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ドアに手が触れる直前、璃珀さんが私を止めた。どうやら考えがあるらしく、自分に任せて欲しいと言う。えっとどもった声が出たが有無を言わせないニコニコした表情の前に私は頷くことしか出来なかった。
まさか碧雅が言ったようにほんとに囮になる訳じゃないよね。若干の不安が募るが璃珀さんがビルのドアに向かっていったので慌てて見えないところに隠れる。入って数秒後「何者だ貴様!」とギンガ団の声が聞こえてきた。同時に何人もの足音も。


(……大丈夫かな)


ちょうど隠れている頭上に窓ガラスがあったので、そこからバレないように中の様子を覗く。
水色の中に一つだけ見える金。沢山のギンガ団が璃珀さんを中心にするように円で囲んでいた。けれど「これはこれは、手厚い歓迎だね」と四面楚歌な状況にも関わらず余裕な態度を崩さない。そんな悠長に言ってる場合じゃないと思うけどなと隣に視線を向けると、元々良い印象を抱いていなかったっぽい碧雅は特に興味は無いらしく他に誰か来てないか周りを意識を向けていた。


「貴様、堂々と侵入するとはいい度胸だな」
「ジュピター様の手を煩わせるまでもない。私たちで片付けてやるわ」
(ジュピター様……)


様付けされていることからも、恐らくそのジュピターという人がここのビルの一番偉い人、なのかな。というかギンガ団の下っ端、女の人もいたんだ。


「一つ聞きたいのだけど、ここにポケモンが捕らわれてると聞いたんだ。本当かい」
「フン。侵入者にそんなことを教えるわけが無いだろう」


まあここのボスらしい人の名前は暴露しちゃってるけどね。心の中でツッコミを入れる。
ふむ、そうだろうねと璃珀さんも顎に手を当て同意の意見を述べる。


「あなたたちのような見るからに下っ端の人達に、そんな情報を教えるわけがなかったね」


人好きのする笑顔から放たれたのは明らかな向こうに対する煽り。そういうイメージはなかったから少し意外に感じた。


「なっ……なんだと貴様!」
「ハッ!バカを言うな、俺たちにももちろん伝わっているとも。捕らえたポケモンは最上階のジュピター様の元へ…………あ」


墓穴を掘ったな。口が滑ってしまった団員を残りの人達が何してるんだと言う顔で見つめている。暫しの沈黙の後、良い言い分が浮かんだらしい団員がわざとらしく弁明する。


「い、今のは冗談だ!本当はここじゃなくて既に本部へ運び込まれてて!」
「そうかい、なら自分で確認するよ」


あたふたと上の階段に行かせないよう立ち塞がるあの人が嘘を言っているくらい私にも分かる。ボスらしき人の名前に紅眞たちの居場所も分かった。収穫としては充分だろう。
すると私を眠らせた薄紫色の不思議な光が見えたので碧雅が私の目を手で隠ししゃがみ込ませる。あの技はなんだろうと聞くと、さいみんじゅつと独り言のように呟き教えてくれた。


「……終わったみたいだね」


しばらく経ち碧雅の呟いた声と共に視界が開かれる。もう一度窓を覗くとギンガ団は全員倒れるように横になって眠っていた。私もあの時あんな風に寝てたのかなぁ。
ビルの奥にはこれみよがしに上へと続く階段があった。他に部屋も無さそうだし、このまま進んでいけば良いだろう。碧雅がふと、ねえと呟いた。視線はドミノのように倒れ眠っているギンガ団。


「コイツら、これで全部眠らせたわけ?」
「このフロアにいる人たちは全員寝てると思うよ」
「……“このフロア”ってことは」


その言葉がフラグになってしまったのか。階段から複数の人の足音が響き、現れたのはもはや見慣れてしまった水色おかっぱ頭の集団。私たちを見てすぐに侵入者と判断したらしい彼らはポケモンを繰り出し襲いかかろうとする。
今私の手持ちは碧雅だけだからキツイけど、本人を見ると案外やる気ではあるらしい。小さく頷き人型を解こうとしていたその時、別の方から光が放たれた。


(この光、研究所で見た……)


その光はあの時とは違い、璃珀さんから放たれていた。


『僭越ながら、俺が相手をしようか』


ポケモンが人型から原型に戻る際に発生する光。それが徐々に小さくなりそれは姿を現した。

金色の鱗に覆われた長い尾。その先っぽは扇のように開かれていて、花のようにも見える。滑らかな曲線を描く蛇のような身体は人魚を連想させるような優美さを醸し出していた。薄い青紫のような色と、鮮やかなピンク色の2つのもみあげをそれぞれ携え、涼し気な目元をした美しい顔。

……これ、ポケモンなの、?

その言葉では言い表せない美貌に圧倒されていると、ギンガ団がざわめきだした。


「おい、こいつまさか」
「ミロカロス!しかも色違いじゃない」
「激レアもいいとこじゃないか」
「……ミロカロスってそんなに珍しいの?」
「あのしっぽの鱗、色違いも相まって1枚で桁がとんでもないことになるよ」
「どのくらい?」
「このくらい」


手で示されたその数に思わず「ふぁっ!?」と変な声が出てしまった。それが面白かったのか、クスクスとしっぽの扇で口元を隠すようにして笑う、璃珀さんであろうミロカロス。図鑑をかざすと、通常色らしい姿が映された。こっちもこっちで綺麗。その容姿から“世界で一番美しいポケモン”と呼ばれているらしい。……うん、納得。人型でも群を抜いて美人さんだったし。

璃珀さんの正体が珍しいポケモンだと分かったからか、よりやる気を出している様子。
……火に油を注いでるだけじゃない?これ。


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