捧げ物 | ナノ

橙色メモリー

「なん……だと……」


新年最初の研究所での朝を迎え、緑炎お手製のお雑煮とお節を堪能した。いつの間に作り方を覚えたんだろうと不思議だったけどこの前シンオウに行った時に紅眞君から教わったんだって。雅がとても感激していたのを覚えている。今年は時間が無くて市販の物を使っちゃったから来年は手作りに挑むと秘かに燃えていた。
カロスは神社にお参りとかの文化はまだ浸透してないみたいで、各々家でゆっくりと時間を過ごすそうだ。それに習い私も過去に撮った写真をアルバムに整理していると龍矢が目ガン開きで一枚の写真を見ながら冒頭の言葉を発した。一緒に写真をまとめていた蒼真が首を傾げる。


「……龍矢、どうしたの……?」
「フユカちゃん!これ何!?」
「何って……あ、懐かしー」


それはレイナとユイと皆でアローラに行った時の写真だった。浴衣を着てめかしこんだ3人が花火をバックに撮ったもの。うん、白刃が撮ってくれたんだけどレイナもユイもいい顔してる。私も写ってるのが恥ずかしいけど。これを見た水姉さんにも「来年は絶対私とも行きましょ!約束よ!」って物凄い勢いで両肩を掴まれながら言われたっけ。


「今だけ仲間になった機会が遅かった俺を憎く思うよフユカちゃん。てことは、消去法でこの子がレイナちゃんか」
「そうだよ。ユイやナオトと同じシンオウを旅してる子」
「ふむふむ……この子も2人とジャンルが違えどその良さがまたそそる……」
「姫の友人をそのような目で見るな」
「あだッ!?」


真剣な顔で写真を眺める龍矢の後頭部に白刃の手刀が命中。あ、買い物から帰ってきたんだね。おかえりと声をかけるとすぐさま姿勢をただし、恭しく「戻りました、姫」と一礼する。白刃の後ろの玄関先ではガヤガヤと話し声がする。


「ただいまー!ミアレガレット無事ゲットー!」
「ユイもおかえり。久々のミアレシティはどうだった?」
「どこ歩いてるか全然分からなかった。白刃君がいなかったら迷子になってたと思う」
『人も大勢いたしなー。いっぱい買ってきたからおやつに皆で食おうぜ』
『これがミアレガレット……。甘い香りが食欲をそそりますね』


そう。大晦日をシンオウで過ごしカロスに戻ってきた際にせっかくだからとプラターヌ博士がユイをカロスに招待したのだ。ナナカマト博士が勧めるのもあってかユイも断ることなく一緒にカロスまで来てくれて、こうして束の間の一時を過ごしている。私としても友達と一緒に過ごせるのは楽しいし大歓迎!
ちなみに悠冬と雅は璃珀さんと一緒に街を散歩中で、碧雅君は研究所の本を読み漁っている。
皆が戻ってきたところで丁度お昼の時間になり、緑炎と紅眞君の用意した昼食を食べながらテレビを見てワイワイと楽しい時間を過ごした。

そしてふと、ユイがとあることを言い出したのである。


「え?バトル?」
「う、うん。前にここに来た時もタッグバトルやったじゃない?あの時はフユカと組んだから、今度はフユカとバトルしてみたいなぁって……」
「おや。2人でポケモンバトルでもするのかい?」
「プラターヌ博士!?」


新年にも関わらず研究に勤しむプラターヌ博士は正に研究者の鑑だ。丁度休憩しようと思っていたところで私たちの会話が聞こえてきたみたい。アレックスさんから水姉さんの体調がだいぶ良くなったので、今日中には研究所に戻ると連絡があったことを伝えてくれた。緋翠君の淹れた紅茶を飲みながらユイが博士に先程の内容を説明していると、博士の目が心無しか段々と輝いてきているような……。


「いいじゃないか!シンオウのポケモンと戦える機会なんてそうそう無いし、ユイさんもメガシンカを使えるフユカさんと戦うことで新しい経験を得ることができる。双方にとって実のあるバトルになると思うよ」
「……うん。せっかくだからやろうかな」
「ホント!?ありがとう!」


