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「ありがとうなお嬢さん。これはせめてものお礼じゃ」


トゲピーの白恵が加入してPCで休息を取った次の日、部屋で寛いでいた私に育て屋のお爺さんが会いに来た。ヤミカラスは無事見つかったのにどうしたんだろう。なにか粗相を……いや、ちゃんと帰ってきたことを報告したし、ヤミカラスがいたことも確認したはず。
じゃあなんでとクエスチョンマークが浮かぶ私にお爺さんはお礼にと1枚の紙をくれた。これは……割引券?


「この先にある“カフェ やまごや”の割引券じゃよ。生憎こういったものしかなくてなぁ。お嬢さんさえ良ければ受け取ってくれ」
「ありがとうございます!休憩がてら寄ってみます」
「モーモーミルクが美味い店じゃから、きっと気に入ると思うぞ。最近はモーモーミルクからアイスを作ってるとも聞いたなぁ……」
(誰かさんが聞いたら喜びそう)


その誰かさんとは勿論碧雅のことである。ていうか、そのモーモーミルクってどこかで聞いた気がするな。いつ聞いたのか記憶を辿りつつ、お爺さんにひとつ伺ってみた。


「……あの、ロストタワーのお婆さんについてご存知ですか?」


お婆さんは話の中で育て屋のお爺さんとトゲキッスの治療をしたと言っていたから、あのお婆さんについて何か知ってるかもしれない。お爺さんは少し驚き「ミカゲさんのことか」と悲しそうに呟いた。


「あのトゲピー……しえと言っていたか。あの子の世話を始めてしばらく経った後に亡くなったよ。元々身体の弱い人じゃったからのぉ……。ロストタワーの最上階の大きな墓を知っとるか?あの人は眠るならあそこがいいと言っておったから生前の言葉通りに……どうしたんじゃ?」


徐々に顔が青ざめていく私に心配そうに声をかけてくれた。なんだか知らなくていいことを知ってしまったような気分だ。あの後緋翠に聞いても「大丈夫ですよ」とだけ返されたし、白恵も「かえった」って言っていたし……うん、もうこの話はおしまい!


「い、いえ。そのトゲピーなんですけど、本人の希望で一緒に連れて行くことになりまして」
「おおそうか!それなら良かった、大事に育てなさいよ!」


安堵した表情から、この人も白恵の身を案じていた一人なんだということが伝わってきた。




「遺跡?」
「そ!ズイの遺跡。ユイも行こうぜ〜」


ズイタウンを出発する前に荷物チェックをしていたところで紅眞に遺跡見学に誘われた。なんでもズイタウンの東にある遺跡で、迷路のような造りになってるんだとか。面白そうだけど迷子になりそうで心配だな。


「ヘーキだって!いざと言う時は緋翠のテレポートで帰ればいいし」
「それに迷路と言っても、ほとんど階段が多く似た通路が多いのでどこを通ったかが分かりにくいだけですから」
「ズイタウンの観光名所になってるくらいだから、ご主人の心配するようなことは早々起こらないと思うよ」
「遺跡……」
「晶、何かソワソワしてない?」
「実は初めてだったり?」
「してない」


ピシャリと言い放つね。でも目がほんの少しキラキラしてたのは気の所為じゃないと思うぞ。


「みんなが行きたそうだから、行こっか!」
「よっしゃー!」
「……お、おい!僕は行きたいなんて一言も!」
「はいはい聞いてない聞いてない。みんなで団体行動ね」
「流すな雪うさぎ!」


遺跡って言葉を聞くと、新たな未知の冒険だったり古代のミステリアスな秘密だったりとワクワクするイメージが浮かぶよね!折角近くにあるんだったら寄らないと損な気分だし。
準備もそこそこに、私たちはズイの遺跡へと足を運ぶのだった。




ズイの遺跡は想像していたよりもコンパクトな造りの遺跡だった。中に入ると人工の真っ直ぐな通路に何やらアルファベットのような文字が刻まれている。そこから分かれるように2つの階段があった。


「アンノーン文字だね」
「あんのうん?」
「ふふっ。そう、その名の通りアンノーンは“分からない”存在なんだよ。この文字のような形をしたポケモンが多数存在することしか分かってないんだ」
(アルファベットに似てるなぁ……)


元々がゲームだからか、アンノーンの文字にはどこか見覚えがある。探検したい紅眞をボールから出して後のみんなはボールの中で休んでいる。そのまま階段を降りては進み、降りては進み。
……前言撤回。どこがコンパクトな造りよ、私。


(地下にこんなに広がってるとは思わないじゃん!)


階段を移動しすぎて足がそろそろ重くなってきたな。私が疲れてるのを見越した紅眞が大丈夫かと声をかけてくれるけど、苦笑いで返答しかできない。


「またおぶってやろうか!」
「断固!断る!!」


なんでそんなキラキラした顔になってるの!?アチャモ時代にもやられたけど超恥ずかしいから無理!遺跡のど真ん中(地中深くだけど)でギャーギャーとそんなやり取りをしているのを尻目に白恵が迷いもなくある階段に向けて駆けて行った。


「こっちだよ」


…………あ。道案内するように階段を指し示す光景を見て私はようやく気づいた。


(そういえば白恵ってロストタワーに住んでたんだから、ズイタウンなんてご近所もいいところじゃない?)


ましてや遺跡なんて好奇心の塊の小さな子どもが引き寄せられるスポット、行かないわけがないよね。その考えが浮かび、白恵にここに来たことがあるのか聞いてみる。帰って来た答えは勿論、「うん」だった。
私は膝から崩れ落ちそうな気分だった。


「白恵に案内してもらえばよかったじゃん!そしたらこんなに歩き回ること無かった!」
「……遺跡は探検してなんぼだろ!」


グッ!じゃない!


『ちんちくりんにはいい運動だろう』
『そうそう』
『でもご主人、色々と見れて楽しかったろ?』
『戻った後にマッサージと疲労回復のドリンクをご用意しますね』


くそぅみんなモンスターボールに入ってるから実質私しか苦労してない……。


「いかないの?ユイちゃん」
「ううん……行きます」


帰りは絶対テレポートにしよう。私は固く誓ったのであった。

白恵に案内された階段を降りた先にあったのは一際広い空間。入口のフロアにしかなかったアンノーン文字が刻まれている。アルファベットと同じ要領だとすると、えっと……


「……す……、べ……んー……なんだろう」
「“すべての いのちは べつの いのちと であい なにかを うみだす”」
「……へ」


淡々とスラスラ読み上げているのは、隣にいる白恵だった。


「“すべてのいのちは べつのいのちとであい なにかをうみだす”」
「し、白恵くーん?」


……でも目に光は宿っておらず、まるで定型句しか言わないロボットのように同じ言葉を繰り返す。


「“全ての命は 別の命と出会い 何かを生み出す”」
「……白恵、?」


段々と普段の舌足らずに近い話し方から流暢な発音になり、私はたまらず恐る恐る肩をそっと触った。


「……あ、」
(戻った)


どうしたの?と聞くと白恵はいつものように「だいじょうぶだよ」と言うのみだった。
……やっぱ、電波?


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