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「晶は擬人化しないの?」


ただ今PCの宿泊部屋。朝食を食べる時も晶は原型のまま食べていて、人型の方が楽だろうにどうしてなんだろうと疑問を抱いていた。片付けを手伝いながらふと気になったので聞いてみると、こっちの方が楽だからと返答した。それに対してすぐさま反応したのは隣で皿を拭いていた紅眞。


「嘘つけ。明らかに食べづらそうにしてたじゃんか」
「チルタリスのクチバシって小さくて丸いしね」
「擬人化ができない訳では無いんでしたっけ」
『……お前たちには関係ないだろう。というか、僕たちの食事なんてポケモンフーズで充分じゃないか』
「いやあるって。みんなで同じ物食べた方が家族って感じがして良いじゃんか!」
『……くだらん』


うーん。予想はしていたけどまだまだ仲良くなるには時間がかかりそう。少しづつ、晶のペースで馴染んでくれたら嬉しいな。


「それよりも今日はジム戦なんだろう。誰を出すかは決めたのかい、ご主人?」


今日は待ちに待ったジム戦が控えている。相手はゴースト使いのメリッサさん。相性の面では緋翠が不利で、紅眞のかくとう技は効果が無い。打点を取れるとしたら碧雅のシャドーボールくらいじゃないかな。でも碧雅にはずっとバトルに出てもらってるし、たまにはゆっくり観戦してもらいたい気持ちもある。


「私としては緋翠と璃珀のジム戦デビューを飾りたかったんだけど……相性が悪いから緋翠は観戦に回した方がいいかな」
「……お気持ちはありがたいのですが、マスター。私は試合に出てみたいです」
「えっ?」


まさか緋翠からこの発言が出るとは思わなかった。思い詰めた表情をしていて、何かを悔やんでるような。


「ハクタイシティで私は紅眞を守れませんでした。自分から皆様の仲間になりたいと申し出ておきながら、仲間を守れずギンガ団に対して何も出来なかった自分が情けないんです」
「緋翠……」
「ジムリーダーの使用するポケモンはゴーストタイプだと伺っています。相性はこちらが不利、普段よりも慎重に戦わざるを得ないことは分かっています。指示を下すマスターに負担をかけてしまうことも。ですが……」
「……そこまで言われちゃったら、出さないわけにはいかないよね」


ハクタイシティでの一件を余程気にしてるんだな。守れなかったって言ってるけど、そんな事ないのに。ステラから紅眞を守ったり、爆発を受けずに済んだのも緋翠のお陰だったのに。
普段控えめな緋翠がここまで言うんだから、トレーナーとしてはその気持ちを汲んであげるべきだと思った。それに今回はジム戦、公式戦だ。少なくともギンガ団の時のような危険な目には遭わないはずだし、お互いいい経験になるだろう。


「それじゃ、緋翠と璃珀は決定ね!頑張ろー!」


要求が通ると思わなかったらしい緋翠は驚いた顔をしていたが嬉しそうにきらきらと瞳を輝かせた。


「……はい!ありがとうございます!」
「期待に応えるとしようか。ところで晶くんはどうするんだい」
「流石に昨日の今日仲間になったばかりだし、晶には私たちの雰囲気に慣れてもらうところから始めようと思って今回はお休みだよ」
『賢明な判断だな。ボロ負けして無様な醜態を晒すなよちんちくりん』
「晒しませーん!」




◇◆◇




「いきますよ、ヨマワル!」
「璃珀、お願い!」


場所は変わってヨスガジム。メリッサさんと挨拶を交わした後ジム戦が始まった。会うやいなや、「お久しぶりデース!」と熱烈なハグを頂いてしまった。バトルが始まるとにこやかな表情から一変、好戦的で挑戦的なジムリーダーの顔が姿を現した。
メリッサさんの初手はヨマワル。お化けのような見た目のポケモンで奥の赤い一つ目が髑髏の顔越しにこちらを覗く。ちょ、ちょっと怖いかも……。


「ワォ!珍しいポケモンを連れているのデスね!」


メリッサさんの感嘆の声が響く。色違いのミロカロスはやっぱり珍しいんだな。


「ヨマワル、まずはおにびで確実にダメージを与えまショウ」
『キヒヒヒー!』
「アクアテールでおにびを消して!」
『OK』


無数の紫色の小さな火の玉が輪を作り璃珀の周りを漂うが、ミロカロスの金の尾から放たれたアクアテールが火を打ち消した。次にねっとうを放ち、逆にこちらがやけど効果を狙う。技は命中したがやけどにはならなかったみたいだ。


「ヨマワル、背後からかげうちデス」


ヨマワルの影が伸び、それは璃珀の影と重なる。陸上では満足に動くことの出来ない璃珀は避けられず、影に消えたヨマワルが背後から現れ攻撃を喰らってしまった。


『っ……うん、流石に無傷は無理だったね……ただ、』
「近付いたこの機会は逃さないよね!璃珀、さいみんじゅつ!」


やけど、ねむり、まひ、こおり。ポケモンはバトル中に技の効果で様々な状態異常になることをこの前学んだ。ただ持たせる道具によっては故意にその状態を起こすものもあるらしいけど。璃珀の得意分野はこの状態異常の付与。やけどならねっとう、ねむりならさいみんじゅつ。まひならのしかかり、こおりなられいとうビーム。他にもメロメロやあやしいひかりも使えるみたいだけど、ちょっと私の頭が混乱しそう。
見事さいみんじゅつにかかったヨマワルは眠ってしまい、動けないヨマワルにトドメのねっとうが決まった。


「ヨマワル、戦闘不能。ミロカロスの勝ち!」


まずは、一勝!


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