ユイがとても嬉しそうな顔で笑ってくれるので、こちらも自然とつられて微笑んでしまう。それにしてもユイってそこまでバトルに積極的じゃなかった印象がするけど、旅の中で何か心境の変化があったのかな。

そして研究所の外にあるバトルフィールドに出て、今回のバトルのルールを決める。ユイは手持ちが4体、対してこちらは6体なので、ユイは交換ありで私は4体を任意で選べる勝ち抜きというルールで行うことになった。審判は息抜きがてらプラターヌ博士が務めてくれる。互いに全員をボールに入れ、どこか緊張した面持ちのユイと向かい合う。そういえばユイとバトルするのは初めてだなぁ。研究所のポケモン達が『がんばれー!』と私達を応援してくれている。フユカとユイが言葉を発した。


「ごめんね。なんか付き合ってもらっちゃって」
「ううん。私も楽しみだからさ!」
「……ありがとう。私もだいぶ勉強して知識がついてきたと思うから、今日は思い切り楽しめたらいいな」
「2人とも準備はいいかい?それじゃあーー」


バトル、スタート!


プラターヌ博士の声がフィールドに響いた。先鋒で私が繰り出したのは雅。ユイは緋翠君を出した。ビビヨンとラルトス、相性の分はこちらにある。


『緋翠が相手ですね。お手柔らかにお願いしますわ』
『こちらこそ、共に主人のために全力を尽くしましょう』


2人とも互いに頭を下げる。丁寧敬語コンビだ……。先発はユイからと事前に決めてあり、ひかりのかべを展開しこちらの技の威力を抑えに来る。こちらはセオリー通り、抜群技で攻めさせてもらうよ!


「雅、むしのさざめき!」
「かげぶんしんで惑わせて!」


羽を振るわせ強烈な音波が緋翠君に襲いかかる。たくさんのラルトスの分身が雅を囲うが一周するよう指示を出し雅がその場で回転をするとむしのさざめきも雅を中心とし命中範囲が広がる。威力は落ちてるけど技は確実に緋翠君に当たった。


「大丈夫!?」
『……ええ。問題ありません』
「雅、あの技出すよ。力を貯めて」
『分かりましたわ』


今日は天気がいいこともあり、光の吸収がより多いように見える。雅の頭上に白い光が集まり、太陽の光を技のエネルギーに変換する。……威力は高いけどやっぱりタメが長いのが玉に瑕だな。ユイも繰り出そうとしてる技に気付き、どう対応するか考えていた。その間にエネルギーは十分に溜まり、いつでも発射できる用意が整った。


「雅、ソーラービーム!」
『えぇ!』
「緋翠、サイコキネシスで向きを変えて」
『……!かしこまりました』
『っ!きゃぁ!』


ソーラービームを受け止めるのではなく、かといって避ける訳でもない。サイコキネシスで雅の向きを下向きにすることでソーラービームは地面に直撃し、その勢いで雅が空中に舞う。なるほど、こんなやり方もあったんだなぁ。……ってやばい。


「もう一度サイコキネシス!」
「雅、まもる!」


危ない危ない。モロに技をぶつけられるところだった。体勢を整えた雅がもう一度むしのさざめきをぶつけ、効果抜群なこともあって緋翠君は戦闘不能になった。……その直前になにか技を出した素振りがあったのが気になるけど、まずはこちらが一勝。


「雅、ありがとう!」
『いえ。相性が良かっただけですわ』
「お疲れ様緋翠。ゆっくり休んでて」
『……はい。申し訳ありません』
「ううん、十分だよ。……行くよ、璃珀」


次にユイが繰り出したのは璃珀さん。やっぱりミロカロスってほんとに綺麗だよね。『よろしく頼むよ、雅さん』と穏やかに振る舞っているけど油断はできない。ここはまたタイミングを伺ってソーラービームで……


「璃珀、れいとうビーム!」
「っ雅、避けて!」


先程の空中に飛ばされたダメージがあったのか。いつもより避けるタイミングが遅かったため雅はれいとうビームを受けてしまいそのまま戦闘不能になってしまった。労いの言葉をかけ雅をボールに戻す。それじゃあ次は……さっきから出せ出せオーラを出してボールを揺らす彼にしようか。


「次は龍矢君だね。璃珀、いける?」
『勿論。よろしくね、龍矢くん』
『雅ちゃんの仇は絶対俺がとってあげるからね!で、雅ちゃんもし勝ったら俺とデートしてくれる?』
「こら、雅を困らせない」
『……ふふっ。ならご主人、もし勝ったら俺と一緒に出かけようか』
「し、しません」
『カロスの素敵なカフェ、知ってるよ?ご主人好みの可愛いケーキがあるんだけど』
「……うぐぐ」


今度はある意味似た者コンビ同士の対決。『女の子と戦うのは俺の主義に反するから、璃珀なら問題ナシ!』と龍矢もやる気満々だ。コウモリのような翼を鉄のように固く鈍く光らせた、はがねのつばさが璃珀さんに襲いかかる。
ミロカロスは特防が高いけど防御は並だったはず。なのに璃珀さんは避けることもせずはがねのつばさをその身に受ける。


「璃珀、大丈夫?」
『ああ。……緋翠くんの頑張りは無駄にしないよ』
(そっか。あの時“リフレクター”を……!)


そういうことか。緋翠君を先鋒で繰り出した意図を理解しこちらの状況が危ういことに気づく。璃珀さんはれいとうビームを持ってるからオンバットの龍矢に効果は抜群だ。更に緋翠君のひかりのかべとリフレクターの効果で耐久力も上がってるし……ここは、一か八か。地上なら満足に動くことは出来ないはず。


「旋回しながらりゅうのいぶき!」
『……そういうことね。りょーかい!』


小柄なオンバットの動きを比較的身体の大きいミロカロスが追うことは難しい。威力は控えめだけど攻撃は確実に命中している。ユイもこの状況を打破しようとアクアテールを指示したけれど水の飛沫を龍矢は上手くかわす。
そして狙い通り、璃珀さんの顔が一瞬歪んだ。


『ごめんねご主人。ちょっと痺れちゃった』
「……あ、まひか!」
『いやー流石に飛び回りすぎてちょっと疲れたわ』
「ナイス龍矢!」


確率は高くなかったけど、数打ちゃ当たる理論で攻めてよかった!まひになることで行動と素早さを少しでも減らせればこっちの勝率も上がる。けどミロカロスの特性“ふしぎなうろこ”も発動するから、より防御は硬くなるんだけどね。でもこの機会を逃すつもりは無い。はがねのつばさで再度攻撃を仕掛ける。


『悪いね璃珀、この勝利俺が貰うよ!』
『うん、捕まえた』
『へ?』


ミロカロスの尾に絡まれ、龍矢が捕まった。そのまま顔が近付き璃珀さんの目が妖しげな色に光る。『お返しだよ』と告げると龍矢は徐々に尾への抵抗を無くし、そのまま眠ったように動かなくなってしまった。しまった、さいみんじゅつで寝ちゃったんだ……!璃珀さんはそのまま口元から冷気をたちこませ、れいとうビームを食らわそうとしている。やばい!
すると璃珀さんは技を放つのをやめ、龍矢の拘束を解いた。


「なんてね。今日はあくまで嗜む程度だ」


はい、フユカさんと人型になった璃珀さんが眠った龍矢をこちらに渡してきた。一時バトルが中断になったが璃珀さんも結構なダメージを負い、龍矢もこのままでは戦闘続行は不可能。プラターヌ博士の判断で引き分けということになった。まあ今回はあくまで楽しむことを目的としてるからね。


