオリティと笑理のパフォーマンスの双方が合わさった結果だろうな!


「レイナ!」
「え、ナオト!?」


興奮した様子のナオトとその後ろからニヤニヤ笑いを浮かべながら緋色君がやって来た。ナオトに至っては若干息が切れている。急いでやって来たの?


「コイツ、レイナ達が優秀賞を取ったって発表を見て一目散にお前のところに向かったんだぜ」
「友人が大会で入賞したんだ。喜ばない理由が無いだろう。……おめでとう、レイナ」
「頑張ったのは笑理に幸矢だけど……ありがとう」


……な、なんかナオトに微笑まれて祝われるのはどこかむず痒いな……。
その後全ての発表が終わり、入賞者には景品が渡されるみたいで再びステージの中へ。私と笑理のペアには、可愛いペアリボンがプレゼントされた。

無事大会も閉会式を終え、会場で余韻に浸りながら皆と喜びを分かち合う。今日はお祝いに笑理の好きなケーキを作ってあげようかな。あと夕飯は幸矢の好きなおかずにしてもらおう。


「あの、すみません」


談笑していたところに突然マイクを持った女の人に話しかけられた。女の人の後ろにはカメラマンがいて……ま、まさか。


「わたくしテレビコトブキの者なのですが、今お時間よろしいでしょうか?あなたは優秀賞を獲得されたレイナさんですよね?お時間があればインタビューをさせて頂きたいのですが……」
「はーい!喜んで!」
「って笑理!?」


早速擬人化してインタビュー受けてる!?衣装を作った幸矢もいつの間にか捕まってるし!この順番なら次は……と青ざめているとインタビュアーの目線はいつの間にか隣にいたナオトの方へ。私とナオトを交互に見て、何か勘違いをしたらしいインタビュアーは微笑ましい表情を浮かべた。


「なるほど、そういう事でしたか。おふたりの邪魔をしてしまって申し訳ありません。レイナさん、この度は優秀賞受賞おめでとうございます。素敵な彼氏さんに祝われて良かったですね!」
「か、彼氏!?」


いやいやいや!全力で違うことを伝えナオトにも同意求めるとナオトは顔が若干赤くなりながら「か、彼女とはその……友人です!」と反論していた。インタビュアーはその光景を見て口ではそうですかと言いながらも目は温かい目をしていた。信じてないなこれは!

話題を変えるためインタビューを受けたが、まさかこのやり取りが既にカメラに撮られ放送されるとは露知らず。




一連の流れをテレビで見たこの世界の友達にものすっっっっごく楽しそうな顔で詰め寄られ恥ずかしい思いをするのはまた別の話。

prev / next

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -