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「わぁ……!サイクリングロードってひろーい!ながーい!」


私たち……というより私は今、ヨスガシティに向かうためサイクリングロードにやって来た。自然豊かな大きな谷を通れるように造られたそれは、巨大なアスファルトの一本道。そしてそれを坂の上で見下ろす私の手元にはピカピカの自転車が。
実はハクタイシティの自転車屋さんのポケモンであるピッピがハクタイビルに捕らえられて、あの一件が偶然にもピッピを助けたことに繋がったらしい。そしてお店に伺った私たちに駆け寄るピッピの反応を見た気前のいい店主さんからタダで自転車をレンタルさせてもらえることとなったのだ。

ちなみに璃珀が仲間になったことを先日みんなに説明したところ、紅眞と緋翠は案の定素直に喜んでくれたけど、碧雅はやっぱりどこか複雑そうな様子だった。でも反対はせず「……まあ、よろしく」と挨拶をしてくれたから、大丈夫かな。


「下り坂か……それじゃ一気に行っちゃおう!」
『転ばないようお気をつけ下さいね、マスター』
「大丈夫大丈夫〜!」


自転車に乗るなんて久しぶりだから楽しみ!天気もいいしね!ペダルを思い切り踏み込み、風に乗って走る。下り坂なのでスピードは留まることを知らず、それと比例して私のテンションも上がっていく。


「キャッホーイ!」
『テンション高いな?』
「自転車乗るのって楽しくない?加速加速ー!」
『事故んなよー』


若干呆れたように警告する紅眞の声を皮切りに私はどんどんスピードを上げていく。びゅんびゅんと周りの景色が通り過ぎていき、気持ちいい風が吹き抜ける。しばらく経つと爽快感溢れる時間は終わりを告げ、出口が見えてきた。ああ、気持ち良かった。自転車を返却していざ、テンガン山へ!

するとボールから誰かが勝手に出てきた。目の前に差し出されたのは、手。キラキラオーラを携えながら璃珀が右手を差し出していた。


「それじゃ、俺がエスコートしようかご主人」
「善処しますね」


一刀両断。ていうかボールからポケモンって勝手に出て来れるんだ。転んだら危ないよという彼に対して大丈夫ですと返事し早足で歩き出すと、ゴツゴツした岩肌の道でつまづき転びかけ、璃珀に腕を掴まれ支えられた。言わんこっちゃないと眉を下げていたが口元は笑っていた。


「ほらね」
「…………すいません」


くそぅ。温かい目をしてるのがよりチクチク刺さる。どことなく子ども扱いされてる気がするんだけど気の所為?
すると今度は碧雅が飛び出してきた。璃珀に支えられてる私を見てため息とともに吐かれたのは鈍臭いという一言。う、うるさいやい!


「まあまあ碧雅くん、きみもそういじめないで」
「そういうお前は甘やかしすぎ」
「だって好きな子には優しくしてあげたくなるだろ?からかいたくもなるけどね」
「……え、お前本気なの」


怪訝な顔を向ける碧雅にも臆することなく「さあね。ここを越えたらヨスガシティはすぐそこだよ」と私の手を引き先導する璃珀。後ろから恐ろしい冷気が漂ってるのは気の所為ではないだろう。ちらりと横目で伺った璃珀の顔はいつもと同じような笑みだけどとても楽しそうな顔をしていて、まるで──


(……まさか、ね)


ふと頭によぎった可能性の一つを振り払った。


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