『……フユカ、ちゃん……え……そんなコト、いいのぉ……?』
(どんな夢見てるのコイツは!)
「フユカさん。龍矢くんは俺が預かろうか、あとは彼らのボールも」


そう指差すのは雅と今回はお休みしてもらおうとしている2人のボールだった。確かに、この2人なら外に出て見てもらいたいとは思っていたんだけど、どうして分かったんだろう。ただユイにヒントを与える形になるので最後のバトルで出して欲しいことを伝えるとそれは勿論と快く承諾してくれた。
ユイの元へ帰る途中、璃珀さんがこちらを顔半分だけ振り向いた。その顔はどこか確信めいた楽しそうな顔で。


「不思議そうな顔をしていたけど、フユカさんなら絶対に彼らを、“彼”を残すだろう?そこはご主人と同じだからね」


楽しいバトルをどうもありがとうと軽く手を挙げ、サラサラの髪を靡かせて戻っていった。完全に心を読まれてる……。


「璃珀、ありがとう。今痺れてる……よね?」
「少しね。でも治療はみんなと一緒で構わないよ。ご主人もお疲れ様、いい指示だったよ」


ぽん、と頭を軽く撫でて璃珀さんはそのまま観客側へ。緋翠君のボールも預かったみたいで雅と緋翠君が出てきた。互いに楽しめたようで話が弾んでいる。そういえば戦闘不能になっても瀕死ではないんだよね。


「さて、それじゃあ続きといこうか」


プラターヌ博士の声で雰囲気は再び緊迫したものへ。互いに今はイーブン。お互いボールを持ち、フィールドへ高く投げ上げる。


「白刃、Saisir la victoire!」
「お願い、紅眞!」
『白刃か〜、よろしくな!』
『姫のご期待に沿うために、全力で戦わせてもらうぞ紅眞』


…………来た。恐らく今回のバトルで一番の鬼門は紅眞君だ。ワカシャモの紅眞君は私の手持ちのほとんどに弱点を突くことが出来る。ニャスパーの蒼真かオンバットの龍矢が相性が良いけど、この後に控えている碧雅君はシャドーボールを覚えている。更にこおりタイプだし龍矢とも相性が悪い。メガシンカで能力を増し、みずのはどうを覚えている白刃で挑むことにした。
『フユカも、よろしくなー!』とにかっと笑う紅眞君だがユイの仲間の中ではバトルに対する情熱は高い。息を吐き、開いた次の瞬間彼の目は熱く燃えていた。
いつの間にかごくりと唾を飲んでいた。白刃が落ち着かせるように私に声を投げかける。


『姫、ご安心ください。必ずや貴女に勝利を捧げましょう』
「勿論頑張ろう!白刃、つじぎり!」
「紅眞、ひのこ!」


小さな火の玉をものともせず白刃は紅眞君に真っ直ぐ攻め上がっていく。にどげりで相殺しようとしたが元の威力はつじぎりの方が高いからか、紅眞君は力負けして技を食らってしまった。こちらが有利なように見えるけど、彼の本領はここからだ。


「ほのおのうず!白刃君を囲って動きを制限するよ!」
『おう!』
「白刃、よく見て。スピードなら白刃も負けてないよ」
『承知』


とは言ったものの、やっぱり特性“かそく”はチートだと思う。時間が経つ事に速さが増してくんだもん。白刃は追えても私が追えない。紅眞君は得意のスピードを惜しげも無く発揮し私達を翻弄しながら空中でほのおのうずを放った。白刃は炎の檻に閉じ込められてしまう。


「そろそろ潮時でしょうか」
「どちらも応援したくなりますね」
「……雅さんの読みが当たったね。フユカさんを見てご覧」

「白刃、行くよ!」
『……!はい』
「紅眞、アレが来るよ」
『よっしゃ。それ待ってたんだ!ギガシンカ!』
「なんで嬉しそうにしてるの!?警戒してね!?あとギガシンカじゃなくてメガシンカ!」


観客側とユイたちの会話をBGMに、声を高々にあげてメガストーンが光り出す。炎に囲まれて虹色に輝く光が解けた先には、メガシンカした白刃が立っていた。みずのはどうでほのおのうずを打ち消し、凛とした佇まいで紅眞君と向き合った。


