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カフェやまごや滞在2日目。昨日と同様和風メイド服を見に纏い今日もお店の手伝いだ。オープン前の静かな空気の中、テーブルを拭いたり外の枯葉を取り除いたりレイアウトを整える。


「みんなごめんね。私のわがままで付き合わせちゃって」


フロアで仲間にポツリと謝罪を零す。昨日はみんなも同じように疲れていたのに、また無理させることになっちゃったから。特に晶は人嫌いだから尚のこと嫌だろうに。


「俺としては、ご主人のメイクをもう一度やれたから楽しかったけどね。可愛い姿も見れたし」
「それに、このような体験をするのも貴重ですから。……昨日のマスターに対して敵意を表したお客様がいたことに気付けなかったのが悔やまれますが」
「俺たちも仕事に追われてたしな。昨日よりは慣れたし、今日は変なやつが絡んでこないように気をつけるぜ」
「……いっその事ユイも男装すればいいんじゃない」


服余ってるんですよねとミルクさんに碧雅が問いかけるが、ミルクさんは目を見開き「やだ!!」と言い放つ。


「私の眼福を取らないで!!」
「……ごめんねぇユイちゃん。お姉ちゃんこういう時の我が強くてぇ」
「あ、あはは……」


苦笑いしか出ない。でもお手伝いも今日で終わりと言われたし、やれることを精一杯頑張ろう。……それよりも気になるのは、仲間たちの格好だ。服は昨日と同様ウェイターなんだけど、髪型が違っているのだ。あ、白恵は着ぐるみだから変わってないけどね。ミルクさんが写真を撮ってたので後で買わせてもらおう。


「ねえ、なんでみんな前髪を上げてるの?」


璃珀に至っては緩く結いているし。するとみんな一斉に顔を見揃えた後、晶を除いて得意気に笑ったのだ。


「俺たちもイメチェン!ちょっとスースーするけどさ」
「ちょっと気恥ずかしいですが、どうでしょう?」
「似合ってる〜!男前度が増した!」
「髪が長いとお客さんに不快な思いをさせてしまうからね。本当は昨日の時点でやっておくべきだったけど」
「……視界が開けているな」
「晶、眉間に皺寄ってる」


わぁ〜昨日に引き続き新鮮な気分だ。そうこうしているうちに開店時間が迫っていた。分担は昨日と少し変えて、料理が得意な紅眞が厨房に入ることになり、晶は最初からフロアに入ることになった。本人にも確認を取ったけど、料理を運ぶだけならお客さんと最低限の会話で済むから楽だという。写真撮影も仕事が立て込んでると言えば断れたみたいだし。


「僕も、少しは慣れないとな」
「何か言った?」
「……なんでもない」


そういえば、厨房に入るなら紅眞は前髪を上げなくて良かったのでは。


「写真撮影も今日は控えてもらうように注意看板作っておいたから、昨日みたいなことにはならないと思う。でも人によっては声をかけてくると思うから気を付けてね」


ミルクさんの指示に全員が頷き、ドアが開く。
カフェやまごや、OPEN!




2日目もお客さんは白恵の呼び込みと女性特有の情報拡散力の賜物か、昨日に負けず劣らずのお客さんが来店してくれた。その中には昨日見られなかった男性客もチラホラと目に入る。……まぁ、圧倒的に女性客の方が多いんだけどね。


「すみませーん。オーダーお願いします」
「はい、今向かいます!」


いけない。今は仕事に集中しないと。呼ばれたテーブルに向かいオーダーを受けた後、ねえと尋ねられた。


「昨日の子はいないの?茶髪の明るい男の子」
「本日は厨房に専念しております」
「……そーなんだ。なんかガッカリ」
「……申し訳ありません。失礼致します」


もういいやと言わんばかりに外の景色を見始めたので退散した。うっ、ちょっと流石に今のは心に来たぞ……。クルミさんが心配そうに声をかけてきたけど大丈夫ですと笑った。


「ちょっとタチが悪いのが出始めてるねぇ。お客様は大切だけど神様じゃないから気にしないでねぇ」
「……私、厨房に入った方がいいですかね」
「ううん。ユイちゃん目当ての人もいるみたいだよぉ」
「あれはどう見てもクルミさんを見てますけど!?」


少数の男性客の目的は殆どがクルミさんと言っていいと思う。明らかにデレデレしてるもん。しかも主に目線は……たわわなあそこだ。確かにクルミさんは女の私でも羨むナイスバディだけどね、凄く失礼じゃないかな?許せんと拳をわなわな握りしめているとクルミさんが私の手をそっと握り「ユイちゃん、油断しないで」と真剣な声色で告げた。


「今日は私もいるから大丈夫だと思うけど……人によっては本当に危ないからぁ。いざと言う時は手持ちの子だったり私だったりちゃんと呼んでねぇ。あ、お姉ちゃんでも良いよぉ。きっとフライパン持ちながら飛んでくるからぁ」
「……ふふっ、そうですね」
「えへへ、笑ったぁ」


頬をつんと優しくつつかれ、頑張ろうと仕事に戻った。元気づけてくれたのかな、クルミさん。


(お姉ちゃんがいたら、こんな気分なのかな)


つつかれた頬をさすり、一人静かに笑みがこぼれた。


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