IB | ナノ

1/4

…………頭がグラグラとして、鈍い痛みを感じつつ目が覚めた。徐々に視界がクリアになってきて、まだズキズキと痛む頭を押さえ周りを見渡す。

まず目に入ったのは茶色の荒れ果てた土に紺色の混ざる岩石。申し訳程度に苔むした植物が却ってこの土地の淋しさを醸し出していた。そして更に目を引いたのは、この土地の周りを漂う人一人がやっと立てそうな小島がふよふよと浮いているように見えたことだ。
土地の端ギリギリまで顔を寄せてみると、下は地球の海のように真っ青な空間が広がっていて、大小様々な大きさの島が浮いていた。下は青いけど、海ではない。何も浮かぶ要素は無いはずなのに、浮いている。

果ての見えない、時と空間の安定しない、例えるならあの世界の常識が通用しない掟破りの世界。


(……誰もいない、のかな)


そうだ、私はあの影のような何かにここに落とされて……みんなは大丈夫なんだろうか。親方さんやティナちゃん、みんなは……碧雅は、無事だろうか。

そういえば私がここに落とされる時、ステラも一緒に落ちたような気がしたんだけど……。白恵と場所が入れ替わって、ステラも不意をつかれたように驚いた顔をしていた。白恵の使ったあの技は何だったんだろう。
入れ替わる間際、白恵は私に頼みごとをした。“あの子をよろしくね”と言っていた。その“あの子”とは、彼の事なのだろうか。


(あの白恵は、ステラが何者か知っている?)


それだけじゃない。あの碧雅の状態についてだったり、私の母親らしい人物のことだったり……挙句の果てにはあの影のような存在についても知っているように見えた。
普段の白恵とは明らかにかけ離れている。まだ子どもな彼が他のみんなを差し置いてどうしてあそこまでの知識を持っているの?


(……まずはこの世界から脱出しないと)


思考を一旦止め、改めて深く深呼吸をした。前の私なら絶対に怖くなってたのに、今は不思議と落ち着いている。
脱出しようにも、私は特にサバイバル能力に長けている訳じゃない。ただでさえ未開の場所なのにこの時間と空間がねじ曲がった場所に一人にされてしまえば生存確率はゼロと言っていい。


「…………だーれかー!いませんかー!」


勿論大声で叫んでも、返事は返ってくることなく私の声が無情に響く。
ううん、これはもしかしたら本格的にピンチ。今まではなんだかんだポケモンがいてくれたし、助けてくれたからなぁ。
何かなかったものかとガサゴソバッグを漁っていると出てきたのは、クシャクシャになった紙袋。封を開けると仄かに甘い香りが漂った。


「……あ、」


それは白恵がラッキーアイテムと称して渡したポフィンだった。そっか、あの時無造作にバッグにしまっちゃったんだ。所々欠けてしまっていて、作ってくれた紅眞に心の中でゴメンと謝った。期限の心配はあるけど、このサバイバル状況下では有難い貴重な食糧だ。大事にしないと。
落としたりしないように封をしっかり閉め、バッグに戻した次の瞬間だった。

突然私の頭上に影が生じた。


「……ぎゃ!」


影は人影で、颯爽とローブを翻し目の前に降り立った。黒いローブをめくり、目を爛々と輝かせた人物が姿を現した。


「食いもんの匂い!」
「………………。」


人影の正体は、一緒に落ちてきたはずのステラだった。今までとかけ離れた様子に私は何も言えず目をパチクリさせ目の前のステラを見つめるのみだった。


「お。あんた生きてたのか」
「…………ス、ステラ……さん……ですよね?」


あまりにも頭の中の彼のイメージと現在の姿が結びつかないので、つい敬語で本人に聞いてしまった。その結果返ってきた返事は眉を釣り上げて「あ?」の一文字。ですよね。
ステラは私を一瞥した後小さく息をつき、またリッシ湖の時と同様寝そべり始めた。今度は大の字で。


「なんだよハズレかよ。あー腹減った。もう一歩も動けねぇー」
「…………。」


なんだコイツ。というか私のこと“ハズレ”扱いですか、そうですか。当たりでも嬉しくないけどなんかムカつくぞ。
そういえば上から現れたけどどうなって…………うわ、上にも沢山島が浮かんでいる。この中を動き回ってたってこと?


「……お腹、空いてるの?」
「だからそう言ってんだろ」
「あの、もしかしてステラが感じた匂いってこれだとおも」


う。

最後まで言い切ることが出来ず私の前を一陣の風が切った。バッグから紙袋を出しステラに見せようとした途端、彼が私から勢いよく紙袋をひったくって中身のポフィンを取り出しクンクンと匂いを嗅いでいたのだ。


「食っていいの?」
「いいも何ももう食べてるじゃん!」


ボリボリとリスのように頬を膨らませポフィンを貪り食うステラは不思議と無害そうに見えた。なんだコイツ(2回目)。
「お前食わねえの?」と口の周りに食べカスを付けたままステラが問う。その光景だけで割とお腹いっぱいな気分になった。


「……いいよ。全部食べちゃって」


私に聞くまでもなく、もうほとんど食べちゃってるしね。ステラは「ふーん」とそのまま気にせず豪快に紙袋ごと食べ切ってしまった。
…………紙袋ごと食べきった?


「はぁ!?何してるの!?」
「何だよ。あんたが全部食べろって言ったんだろ」
「私が言ったのは中身の話!紙袋食べるなんて想像してないって!」
「なぁー、おかわりはねぇの?」
「ありません!」


なんだこの食欲は。食欲大魔神か。


prev / next

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -