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◇◆◇




《  !》




……何か聞こえた、ような。

その声らしきものに導かれるようにゆっくりと目を開いた。広がるのは一面の黒。絵の具の色を全て出して、全てを混ぜ込んだような混沌とした色の空の下に僕は立っていた。マリンスノーのように小さな白い粒が空を疎らに舞っている。
この奇妙な空間にいたのは自分だけかと思っていたが、奥に光り輝く何者かが見えた。

目を惹き付けられるそれに誘われるように歩みを進めていくと、現れたのはおおよそ現代で見ることは無い和服の少年。
光っていると感じたのは彼の纏う物が黄を基調としていた為か。外見に似つかわしくない大人びた雰囲気を放つ少年の視線の先は、僕。
ここに来ることがわかっていたのか、表情は微動だにしない。人形のように静かに佇んでいたその口がゆっくりと動いた。


「おぬし、どうやってここへ来た」


どうやって?寧ろこっちが知りたい。ここがどこかも分からないし、そもそもお前は誰なんだ。
思ったことをそのまま返せば「ふむ。やはり、ただの偶然かのう」と一人勝手に納得しているようだった。


《……び……》


「……?」


また聞こえた。この声は誰だ。僅かにしか聞こえなかったその声には聞き覚えがあった。けれど、どこで聞いたのか、誰なのか思い出せない。記憶を辿り眉を顰めていると目の前の少年は話を続けた。


「心当たりはない、ということか。この声に」
「……その前に、君は誰なわけ」
「ふふ。知らない方が良いこともあるぞ、童」


どう考えてもそっちの方が童だろ。と突っ込みたくなったがこの少年の纏う空気がその言葉を飲み込ませた。見た目は確かに10代の小柄な少年だが、その目は純新無垢な子どものそれとは程遠い、更に先を見据えたような思慮深いもの。「いや、思い出さぬ方がと言った方が正しいか」と独り言のように呟き自身の羽織の袖を口元に運ぶ。そのまま横目で僕を一目見ると、隠した口元がほくそ笑んだ。


「だがここまで来たのも何かの縁。少し教えてやろう。わしはおぬしで、おぬしはわしじゃ」
「…………。」
「“意味が分からないしそんなことを言う気にもなれない”とでも言いたげな顔じゃな」
「……よく分かったね」
「そりゃあ、おぬしじゃからの」


くつくつ笑う少年に若干の苛立ちを感じつつも、頭は冷静に目覚める前のことを振り返る。…………ああそうだ、スタミナ負けしたんだ。そしてチラついたのは目の前の少年と同じような金髪を持ったあのミロカロス。いつもなら大して気にしないのに、あの時は何故か大人気なかったな。

いや、待て。ということは今は──
そのことに気づいた途端、今まで聞こえていた声の正体がわかった。頭が冷水を浴びせられたような衝撃を受け、どくりと嫌な鼓動が大きく鳴った。


「ここからどうやって出られるの。君、知ってるでしょ」


早く戻らないと。戦う術を持ってない臆病な自分のトレーナーが危険なのだから。少年に問いかければ愚問と言いたげな嘲笑に近い笑みを浮かべた。そして僕に近づき、その手が僕の瞳を覆い隠す。


「今回は特別じゃ。少し“チカラ”を貸してやる。じゃが一言忠告してやろう、人は一度その力を知ってしまうと次を、また次を、更に高みを求めてしまう。欲に際限は無いからのう。そしてそれはポケモンも例外ではあるまい。……精々溺れぬようにな、童」


もっとも、この記憶も目が覚めたら消えてしまうがの。


その言葉を最後に夢は終わりを告げた。


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