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そして勿論、先程出会ったあの人も出場していた。それまでの出場者の演技の良さもあってか、彼女がこの街のジムリーダーだからか、観客たちの熱気は更に増していた。声援が送られる中メリッサさんは笑顔で観客たちに手を振り、ボールカプセルに入ったモンスターボールを投げる。


「“魅惑のソウルフルダンサー”……か」
「行きまショウ、ムウマージ」
『かしこまりネ!』


赤いラインシールから現れたムウマージというポケモン。魔女を連想させる雰囲気を持ち、どことなくこちらを見ているような気を覚えた。初めて見るな。図鑑をかざしてみるとタイプはゴースト単体。ということはメリッサさんはゴースト使いなんだ。
手始めにあやしいひかりを自身の周りに展開させ、不思議な色の球体がムウマージの周りをふわふわと漂う。器用にマジカルリーフも放つが光の球体を上手く操りリーフの葉に当てていく。自身の手足のように操ったそれを天高く上げ、サイケこうせんで大きな花火が舞いあがる。


『花火じゃん!たーまやー!』
『静かにしてくれる?隣だからうるさい』
『技の精密さ、威力共に申し分ないですね。流石ジムリーダーのポケモンと言った所でしょうか』
「うん。それに何より、とっても楽しそう」


それはこのステージだけに限らず観客も出場者も、審査員の方もみんな楽しそうにしていた。ポケモンバトルとはまた違う、ポケモンの魅力を最大限に引きたてる良さがある。根本は同じだと思うけどね。コンテストも興味があるけど、今はバトルの方を頑張りたいな。
演技が終わりお辞儀をするメリッサさんペアにスタンディングオベーションが浴びられた。




「ーー……あぁ!もうちょっとで勝てたのにー!」
「でも凄かったよ、決勝まで残ったんだから」
「演技も良かったしね。きみもお疲れ様ポッチャマ」
『フン、ボクにかかればあれくらい当然なのだ』


あれから無事ヒカリちゃんは一次審査を突破して二次審査へ。コンテストバトルも順調に勝ち進んで行ったんだけど決勝の相手はやはりと言うべきか、メリッサさんだった。ゴースト特有の豊富な技に翻弄されてしまったヒカリちゃん、何とか応戦していたけど時間切れでポイント負けしてしまったのだ。


「流石メリッサさんだなって思いました……。でも今回、とってもいい経験になった!」
「その意気その意気!今日はいっぱい飯作ったから食べてってくれよな」
「ポッチャマも良かったら、アイスティーありますよ」
「あ、緋翠。僕にもちょうだい」
「今日は自分でやりなさい碧雅」
「うぅ……みんなありがとう!ほら、ポッチャマもお礼言って!」
『これ美味いな。お前、褒めて遣わすぞ』
「恐縮です」


このポッチャマ、なんというか王様気質だね。というかコンテストの時とだいぶ雰囲気が違うような?紅眞も気になったらしくて早速ポッチャマ君に聞いていた。


『当然なのだ。ボクの魅力をアピールするための演技に過ぎないのだからな。ああやってニコニコして振る舞うと平民共が喜ぶのだ』
「アイドルみたいなこと言うなお前」


なるほど、ある意味オンオフがキッチリしてるのね。でもグッズが出るくらい愛嬌のあるその見た目と相まって威張ってるその姿は非常に可愛い。頬が緩むのを感じる。ヒカリちゃんは今日ヨスガシティに一泊して明日次のコンテストのために旅に出るみたいなので、今日は一緒にお泊まり会だ。
みんな自己紹介よ!とヒカリちゃんが残りのボールから仲間を出し、より室内が賑やかになる。


「明日はユイさんがジム戦なんですね、あたしは出発しちゃってるけど応援してます!」
「ありがとう!今日のコンテストバトルで少しメリッサさんの戦い方が分かったかもしれないし、コンテストすごく楽しかったよ!」
「今度はユイさんも出ましょうね!可愛くオシャレして♪」
「え゛」


うちのポッチャマはコーディネートが上手いんですよと得意気に言うヒカリちゃんと『お前のような女の子でもドロバンコにも衣装くらいにはしてやるのだ』とポッチャマ。文脈から考えて馬子にも衣装って事か。


「こらポッチャマ、失礼なこと言わないの!」
『いて』
「え?ヒカリちゃんポッチャマの言葉分かるの?」
「分かりませんよ。でもポッチャマの顔が失礼なこと言ってそうな気がして」
「流石パートナーだね」


ビックリした。ヒカリちゃんも私と同じかと思っちゃった。心の中で拍手を送る。緋翠や紅眞からそんなに落ち込むな的なこと言われたけど、落ち込んではいないよ。外見は普通が一番いいって思ってるからね。私は特別可愛くはないけど普通だ……と思いたい。


「そうだ!ユイさん、コンテストリボン見てみます?可愛いんですよ!」
「ほんと?なら私もジムバッジをーー」


そう言いバッグを漁る。けれど手は何も掴まない、いや掴めない。奥に行っちゃったのかとさらに漁るけど、薄い四角の形の物に当たらない。不穏な空気を察知しバッグの中を覗く。いつもの所に入っているはずのバッジケースは…………無い。


「嘘でしょ……」
「どうしたんだいご主人?」


絶望的な顔をした私に璃珀が呼びかける。
みんな、とか細い声で仲間を呼び、怒られること承知で息を飲み、覚悟を決めた。


「バッジ……無くしちゃったかも」


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