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『先程のアカギという人物ですが、彼はギンガ団のボスにあたる方です。もっと早く動いておけばよかったのですが……申し訳ありません』
「ぼ、ボス……!?」
確かに只者では無い雰囲気はあったけど、まさかボスだったなんて。だから緋翠も彼に対して警戒していたんだ。なんだかここ最近は本当に危ない目に遭ってばかりな気がする。
隣でトコトコ歩く緋翠を見つめ、テンガン山でのアカギの言葉を反芻する。
(“E-256がいたことでステラから逃れられた”)
緋翠はギンガ団に実験体として使われたポケモンなのはみんな周知の事実だけど、具体的にどのような実験を施されたのかは知らない。いや、内容があまりにも聞きはばかられるものだし、本人が一番辛いだろうから知ろうとは思わないけど。
そういえば、前に緋翠はテレポートは自分の過去行ったことのある場所のみ移動ができるって言ってたような……昔、ヨスガシティに来たことがあったのかな。ぽかりと胸に穴が空いた感覚を覚えた。
(私、みんなのこと何も知らないなぁ)
思えば私は、仲間の過去を何も知らない。碧雅は何かを探しにシンジ湖に、紅眞は強くなるために、緋翠はギンガ団の実験体として、璃珀はまだ仲間になったばかりということもあるけど、私は彼らの昔を断片的にしか知らない。
知りたくないといえば嘘になる。けど闇雲に詮索されるのも気持ちのいいものではないし、デリケートなものだ。せっかく出来たこの絆を壊すようなことはしたくない。私の話を受け入れてくれたみんなのことを、私も信じたい。
「ユイ」
ふと名前を呼ばれたと思うと碧雅が人型で私の前に立っていた。またいつの間に出たのやら。ゲートを通り抜けた先に見えるのは煌びやかな街並み。ヨスガシティに着いたとわかると紅眞も先程までの空気を吹き飛ばすように元気よくボールから出てくる。
『おおー!着いたな!それじゃ早速ジムせ』
『いいえ!まずはマスターの疲れを癒すことが最優先です!』
『うっ、分かってるって』
『緋翠くんの目、燃えてるねぇ』
ボールから璃珀のくすくすとした声が聞こえてきた。あ、君は出てこないのね。
『勿論です。私が至らぬばかりにマスターをあの様な目に遭わせてしまいましたから……ここは全力でお疲れをとって差し上げねば……!』
「……なんか甘い匂いがする」
『ああ、それならポフィンじゃないかな。木の実で作るお菓子だよ』
「お菓子!?美味しそうだね」
『ならPCで部屋を確保したあと行ってみようぜ!俺も作り方知りたい!』
「その前に全員、通行止めになるから早く先に進んでね」
ガヤガヤと喋りながらPCに向かう私たち。私はその中で、表向きは笑っていたけれど、テレポートする直前に呟いたアカギの言葉が頭の奥底から離れなかった。
(……“アレは”)
その言葉から連想されるものは多々あれど、私はこの世界に来て初めて言い様のない恐ろしさを感じた。
“アレは、この世に存在してはいけないものが生んだ、兵器だよ”
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