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ヨスガシティに滞在して早数日過ぎた。大方のメイン所はほとんど回ったので昨日はウラヤマさんという富豪の所有する屋敷にお邪魔して、自慢の裏庭でポケモンたちと触れ合わせてもらった。……裏庭に行く前のウラヤマさんの自慢話が凄く長くて話を聞くのがだいぶ辛かったのは内緒だけど。
ここ数日は午前は仲間とのバトルトレーニング、午後に散策や一般常識として碧雅に各地方の伝承や伝説のポケモンについての知識を叩き込まれた。時々晶がこっちをチラチラと覗いてくるのが面白くて小さく吹いてたら猫が威嚇する時みたいに怒られちゃったけど。


「この世界には伝説のポケモンと呼ばれるポケモンたちが存在するのは知ってるよね。彼らの活躍、恐ろしさを人間たちの間で言い伝えや昔話として後世に残しているんだ」
(私のいた世界にも色んな話があったなぁ)
「ユイの場合は実際に見た方が早いと思う。てことでこれ、読んでみて」


渡されたのは一冊の本。PCの本棚スペースに丁度入ってたらしい。タイトルは“シンオウ神話”。ページをパラパラ読み進めていくと、淡々とした文面の中に存在する様々なポケモンたちの影。シンオウ地方は特に神と呼ばれるポケモンが存在すると言われるだけあってか、こういった類の史料はとても多いのだとか。


「シンオウだけじゃないよ。カントー、ジョウト、ホウエン……様々な地方で彼らのような伝説のポケモンは存在する。あるポケモンは大陸にまで影響を及ぼす程の天候を操ったり、またあるポケモンは死んでしまったポケモンを甦らせたとも言われている」
「そんなこともできるの?」
「そう伝えられてるだけ。本当かどうかは定かじゃない」
「…………。」


でも……仮にそのような力を持つポケモンたちが存在して、そのままで秩序が守られているのだろうか。伝説と言われるくらいだから人前に現れることは滅多にないんだろうけど。考えれば考えるほど、人間が今この場で文化を築いて生きて来たことがある種の奇跡のように感じられた。
黙っている私に碧雅が声をかけてくる。私はほぅと息を吐いた。


「ポケモンって、本当に凄いんだね」


まだまだ知らないことだらけで、どんどん学ぶことが楽しくなってくる。私のいた世界に存在していなかった未知の生き物ということもあるけど、不思議な神秘性を感じさせるのだ。時間も時間なので今日はここでお開きになっちゃったけど、他の地方のポケモンについてももっとたくさん知りたいと思った。



アイスを買いに行く碧雅を見送り、部屋でシンオウの地理に明るい璃珀と旅の経験のある晶を交えて次の目的地を決める。タウンマップを広げ周りを私たちが囲む。こう見るとヨスガシティはシンオウ地方のほぼ真ん中に位置する街だったんだね。流石“縁の街”だ。


「ヨスガから次の街に行くには2ルート存在するんだ。東に向かいズイからトバリに行くか、南からノモセへ行くか」
「僕たちとしては、トバリテシィに行くルートを薦める」
「距離的にはノモセシティの方が近そうだけど……」


ノモセシティとトバリシティの距離を比べると、トバリシティの方が街をひとつ経由するから遠いんじゃないかな?212番道路はウラヤマさんの屋敷に行く時に通ったけど穏やかな道路だったし、ノモセシティに向かうのに苦労はそこまでしないはずだ。
思ったことを伝えると晶が話を最後まで聞けと言葉を続ける。


「212番道路は少し変わっている。北側は昨日行った時のようにさして問題は無いが、南側は常に豪雨が降り注ぎ足元は沼地になっている」
「一度沼地にハマると抜け出すのが中々大変なんだ。ただでさえ体力を奪われやすい環境になっているし、ご主人は女の子だから。女の子をそこに向かわせるのは忍びないだろ?」
「な、なるほど……」
「不服ならお前のご希望通り過酷なルートにするが、どうだ主?」
「ぜひお二人の提案してくださったルートでお願いします」


ニヤリと笑い挑発してくる晶を尻目に頭を下げる。璃珀の若干困ったように笑った声が頭上から聞こえてきた。


「まあまあ晶くん。ご主人も知らなかったんだし」


ね?と頭を撫で優しく笑いかけてくれる璃珀は今この場で唯一の味方だ。そのまま実はね、と耳元で囁かれる。


「トバリに行こうと提案してきたのは晶くんの方からだったんだよ」
「……え」
「そういうこと」


その言葉の意味することは、つまり。晶の顔をチラリと見ると「なんだその顔は」と不快そうに顔を顰めている。


「あ、ありがとう」
「……急に礼を言うな気持ち悪い」
「あはは!晶くんも少し素直になればいいのに」
「ドラゴンクローを喰らいたいのかロン毛」


憎まれ口は変わらずだけど少しづつ、歩み寄れてる気がして嬉しかった。


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