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あれから数人のトレーナーとバトルをしながら進み、テンガン山の入口までやって来た。シンオウ地方を東西に分断する巨大な山は山頂が雲に隠れて見えないほど高い。タウンマップによればここを真っ直ぐ通り抜ければヨスガシティに着くらしい。

前クロガネトンネルを抜ける時は暗闇とズバットにビビっていたのに、今は慣れたものでスイスイと進んでいる。若干の成長を実感しつつ洞窟の中を進んで行くと、1つのボールが揺れだした。


『……!マスター、恐れながら申し上げます。この先に何者かがいます』
「え、突然どうしたの?」


緋翠の入っているボールががたがたと揺れ、警戒した声色で私にそう伝えてきた。足を止め耳を澄ますと靴のコツコツとした足音が微かに聞こえ、誰かがいることを示している。その音は徐々に、確実に、こちらに近づいていた。

でも誰かとすれ違うことなんてしょっちゅうあったのに、どうして今この時にそんなことを言い出すのだろう。私の考えていたことを読んでいたのか、緋翠は言葉を続ける。


『普段の人々とのすれ違いなら気に停めないのですが……この先にいる方は、この気配は恐らく』


どこか確信めいた彼の言葉を遮るように、低い男の声が響いた。


「君は世界の始まりを知っているか?」


階段から降りてきたのは、シンジ湖でも見かけたあの男だった。水色の短髪に、機械のように無感情の目。それが私を射抜き、動きを止めた。私が固まっているのもお構い無しに彼は話を続ける。


「このテンガン山はシンオウ地方始まりの場所、そういう説もあるそうだ。……出来たばかりの世界では争いごとなど無かったはず。だが、どうだ?」


男は手を広げ、洞窟の天井を見上げる。洞窟の天井は闇に覆われていて、何も見えない。私がいることを知って話しているのか、自分の説を説き伏せる演説者のように感じられた。


「人々の心というものは不完全であるため皆争い、世界は駄目になっている……愚かな話だ」


ひとしきり喋った後男は息をついた。そして私の顔を見たあと、少しだけ目を見開いた。一瞬しか顔を合わせてなかったし興味がなかったように見えたけど、ちゃんと会ったことを覚えていたらしい。


「君は、シンジ湖にいたトレーナーか。報告に上がっていた人物の容姿と一致しているが……君だったとはな。何故我々の邪魔をする」
「邪魔も何も、初めはただ流れでそうなってしまったというか……いや結局私がそうしたかったというか」
〈お下がり下さいマスター。これ以上あの方と話す必要はありません〉


ボールから緋翠が飛び出し、私と彼の間に立ち塞がった。男を見つめているから顔は見えないけど、いつもの緋翠とは違う、強い目で彼を見つめていることは背中から伝わった。緋翠がここまで警戒するなんて、彼がギンガ団の人なのはわかるんだけど、そこまでの人物なのか。マーズやジュピターといった幹部クラスなのか、それとも……。
緋翠を見た男は口元に弧を描いた。


「なるほど、E-256がいたことでステラから逃れられたということか。よくここまで懐かせたものだ」
「……!」


色々と気になることがあるけれど、私がムッとしてしまったのは彼の緋翠に対する呼び方だ。確かに彼はギンガ団の実験体だったけど、ラルトスという種族名ではなく“E-256”という実験体ナンバーで呼んでくることが嫌だった。ただの自分のエゴだろうけど、その不快さに私は顔を顰めた。
苛立ちが募ったまま一つ気になっていた疑問を彼に投げる。先ほども名前が出てきた、自分のパートナーと同じ顔立ちをした“人”のこと。


「……その、ステラって人は、何者なんですか」


あと、あなたも。
緋翠のこともあったのでついでにとばかりに男についても伺ってみた。ちょっとした嫌がらせだ。
そう伝えると男は考えるまでもなく淡々と、その答えを言った。


「私の名はアカギ。そしてステラについてだが……“アレ”は、その名の通りのものだ」


アレ?
おおよそ人(彼は擬人化したポケモンだと思うけど)に対して向ける言葉とは思えない。同じ仲間だと思っていたのに、何故そんな言葉を使うのだろう。出された答えも釈然としないけど、私はあまりアカギとこれ以上話をする気にはなれなかった。


「君は“アレ”に人という言葉を使うのだな」
「どうしてそんな言葉を使うんですか、仲間じゃ、ないんですか……?」
「そうか。きみは知らないのか」


淡々と述べる言葉の中に、嘲笑が含まれているのを感じた。


「アレはーー……」




私は白い光に包まれて、気づいた時は次の街のゲートの前へ立っていた。


「……あれ、ここどこ?」
『申し訳ありませんマスター。許可を取らず勝手な行動を起こしてしまいました』
『ここは、ヨスガシティのゲート前だね』


どうやら緋翠がテレポートでここまで移動してきたらしい。ボールから出てきて頭を下げる緋翠に説明して欲しいと伝えると、言われるとわかっていたか頭を上げ、歩きながら話してくれた。


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