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その夢は、とても不思議な夢だった。
内容は至ってシンプル、見知らぬ人が私の前に現れた、そんな夢。星のように黄色いパステルカラーに包まれた朧気な空間の中、その人は何をするでもなくただ私を見てくるだけ。
その人は、私より背丈の低い少年だった。目が合うと、目を細め口元が優しく緩む。
(あ、笑った)
見た目の年齢に似合わない、穏やかな微笑み。そして一歩、また一歩とこちらに向かい始めた。その動きはここが夢だからかとても緩慢で、水の中を泳いでいるみたいにゆっくりだった。
ぼやけた世界の中で、彼との距離が縮むのに比例して姿が鮮明になる。金髪で、着物を着ていて、浮世離れした雰囲気の男の子。口を開け、何か語りかけている。けれど、声が聞こえない。
(ごめんね、聞こえないの)
そう意味を込めて首を横に振ると少年は察したのか、足を止めた。そして、眉を下げて、今度は寂しそうに笑った。その表情を見て、何故か胸が痛んだ。
(ねえ、あなたは、だれ?)
心の中で問いかけても、伝わるはずもなく。声を出そうとしても私の声も出なかった。ああ、そうだ、これは夢なんだった。けれど、胸の痛みはチクチクと続いている。
少年がくるりとこちらに背中を向けた瞬間、眩い光が空間を覆った。あまりの眩しさに目を瞑った時、体が暖かいものに包まれているのを感じた。それは酷く安心できて、心地よくて、心がほっとする。
どこか懐かしい感覚を覚えながら、私の意識は離れていった。
◇◆◇
…………どのくらい眠っていたんだろう。頭がぼーっとする。
ああ、風が気持ちいい。昨日は窓を開けて寝ちゃったのかな?風に揺られる木の葉の音が耳に染み渡る。ようやく頭が覚醒してきて、私は周りを見渡してみた。
…………なんで、周りは木ばっかりなの?人の気配が全然しないんだけど??下を見たら草が生い茂ってるんだけど???ベッドは!?家は!?学校は!?コンクリートの道路は!?
「ここ!何処おおお!?」
叫んでも返事をしてくれるものは誰もおらず、私の叫び声が木霊した。
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