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あれから次の朝。無事熱も下がり、ジョーイさんに診てもらい栄養のあるものを食べてしっかり休むよう釘を刺されたところで、手持ちのみんなと再会した。みんなも特に大きな怪我もなく、元気な姿を見せてくれた。


「馬鹿は風邪を引かないと言うが、そのことわざは見事に外れたな」
「マスターは貴方と違って繊細なんです。……はい、りんごが剥けましたよ。良かったらいかがでしょう、マスター?」
「うん!食べるー!」
「それだけ食欲があれば問題無さそうだね。良かった……流石に倒れた瞬間は俺たちもヒヤリとしたよ」
「ユイちゃん、はやくげんきになーあれ」
「じゃじゃーん!今日の飯は俺特製の野菜たっぷり雑炊!今日は消化のいいもん食べて薬飲んでしっかり寝ろよなー」
「お、美味しそうすぎてやばい……!」
「……いつもより元気じゃない?」


碧雅が私たちより少し離れたところで、アイスを食べながら薄く笑っている姿を見て何故か私は碧雅から顔を逸らしてしまった。なぜだか無性に恥ずかしいと感じてしまって、意味もないのに視線を逸らした。


(……いつもと変わらないのに、なんでだろう)


ちょっと恥ずかしくて、意味の無い行為だと分かっているのに、私は無意識に逸らしてしまった。碧雅本人はさして気にしてない様子でアイスをパクパク食べてて安心したけど、何故かそれにもちょっとだけ悲しさを感じてしまって、誤魔化すように雑炊をかき込んだ。


「…………。」


そんな私を見透かしたかのように見てくる水色の視線にも、気づくことは無かった。




◇◆◇




リハビリも兼ねてミオシティに来た目的の1つ、図書館へと向かうことにした。緋翠からはまだ休んだ方がーとか言われたけど、今はとにかく体を動かして何かしたくて仕方ないのだ。そうしないとソワソワして、落ち着かなくて。

受付を済ませて中に入ると流石シンオウ地方の中で唯一の図書館。貯蔵されている本はとてもじゃないけど一生をかけても読み切れない程の量がある。図書館特有の古紙の独特の香りが郷愁を思い起こさせた。


(ステラの言っていた手がかり……ここに、あるのかな)


晶と紅眞、璃珀は緋翠とそれぞれ興味あるコーナーに向かっていき、碧雅は一人静かに本を読みたいらしくみんなそそくさと先へ行ってしまった。私の調べ物の邪魔をしないように敢えてそうしてくれたのかもしれないけど。


(流石に私のことでみんなの時間を邪魔する訳にいかないし)


そして私はというと、ユニさんのことを調べようにもどうやって調べたらいいのか、図書館の備え付けの椅子に腰かけ腕を組みうーんと悩んでいるところ。
以前トバリシティで買ってあげた絵本を持ちながら、白恵が首を傾げた。


「ユイちゃん、よみたいほんないの?」
「手がかりを探すも何も、キーワードも無いなぁと思って……。白恵はそのミュウ?ってポケモン好きなの?」
「紫慧はきらいっていうけど、ぼくはみーちゃん、やさしかったからすき」
「……?」


また不思議なことを言ってるけど、“みーちゃん”って確か、最初に会った時にも言ってたよね。私の手伝いをするように言ってきた存在。それが、みーちゃんであり、みーちゃんはミュウ?


(ミュウって時音……セレビィと同様幻のポケモンと呼ばれているくらい珍しいポケモン、なんだよね?)


そんなまさかと思いながらも、白恵の数々の幸運と不思議ちゃんっぷりを知っているからか、薄ら寒い気持ちを感じながらみーちゃんとはどこで会ったのと聞いてみれば、白恵は上を見上げた。まさか、この図書館のことじゃないよね。


「みーちゃんは、ぼくがひとりのときこえをかけてくれたの」
「……ロストタワーで生まれた時?」
「ううん。それよりずーっとまえ。ぼくほんとうは、トゲピーじゃなかったんだよ」
「それって、どういう──」
「どろろーん」


不思議な呪文のような言葉を唱えて白恵は逃げるように駆け出してしまった。図書館で走っちゃいけませんといつの間にか現れた緋翠に諌められてたけど……まさか、逃げられた?


(ミュウ……幻のポケモン……。そういえば、トバリシティで買った本、まだ持ってたな)


気になってきたし、せっかくだからその幻のポケモンについて調べてみよう。以前買った本と図書館の本を数冊持ってきて、私は当初の目的とズレているけれどミュウたちについて調べることにしたのだ。




【ミュウ。しんしゅポケモン。全てのポケモンの祖先と言われているポケモンであり、その遺伝子には全てのポケモンの情報が含まれているという】


(情報が簡潔過ぎて、よく分からない……。要はアルセウスとはまた違う、ポケモンのルーツを握る存在ってことかな)


【セレビィ。ときわたりポケモン。時を過去・現在・未来と時間を旅するポケモンで、セレビィが現れる森は清らかな場所であることの証明と言われている。シンオウ地方に伝わる時の神ディアルガに力は劣るものの、セレビィは空間軸を経ての移動も可能であり、時には我々の想像を絶する世界へと繋がることもあるらしい。それに巻き込まれたものは帰る方法が分からず、俗に言う“神隠し”の状態となってしまう】


(……私を帰すことが出来なくはない、って言っていたのは、これのこと?ディアルガより劣るって書かれてるけど、時間の移動が出来るだけ充分凄いけどな)


【マナフィ。かいゆうポケモン。“蒼海の王子”と称される海を統べるもの。自身の分身とも称されるフィオネを連れ、海の中を漂う神殿より世界の動向を見守り、海の世界を律している。マナフィはどのような存在とも心を通わせることができると伝えられている。時折海の底から不思議な唄が聴こえるという伝承が存在しているが、それはマナフィによるもので、同時にその唄が海のポケモンへのメッセージであるという一説もある】


(海を統べるポケモン……。そういえば、碧雅が教えてくれた内容に雨を降らせて海を広げた伝承を持つポケモンもいたような?そのポケモンもマナフィには頭が上がらないんだろうな〜……)


ここまで調べて思った、幻のポケモンは思ったより多い。一旦休憩しようと本を閉じ、息をつく。

読み比べて思ったのは、トバリシティで購入したこの黒い本の著者は自分なりの幻のポケモンの解釈を主に書いていること。図書館の本は正にザ・生態という感じの内容が多くて……つまるところ、彼独自の幻のポケモン理論はなかなか面白かった。普段こういった読み物をしない私でも読めたくらいには。


“幻のポケモンはマナフィと同様、各地方の動向をそれぞれが役割分担をし律する立場を担っている”という一説。

その中でもアルセウスと似通った能力値を持った6匹のポケモンにその役目が与えられているというものだった。正直これが合っているかはどうであれ、話としては面白かった。
そしてある1匹の幻のポケモンの記述は、非常に興味をそそられた。


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