『おぉー。やっぱかっけぇなそれ!俺もメガシンカしてみてぇなー』
『バシャーモに進化すれば可能だそうだ。お前の場合はまずは進化することからだな』
『なるほどな!んじゃ、まずはお前に勝ってからだ』
『……よく言う。俺も姫のため、この勝負勝たせてもらう』
「白刃、みずのはどう!」
「避けてにどげり!」


みずのはどうを連投するがやはり更に素早くなった紅眞君には避けられる。白刃の真下に滑り込むようにスライディングした紅眞君がにどげりを繰り出し白刃が浮いた。かそくで勢いを増したにどげりはメガシンカで能力が上がってるとはいえ白刃にもダメージは大きい。でもタダで転びはしない。確実に当てられる距離でみずのはどうが直撃だ。膝を着いたけど彼の闘志はまだ燃えている。


「紅眞、この前覚えたやついくよ!ブレイズキック!」
「つじぎりで迎え撃つ!」


炎を纏った蹴りと黒い斬撃がぶつかる。砂埃が舞い互いに技の衝撃でそれぞれの主人の前まで下がっていた。白刃も紅眞君も体力は少なくなっているようで息が上がっている。
……これは、次の攻撃で決着がつきそう。ユイはもう一度ブレイズキックを繰り出した。それならこっちは!


「みずのはどうを口の前で溜め込んで!」
『!?……分かりました』


紅眞君の速さには敵わない。けどこちらに接近して技を打ち込みに来るのなら、その瞬間を狙えばいい。タイミングを見て……来た!


「発射!」
『うおっ!?』
「紅眞!」


よし、狙い通り!速さは長所であり短所でもある。素早く動き相手を翻弄できる分、視界は動体視力が低下してぼやけているはずだ。白刃の真ん前に現れた紅眞君はみずのはどうがあることに気づかずに動揺し、技は命中した。爆発音と共に水の蒸発した白い湯気がたちこめ、煙が晴れると紅眞君は倒れていた。


「……いやぁ、これは手に汗握るバトルだったね」


プラターヌ博士の感嘆の声が静かに響いた。やった、白刃!と思ったのも束の間、白刃はメガシンカが解けその場に足を崩し倒れ込んだ。互いに駆け寄り仲間の無事を確認する。


『申し訳ありません……姫。最後に技をにどげりに変えられ避けることが出来ませんでした』
「ううん、よくやったよ。ありがとう」
『っかぁー!やっぱみず技って冷たいし寒いし俺無理ー!』
「紅眞もお疲れ様。かっこよかったよ」
「両者戦闘不能。ということで引き分けだね」


これで残りは1体。ユイは勿論、私が誰を繰り出すのか皆わかってるよね。白刃達が観客側に向かったのを確認し最後のボールを投げる。グレイシアとジュプトルが現れ、青と緑の相棒バトルだ。


『やっぱりお前とか。だが遠慮はしねぇ、お前も全力でかかって来い』
『……何そのラスボスのようなセリフ』
「ユイ、今日はバトルに誘ってくれてありがとう。今すっごく楽しいよ!」
「ほ、ほんと?私もフルバトルってやったこと無かったから楽しい!」

「フユカー!緑炎ー!頑張ってー!」
「ユイと碧雅も……がんばれ……」
「この後のバトルが終わったらミアレガレットを頂きましょうか。どちらが勝っても恨みっこ無しですよ」
「ええ勿論。今日は本当に楽しいバトルをさせて頂きましたから」
『……むにゃ…………あれ、俺何してたんだっけ』
「龍矢!おはよー!」
「あれ、悠冬?……なんかすごくいい夢を見ていたような……なんだっけ?」
「ほら、ご主人達が動き出すよ」

「碧雅、こおりのつぶて!」
「リーフブレードで全部切って!」


先手必勝。碧雅君のこおりのつぶてが緑炎に降り注ぐが流石は相棒。落ち着き払った態度でリーフブレードで全ての礫を粉々に切り、太陽に照らされた氷がキラキラと輝く。今度はこちらから、あなをほるで地中に潜った緑炎に耳を立て音を探る碧雅君。


