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鋼鉄島は元々炭坑として使われていた島だと聞いていた。現在もその名残があるのか、PCは設置されておらず、管理人の方らしき小さな家が一軒建つのみの、寂れた島だった。


「主は一番最深部でトレーニングをしていると思うわ。ここはそれなりに腕の立つトレーナーたちの修行場として人気だから、ポケモンバトルも活発に行われてるの」
「……その割には、やけに静かだね。中からの物音も無さそうだけど」
「えぇ。アタシも同じことを考えていたわ。嫌な静けさよ」


カイちゃんが目付きを鋭くさせた。以前来たことあるカイちゃんが怪しむくらいには、この鋼鉄島は様子がおかしいのか。回復アイテム、多めに持ってきておいて良かったかも。


「入口はあそこよ。アタシが先頭で進むから、アナタたちは後ろから着いてきて」
「く、暗いね……」
「元々炭坑として使われていた洞窟をそのまま使ってるのよねぇ。中には野生のポケモンも襲ってくるから気をつけ──!?」


言葉の途中でカイちゃんが驚いたように息を飲む。立ち止まってしまったのでどうしたのかと体をひねらせてカイちゃんの視線の先を辿ると、洞窟の中で力無く倒れているハガネールの姿が。慌てて駆け寄ると、どうやらみず技を受けて体力がなくなってしまったらしく、体が全身びしょ濡れだ。カイちゃんが慣れた手つきで持ってきたバッグから苦そうな薬草を出した。それは以前、PCで勉強していた時に偶然知り合ったトレーナーさんから貰ったものと同じだった。


「ふっかつそう多めに持ってきてよかったわ。ほらアンタ、苦いけどこれ食べなさい」
『ねーユイちゃん。むこうにもだれかたおれてるよ?』
「向こう……!?カイちゃん、ふっかつそう私も貰っていい!?」
「おいおいなんだよこれ……」


紅眞が絶句するのも無理はない。だってその先には、数々の鋼鉄島に住むいわタイプのポケモンが倒れている光景が広がっていたんだから。トレーナーも見かけないし、やけに静かだったのはポケモンたちも瀕死状態になっていて、動けなかったからなんだ。彼らをこのままにはしておけないとカイちゃんから回復アイテムを受けとり、ポケモンの治療に取り掛かる。

意識が戻ったポケモンに事情を聞いても、彼らも突然攻撃を仕掛けられたらしく、犯人を目撃していないとの事だった。


「主……鋼鉄島がこんな状況なのに何やってるの」
「早く最深部に行って、ここから出ないと」


晶のことで文句を言うとか以前の問題だ。彼はもちろん、彼のポケモンたちも無事だといいんだけど。


「……!お待ちください、前方から誰か来ます」


気配に敏感な緋翠が全員に警告するように告げる。ごつ、ごつと岩肌を歩く足音が確かに聞こえてきた。前方に視線が集中し、懐中電灯で照らされる洞窟の奥から、足音の主がその姿を徐々に現す。


「……おや、トレーナー?この辺りのトレーナーは全て始末したというのに」
「!」


どうして……こんな所にギンガ団がいるの?

鋼鉄島にギンガ団がいる。その事実がより私の頭の中で警鐘を鳴らす。みんなが私を庇うより前に、1人一歩踏み出した。
彼の持つ銀色のアタッシュケースが目に入った。


「あなた……ここで何してるの」
「何を?ただの調査ですが」
「ただの調査で、どうしてポケモンたちがこんなにボロボロなんだよ!どうせあんたらが攻撃して……」
「何を言いますか。それはワレワレではありませんよ」


口先は丁寧だが、その表情は私たちを嘲笑っている。何らかの形で関わっていることは明白だった。


「何をしている。もうここに用はない。早くワレワレのアジトへ戻るぞ」


もう一人団員がいたのか。表情のない団員はその手に複数のモンスターボールを抱えていて、中にポケモンが入っているみたい。腰にはちゃんと彼らのボールが付いている。それじゃあ、あのボールは……?


「アンタたち……!主に何をしたのよ!」


カイちゃんがギンガ団に声を張り上げる。もしかして、あのボールは……カイちゃんのトレーナーさんの手持ちポケモンが入ってる!?
ギンガ団はカイちゃんの視線がボールに向かっていることに気付くと、狡猾さを含ませた笑いを浮かべた。


「あぁ。あなたはあの青年のポケモンだったのですね。彼はよくやってくれました。今はまだ奥で眠っていますが……鋼鉄島で危害を加えたトレーナーが丸腰でいる状態をみすみす逃すほど、ここのポケモンたちは優しくありませんよ?」


まさか……鋼鉄島のポケモンを攻撃したのは、カイちゃんのトレーナーさん?カイちゃんも信じられないといった表情を浮かべたが、まずはトレーナーさんの安全を確保するのを優先するため、ギンガ団を睨み付けながら一足先に奥へ進む。そこでアタッシュケースを持っていた団員が、ケースを開けモンスターボールを取り出し、背中を見せて隙だらけのカイちゃんに向けて投げ込んだ。


「彼を始末なさい」
『…………。』


出てきたのはみずタイプのフローゼル。なのだけど……なんだろう、この違和感は。この不快感は。フローゼルは心ここに在らずといった様子で、その目には何も光を宿していないように見えた。


「やれ、フローゼル。ハイドロポンプ」
『…………。』


静かに口を開け放たれた激流は、激しい音を立ててカイちゃんに襲いかかる。その音に気付いていたカイちゃんは原型に戻り、しんそくで攻撃を躱しつつもフローゼルへ一発カウンターを入れた。
吹き飛ばされたフローゼルは地面に倒れるが、すぐに立ち上がろうとする。けれど腕に力を入れた途端、またガクンと地面に伏してしまった。


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