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ヨスガシティへ急遽戻ってきた私たち。時計はかなり遅い時刻を指していて、周りの家も明かりがついている。お婆さんの言う通りトゲピーはまだこの街にいるのだろうか。……昼間に見た謎の鳥のシルエットが頭をよぎる。あれは、もしかしたら。


(……考えすぎかな)
「トゲピーのいそうな場所って俺たち知るわけないよな」
「紅眞くん、街なら手分けして探しても大丈夫かい?」
「おう、勿論」
「それじゃあ二手に別れよう。組み分けは……グーパーで」
「ぐーぱー?」


小首を傾げ手を握ったり広げたりする晶。ありゃ、知らなかったのか。普段の様子からは想像つかない光景をみてちょっと可愛いと思ってしまったら睨まれた。心読まないで。
簡単に説明し私の合図でみんなに一斉にグーかパーを出してもらう。その結果私、緋翠、晶と碧雅、紅眞、璃珀のグループに分かれることになった。


「時間は30分。見つけても見つけなくても時間になったら一旦この噴水前に集まること。そっちはユイが時間計ってね」
「わ、分かった」


テキパキと指示を降す碧雅に従い、互いに反対の方向へ進む。そういえばトゲピーの原型を知らないなと図鑑で調べてみると、卵の殻から出てきたような身体にトゲトゲ頭が特徴的な可愛い雰囲気のポケモンだった。全体的に白いのね、ふむふむ。


「そういえば、晶はヨスガシティに来たことがあるのですか?随分慣れた様子で歩いていますが」
「前のトレーナーを探す時に街は一通り巡って行ったからな」
「……、申し訳ありません」
「そんな辛気臭い顔をされる方が迷惑だ。お前が気にする必要はない」


その顔は以前のように怒りに満ちてはいないが緋翠の態度に不服そう。まあ晶、同情とか嫌いそうだもんね。


「それよりどこを探すつもりだ」
「……多分だけど、トゲピーは擬人化してるんじゃないかな?」
「可能性は大きいと思います。トゲピーは人前に中々姿を現さない種族ですから」
「だが人型になった外見の特徴も僕らは知らないだろう。あの老女の話から推測すれば子どもだということしか」
「名前があるよ」


お婆さんは言っていた。“しえによろしくね”と。


「“しえ”って名前の子どもを探そう」
「……幼い子どもがそう易々と見知らぬ人間に名をバラすとは思わないが」
「……笑顔で話しかければなんとかなる!とにかく不思議な子どもを探すぞー!」
「おいひっつき虫。僕は不審者になりたくないから雪うさぎのチームに行くぞ」
「行くのは構いませんが、碧雅のれいとうビームを喰らうのがオチだと思いますよ」
「…………。」


黙ってついてきた。過去に碧雅のれいとうビーム2発喰らってるし4倍ダメージだもんね。ターゲットを子どもにして捜索したけれど、夜も遅いからか出歩いてる子はおろか大人も殆ど居ない。
待ち合わせの時間まで刻々と迫っている。向こうは見つけられたのだろうか。


「……っ寒くなってきたね」


太陽も沈み気温が下がる。肌寒くなってきたので腕で体を温めるが冷えは取れるはずもなくたまらず身震いしてしまう。緋翠がどこから持っていたのかマフラーを取り出しつけてくれた。


「合流後に建物に入って暖を取りましょう。気休めではありますがこちらをどうぞ」
「ありがとう。……とりあえず、一旦戻ろうか」


噴水前に戻って碧雅たちと合流を図る。向こうもトゲピーは見つからなかったようで首を横に振るだけだった。晶がポツリと「ゴーストポケモンの悪戯じゃないのか」と呟いた。


「思えばあの老女、僕らに気配を悟られることなく現れたりポケモンを連れていなかったり、奇妙な点がいくつかあった。恐らくロストタワーに侵入した僕らをからかっただけなんだろう」
「そう、なのかな……」


だとしたら、どうしてあんな話をしたんだろう。私にはあの話が、あの出来事が悪戯だとは思えない。
寒さはより増していき、いつの間にか空からは白い雪が降り注ぐ。まるで天からの贈り物のようにふわふわと大地を白く染めていく雪は前の世界ではなかなかお目にかかれなかったので新鮮だ。夜の黒と雪の白。何とも言えぬノスタルジックを感じさせる。


「“しえ”……か」
「はーい」


…………ん?


雪空を眺めながらぽつりと呟いた私の後ろから声がした。私だけじゃない、仲間のみんなも誰も気づかなかった。
ゆっくり振り向けば、そこにいたのは腕を後ろに回し佇む白い色彩の男の子。


「ぼくをよんだのは、おねえちゃん?」


その蜂蜜のようにとろやかなたどたどしい声に話し方。綿あめみたいにふわふわとした髪、あどけなさの残る顔立ち。
更に目を引いたのは、この子の2色の瞳だった。


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