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「私、どうしてか分からないけどこうしてこの世界に来て今この時間、ここで生きてる。ポケモンのことはほとんど知らないから勉強して、決して楽しいことだけじゃなかったけどこの世界に来たことを嫌だと思ったことは無いよ。寧ろみんなとこうして知り合えて嬉しいし、旅に出て新しいことが毎日起こって楽しいもん」


だけど、アカギの最後に残した言葉は私の心に何故か深く刺さってしまって。恐らくステラという名前のあの人は……


「緋翠もそうだけど、人間のために利用された子がいるのも事実だよね。なのに、私はこんなに楽しんじゃっていいのかなって……ちょっとナーバスになっちゃってた」


子どもの楽しげな笑い声が聞こえる。ポケモンたちの笑い声も。彼らのように幸せに過ごしてる子もいれば、緋翠たちのように辛い境遇に遭った子たちもいる。それに関わっているのは良くも悪くも人間で、私もその人間で。私が彼らに酷いことを行った訳では無いけど、気にせずいられる程図太くもない。多分これは、エゴというものだ。だって彼らに何かしてあげられるのかと問われてもきっと私は何も出来ないから。自分がただそうしたいだけで。


「時間が経てば勝手に戻ってるから。大丈夫だよ」
「…………だってよみんな。どうする?」
『辛気臭いこと考えてないでいつも通りでいればいいのにね』
『別にユイがやった訳じゃないからそんな気にしなくていいのにな〜』
『マスターはお優しい方ですから、気になってしまったんでしょうね』
「……え、ええ!?なんで後ろに!?」


さっきまで遺跡に行ってたんじゃ!?と思ってたけどどうやら今日のふれあい広場に行くことは事前にポケモンたちだけで企てていたことらしい。嘘、でしょ……私そこまで心配かけさせちゃってたんだ……。
謝ろうとすると人型になった緋翠がそっと自分の手と私の手を重ねた。


「マスター、私を見てください。今私はどんな顔をしていますか?」
「えっと……笑ってる?」
「はい。皆と過ごす時間が楽しくて、幸せだから笑っているんですよ」


そう微笑むその顔は、気を遣って嘘をついているとは思えない。


(……この子は、どうして)


時々思うことがあった。緋翠のされたことを想像すればする程人間に対してもっと怒ったり、憎んだりしてもいいと思うのに、と。彼にはその権利がある。だからといって、復讐しろとは言わないけど。彼を優しいといえばそれまでだけど、あまりにも清廉すぎる気もした。そう伝えれば「そのようなことを思わないこともありませんでしたよ」と少し困ったように苦笑いする。でもと目を瞑り添えていた手を自分の胸元に当てた。


「この種族故でしょうか。どのような形であれ“貴方方”のお役に立てることが嬉しいと思う自分がいるのです」


その言葉を聞き、ストンと腑に落ちた。

分かった、彼は危うい。

紅眞が発電所で言っていた、「人間が大好き」というのも当たらずとも遠からずだ。ハクタイの森でのこと、ジュン君とのバトルのことが思い出された。森では私が止めなかったら彼は野生のポケモンに攻撃を仕掛けていた。ジュン君のバトルではムクバードのいかくに怯んだ私を見て倒れたムクバードに「おしおきです」と言っていた。私はいつの間にか自分の手に力を入れていた。
良く言えば忠誠心が高いけど、一歩間違えればそれは……
私が思考に耽っている間に碧雅が尻尾を緋翠の手に添えていた。それはまるで彼の何かを留めるように。


『……もっと自分を大事にしな。じゃないとユイが怒るよ、多分』
「た、多分って……」


碧雅の最後の言葉に文句はあれど、言っていることは私も思っていたことだ。


「緋翠、ありがとう。でもその優しさを私たちだけじゃなくて、自分にも向けてあげてね」
「?」


首を傾げる緋翠だけど、いつの日か分かってくれる日が来るといいな。


(……話がズレちゃった気がするけど)


要はみんな私を心配してくれたということだ。何故だか笑いが零れ、嬉しくなった。私はこんなに素敵な仲間に恵まれてる。原型ということもあったけど、無性にみんなを撫でたくなったので一番近くにいる緋翠から順番に頭をわしゃわしゃと撫で始める。


『わっ』
『おおっ』
『……雑』
「あはは、俺もやられるとは思わなかったな」
「普段のお返し!」


本当はお礼を言おうと思ったんだけど、ちょっと気恥ずかしくて。璃珀は人型だけどみんなと同じようにわしゃわしゃと乱雑に撫でる。
撫で回している矢先私のお腹が鳴ってしまい、恥ずかしい思いをしながらお昼ご飯が始まった。


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