『ユイ。ここは封じた方が早い』
「私も思った!地面にれいとうビーム!」
「ジュプトルの速さを舐めないでね!緑炎!」
『一足遅かったな』


かそく状態の紅眞君には敵わないけど、ジュプトルも相当素早いんだからね!地面がスケートリンク化する前に攻撃が碧雅君に命中する。攻撃を食らってもれいとうビームは放たれ、フィールドは氷の床に変わってしまった。これは、厄介かも。


『……チッ。動きにくいな』
「良く捉えれば緑炎も更に速くなる……とかは?」
『それもあるが氷はそもそも相性が悪い。早めにカタをつけたいところだな』
『ふぅ。やっぱこの方が落ち着く』
「ねぇねぇ!これバトルが終わったらみんなでスケートとかできないかな!?」
『滑らかに見えてるけど、整地してないんだからでこぼこしてるに決まってるでしょ。馬鹿なの?』


あ、スケート。確かに楽しそうかもね。ユイたちの会話に小さく笑いながら次の作戦を考えていた。悠冬達の声援を受けながら、互いに技を繰り出す。


「れいとうビーム!」
「エナジーボール!」


翡翠色の玉と水色の光線が放たれ、ぶつかったそれはまるでポケモンコンテストの演技のように美しい光となってフィールドに降り注いだ。皆がわぁっと歓声をあげる。雅が特にうっとりしているのが女の子らしいなぁと感じた。
私も感動したいけどまだバトルは続いている。ユイもそれは同じみたいで真剣な顔で次の技を考えていた。そして作戦が浮かんだら楽しそうな顔で、碧雅君と共に挑むのだ。私もそれに応えるように、緑炎と心を通わせて。


「  」
「  」


ああ、この時間がずっと続けばいいのに。




◇◆◇




「……にしても、水恋のフユカレーダーはホント正確だよな。俺には真似出来ねぇ」
「あら何言ってるのよ。あんなにバトルフィールドが騒いでたら何かあるのは当然じゃない」
「いやそれは分かるぞ?でもな、あのバトルの最中にフユカ一目散に駆け寄るお前がな?」
「だって!年末会えなかったんだもの!」


ねーと抱きつく水姉さんに苦笑いしつつ、烈を宥める。言葉には出さなかったけど烈は明らかに水姉さんに引いていた。
あの後のバトルは突如私の名前を叫び抱き着いてきた水姉さんの乱入で中断となり、結果はお預け。今は皆を回復させた後再び団欒の一時になった。というかアレックスさん達戻ってくるの早くない?ユイは明日帰る予定なので荷造りをしている。


「にしてもお前ら、緑炎から話を聞いたが中々いいバトルしたじゃねぇか。これからが楽しみじゃねーの」
「またバトルすることになったら私は全力でフユカを応援するわね!任せてちょうだい」
「あはは……あまり目立つと恥ずかしいから程々にね?」
「なら俺はユイを応援するか。おい、絶対水恋に負けんな」
「ひゃい!?」
「ちょっと烈。女の子にそんな怖い言葉遣いと顔で話しかけんじゃないわよユイちゃんが怯えてるでしょ!」
(ていうか理由が水姉さんに負けるなって)


乾いた笑いを浮かべながらユイを見た。またバトルをしたいというのは私も思う。今日は出られなかった蒼真や悠冬。これから仲間になるであろうユイの新しい仲間も交えて。あ、欲を言えばレイナやナオトともまたバトルしたいなぁ。

いつか実現したい未来に思いを馳せつつ、私は変わらぬ日常の光景を見つめた。暖かい心を持つ人達に囲まれたこの空間は、きっとどこにでもあるのかもしれないけど、きっと何よりもかけがえのないもの。


「おいフユカ。ユイも、そろそろ行くぞ」


今夜は贅沢に外食だ。緑炎に呼ばれ玄関に向かうユイに続くよう、私はアルバムに新たに追加された1枚の写真を挟み研究所を後にした。

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