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「私たち、明日出発することになったんです。色々と、本当にお世話になりました」
「別に返さなくても良かったのに、律儀だね」
「いや、それだけじゃなくて他にも多々ご迷惑をおかけしてますからね!?」


本当なら何かお礼の品を差し入れたいところだけど、何をあげたら喜んでくれるか検討がつかない。この人の場合は大丈夫だよと遠慮しそうだし。
それに、一つ気になっていたことがあったのだ。ハンカチを受け取り上着にしまう璃珀さんに疑問を投げかける。


「碧雅には会って行かないんですか?」


目が覚める前は連日お見舞いに来てくれたのに、目が覚めると途端にパタリと来なくなってしまったのが気になっていた。単純に璃珀さんにも予定があったのかもしれないけど、それにしてはある意味タイミングが良すぎる気もする。まあ碧雅、何故か璃珀さんに辛辣だったから会いたくないのも正直分からなくもないけど。


「……ユイさんって、時々悪い子になるね」
「えっ?」


小さな声で呟かれたそれを上手く聞き取れず首を傾げる。


「ねえ、あの子誰?もしかして彼女?」
「えーっ!ウソでしょ!?狙ってたのに」
(そんなわけないでしょうがお姉様方)


私より数段色んな意味で大人っぽい美人お姉様たちの会話の内容に対し心の中で全力で否定する。ていうかこの人ポケモンですよとつっ込むと同時にふと疑問が浮かんだ。人の姿をしているポケモンと人間の恋愛って、有り得るのだろうか。会話が彼にも聞こえていたのか、私の心の中を読んだのか。少し昔話をしようかと話し始めた。


「“人と結婚したポケモンがいた ポケモンと結婚した人がいた 昔は人もポケモンも おなじだったから普通の事だった”」
「……それって」


ねえ、ユイさんと意味深な顔を向けられたまま言葉は続く。


「有り得ないことは、有り得ないんだよ」


私は何も言うことが出来ない。さいみんじゅつをかけられたわけでもないのに、目が離せない。


「俺“たち”が何の見返りも求めずに、無償で手助けをすると思うかい」
「えっと……何か、欲しいんですか」
「うん、そうだね」


優しく壊れ物を扱うように顎に手を当てられる。滑らかな手触りと緊張する空気で普段より敏感に、擽ったく感じる。薄水の瞳は細められ、気づけばその丁寧な顔立ちの整った顔が目の前まで近づいていた。自分の鼓動が大きく鳴るのを感じ、恥ずかしさのあまり目を瞑る。耳元で小さく笑った息が、聞こえる。


「ユイさんが、欲しいなぁ」


息遣いが聞こえるほど近く、囁かれたそれに私の頭はキャパオーバーしそうだった。頭から湯気が出そうなほど熱く、顔は真っ赤になっていることだろう。


「……む……」
「うん?」
「むむむむむ、むりです!!!」


真っ赤な顔で目を瞑ったまま大声で返事した。その声に驚いたか、遠くで鳥ポケモンの羽ばたく音が聞こえる。多分ムックルだろうな。しばしの静粛の後、「ぷっ」という吹き出した声が耳に入ってきたので、目を開けると璃珀さんが面白そうにお腹を抑え笑っていたのだ。先程の妖艶な雰囲気は何処へやら、私は目が点になっている。


(こ、これはもしや)


私、からかわれた?

自分だけ本気に捉えていた恥ずかしさやからかわれた怒りよりも、そりゃそうだという納得した気持ちの方が大きかった。こんなに綺麗な人だもの、選り取りみどりな中私なんかを好く方がおかしい。


「ご、ごめんねユイさん。でも初心で可愛い反応見てるのが楽しくてつい」
「いえ、あの……なんかすいません」
「ああでも、俺がユイさんのこと欲しいのは本当だよ」
「はい?」


サラリととんでもないこと言われたような。理解が追いつかない私に「言い方を変えようか。俺は、ユイさんのことが好きだよ」といつもの笑みと共に告げられた。

………………す、き?

だれが?この人が。だれを?私を。すき。好……き……?


「はあぁぁぁぁぁあぁ!!!?」


私、ユイは人生で初めて告白というものをされました。


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