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「おーい。バッジやーい」
「呼んだってバッジが出てくるわけないでしょ」
「うっ、すいません」
「にしても、ここ草むら多いな〜」
「あたし、向こうの方探してみますね」


そう言い草むらの奥へ進んでいくヒカリちゃん。予定をずらして私たちに付き合ってくれる彼女は本当にいい子だと思う。
私たちはサイクリングロードの下にある206番道路に来ていた。何故そうなったのか説明すると昨日のバッジを無くしたことが判明した頃まで遡ることになる。




「バッジって……ジムバッジ?」
「う、うん」
「無くしたって、落としたってこと?」
「……かも」
「……マジか」
「ご、ごめんなさいいぃ!」


まさか私もバッジが無いとは思わなくて、たまらずみんなに向かってまだ怒られてもないけど土下座をする。ヒカリちゃんの驚いた声とポッチャマ君の『中々キレのある土下座なのだ』と感心する声が聞こえる。
言われたことを反芻するのに時間がかかってるみたいで、みんなどこか呆然としていた。その中で碧雅が平静を取り戻しコホンと軽く咳払いをした後、起きたことは仕方ないからどこで無くしたか思い当たる箇所を探ろうと舵を切った。


「まあ心当たりがあるとすれば十中八九、あの時じゃない?サイクリングロードの」
「あの爆走運転な!」
「爆走って……そんなに速かったかな?」
「確かにあの時のスピードなら、仮にケースを落としたとしても気づかずスルーしてしまった可能性は否めませんね」
「ご主人もテンション昂ってたしね。誰かが気づいて声をかけようにも難しかっただろうし」


一番可能性が高いのはサイクリングロードってことか。明日はメリッサさんに挑む予定だったけどまずはバッジを見つけないとね。とりあえずみんなにはお詫びに好きな物何でも一つ買ってあげることにしよう。……あと自転車も安全運転を心がけよう。

そして一連の流れを見ていたヒカリちゃんも一緒に探してくれることになり次の日、サイクリングロードの受付で落し物がなかったか尋ねる。けれど返ってきたのはNoという答え。また振り出しに戻るのかと落胆しかけたけど、受付の次の言葉で一筋の光明が差した。


「もしかしたら206番道路に落ちちゃったのかもしれないね。あそこは君みたいに坂道ではしゃいだトレーナーの持ち物がよく落ちてることがあるから」


あと光り物が好きなひこうタイプのポケモンがサイクリングロードに落ちてる物を持ってっちゃうし。

苦笑い混じりに言うその表情から割とよく起こる事なのかなと感じつつも教えられた通りにサイクリングロードのゲート横から206番道路に入り、冒頭に繋がるという訳である。受付の人が渋めの顔で気をつけてねと言っていたのが気になるけど。


「それにしても本当に色んなものが落ちてますね」
「空のモンスターボールにキズぐすり。きのみもあるね」
「誰かさんと同じようなことして落としちゃったんじゃない」


碧雅の半分呆れ半分からかうような目がむず痒く刺さる。何も言い返せないのが辛い。視線を振り切ろうと草むらをかき分けてバッジを探しているとヒカリちゃんがこっちに駆け寄ってきた。


「ユイさーん!見つけましたよー!」
「ほんと!?」


本当に落ちてたなんて!もう一度ジムに行って事情を話せば替えをくれるかもしれないけど、これは碧雅たちと一緒に戦って手に入れた思い出だ。私の不注意が原因とはいえできればそれは遠慮したかった。少し汚れてしまったケースは紛れもなく私のものだった。
安堵してヒカリちゃんから受け取ろうと手を伸ばすが、ヒカリちゃんはふと何かを考える表情をした後徐々に視線が下に向いた。どうしたのか訝しんでいると突然顔を上げ、その顔はほのかに赤かった。「あ、あの!」とヒカリちゃんは意を決した様な表情で話し始めた。


「……その、……ユイちゃんって、呼んでもいい……かな?」
「…………へ?」
「〜〜っやっぱり大丈夫!」
「どどどどどどどうしたのヒカリちゃん!?」
「どもりすぎ」


碧雅の冷めたツッコミが流れるが問題はヒカリちゃんだ。いつも明るくて笑顔なその顔は恥ずかしそうに俯いている。ニット帽を深く被って顔を見えないようにしてるけど隠れてないぞ。“ユイちゃん”って呼んでもいいかって言ってたけど私は全然OKだよと伝えるとヒカリちゃんはぽつりぽつりと理由を語り始めた。


「あたし、友達はジュンやコウキみたいな男の子しかいなかったんです。フタバタウンってシンオウの中でも田舎だから歳の近い子が少なくて、女の子の友達に凄く憧れてて……。だからユイさんと知り合って、初めて会った時から友達になれたらなぁってずっと思ってて……!」
「…………。」
「……ユイさん?」
「か、」


かんわいぃぃぃぃ!!!!


思わず叫んでギュッと抱き着いてしまった。女の子らしい驚いた声をあげたヒカリちゃんだけど、手で押しのけたりすることなくえへへと笑っていた。私も釣られて鼻の下を伸ばしていると後頭部に衝撃が走る。碧雅が嘲笑を含んだ薄笑いで私にチョップをしたのだ。


「今この場にジュンサーさんがいなくて本当に良かったね。いたら変態として突き出してたよ」
「目が笑ってないですよ碧雅」
「ていうか俺、2人はもう友達だとばかり思ってたぞ」
「「え」」


二人でハモって顔を見合わせる。そんな風に見えてたのか。


「気付いたら勝手に仲良くなって、一緒にいる時間が増えて自然と友達になっていく……って感じじゃないのか?」
「コミュ力高男の紅眞に言われてもなぁ。紅眞って出会った者みな友達って感じじゃない?」
「流石の俺もギンガ団とかはお断りだけどな」
「まあまあ。でも俺も紅眞くんの意見に一理あるかな。2人の場合は元々気が合うみたいだしね」


再度顔を見合わせる私たち。そして互いにどちらからと言わず笑いだした。
そっか、もう既に友達だったんだ、私たち。


「これからもよろしく、ヒカリちゃん!」
「うん、ユイさ……ユイちゃん!」


ポッチャマ君の嬉しそうな『良かったな、ヒカリ』と小さい声が聞こえた気がした。


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