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意識が浮上しまず最初に目に入ったのは、どこかの部屋の天井に付けられている照明だった。人工の明かりをぼんやりと眺め、ああ、寝てたんだとネコのようにのっそりと起き上がり何気なく外を見る。大きな窓から見える光景は一面青い大海原だった。


「…………ほぁ?」


海の潮の香りが漂い、船の汽笛の音が鳴る。……ふ、船?一瞬困惑して思い出した。
そうだ、私は緋翠と結局帰ってこれたのが早朝で、説明どうこうの前に流石に眠くなって、寝ちゃったんだ……。帰ってきたと同時に眠気のピークが来て、お陰様でグッスリだ。


「ユイちゃんおきたー」
「おはようご主人。手続きは代わりに済ませておいたから安心してくれ」
「白恵に璃珀、おはよう」
「僕たちもいるぞちんちくりん」
「ゾロゾロとやって来た!?」


2人がやって来たのを皮切りに緋翠を除くメンバーが立て続けにやって来た。緋翠も私と同じく朝まで起きていた組だから、テレポート後はボールの中で眠っているらしい。それにしても璃珀は途中で帰ったとはいえ、ケロリとしてるのは流石というかなんというか。
どこか呆れてるというか、仕方ないと悟っているような表情で紅眞が軽食のサンドイッチを持ってきてくれた。


「お前なー、いっくら気になるからって夜出かけるのはあぶねぇだろ。緋翠が注意したみたいだから俺たちからはもう言わねぇけど」
「うっ……流石にちょっと反省してます」
「“ちょっと”?」
「はいすみません私が全て悪うございましたぁぁ!」


碧雅に睨まれたよ久々に。でも気になるじゃん、不思議な音楽にそれに導かれるように彷徨うゴースの群れって。すると小腹が空いたのか私のサンドイッチを横から1つかっさらう手が。晶だった。


「だが結局いたのは珍しく楽器を使うポケモンだったんだろ?隠れて練習でもしていたんじゃないか」


文句を言おうかと思ったが、先程注意されたばかりの為言いにくい。まあ、お腹には1個あれば足りると思ってたからいいけど。どうやら私が起きる前に璃珀が事情を話してくれたみたい。なんだかすっかり彼のおかげでやらなきゃいけないことが片付けられていた。夜は心の中で置いていったことに文句言っちゃったけど、後でお礼をしなきゃ。


「そうかもねぇ……。あ、それよりみんな、ビッグニュースがあるんだよ!なんとなんと緋翠が……」
「それは本人からとっくのとうに聞いてる」


ああ、そっか、緋翠テレポートまでは起きてくれたんだもんね。後で彼にもお礼言わないとなぁ。
もぐもぐとサンドイッチを食べてる私を見て小さく息を吐いた碧雅は私の頭を軽く小突く。俯いたその顔は普段より元気がなさそうというか、不甲斐ないというような雰囲気だった。


「……気づかなかった僕も悪かった」


何故碧雅が謝るの!?驚きのあまりサンドイッチが変なところに入りそうになった。咳き込みながらサンドイッチを飲み込み、深く息を吸って呼吸を整えた。


「い、いやあの時深夜だし、碧雅たちはちゃんと時間通りにぐっすり寝てただけだよ?悪いのはどう考えても私でしょ?」


普段の碧雅ならもっと追撃をかましてくるのに、なんかやけに大人しいぞ!?あの時起きたのは本当に偶然だし、気づかなかったことを責める筋合いなんてない。


「……。とりあえず、ユイは本当に非力なんだから誰か一人は付けるようにして。いいね」
「非力って。あの時もピッピ人形持ってたんだから、最悪投げてダッシュで逃げれば……──」
「……。」
「ごめんなさいそんな可哀想なものを見る目で見ないで」


反省してますから!本当に!緋翠を怒らせた手前もあるし。

やり取りを見て苦笑いをした紅眞が話題を切り替えるように備え付けのテレビをつける。するとちょうど新たな施設が建設されるニュースが流れ、それに晶が食いついた。


「バトルフロンティアがシンオウにも来るのか!?」
「バトルフロンティア?」
「ホウエン地方から始まった、トレーナー向けの大型施設だ。様々なルールに基づいたバトルがあり、フロンティアブレーンと呼ばれる各施設トップのトレーナーに勝つことを目的としている。一度行ってみたいと思っていたが、シンオウにも建てられるとは……!」


晶が饒舌に語り、目がキラキラとしてる。こんな晶初めて見た。前までは頑なに「そんなものに興味は無い」とか言ってたけど、それに比べると大分丸くなった……というか、素直になったよね。行ってみたいねーと返事すると、晶は鼻で笑った。


「バトルフロンティアに挑むには最低でもその地方のジムバッジ全ては持っていないと話にならないぞ。ちんちくりんが行けるようになるのは現時点では夢のまた夢だな」
「ば、バッジ全部……!?」
「そんじゃ本当にトレーナーとして実力あるやつじゃないと入ることすらムズいんだな」
「入場自体は可能だろうが……フロンティアブレーンに挑むには最低そのくらいの実力はないと話にならないだろう」


晶の話に耳を傾けつつテレビ画面を注視していると、どうやらシンオウ地方に開設される5つの施設と、そのフロンティアブレーンらしき人たちの案内がされた。

自分のポケモンではなく、施設のポケモンをレンタルし勝ち進むバトルファクトリー。

ルーレットによって様々なイベントが発生し、運の要素が絡んでくるバトルルーレット。

どのタイプに挑むのかを挑戦者から選べ、1匹のポケモンで挑み続けるバトルステージ。

勝利することで特定のポイントを貰い、それを各戦ごとに上手く活用するバトルキャッスル。

そして特別なルールはなく、ただただ勝ち進み、高みを目指していくバトルタワー。

フロンティアブレーンの紹介もされたけど、正直施設の概要を理解するのに精一杯で、流し見で終わってしまった。私もいつか、バトルフロンティアに挑戦する日が来るだろうか。


“シンオウ地方・バトルフロンティアは近日ファイトエリアにて開設されます。自信のあるトレーナーの皆様のご参加を、フロンティアブレーン一同お待ちしております!”


そしてバトルフロンティア特集は終わり、ニュースは次の話題へと変えられた。
私もいそいそと身支度を始め、各々景色を堪能したり船内を探索したり、とそれぞれの船旅を過ごしミオシティに無事到着したのだった。


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