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そして夜。みんな寝静まった頃私は何故か寝付けなくて飲み物を飲むために起きていた。ついでに碧雅の様子を見に行こうと病室にお邪魔する。空気が綺麗だからか窓から月の光が美しく差し込んでいた。カーテンを開け夜空を見ると満天の星空。


(あ、流れ星)


確か3回願い事を唱えると願いが叶うんだっけ。流れ星が消える前に言わなきゃいけないからほぼ無理だけどね。気休めに手を組んで目を瞑る。


(碧雅が目覚めますように、碧雅が目覚めますように、目覚めますように……)


流れ星が降ってようが降ってなかろうが関係なかった。ただ私がそうしたかっただけ。流れ星はとっくに過ぎ去ったのに私はまだ祈りを続けていた。考えていたのはこれまでの事。

そもそも私はどうしてこの世界に来たんだろう。改めて他の人に話したことで自分の中でも話の内容に整理をつけることが出来た。できて尚のこと、なぜ自分がこの状況に陥ったのか分からない。
私は特にこれと言った特徴もない、普通の人間だ。いや、強いて言うなら親が分からない位なんだけど。物心着いた頃には既に両親は消息不明で、私は施設から養子として引き取られ優しい老夫婦の元で育てられた。本当に、優しい人たちだった。あの人たちに何も返せてないことが唯一の心残り、あと友達にも挨拶してないし。私がいなくなって向こうは今どうなっているんだろう。このまま旅を続けていけば、いつかきっと……。


“この旅を続けて、伝説のポケモンについて調べていけばいつか帰る方法が見つかる?本当に?何もわからなかったらどうするの?”


心の奥で封じていた不安が襲いかかる。ゲームの主人公と同じ流れに乗っ取って私も旅をしてみたけど、本当にそれで正しいのか分からない。でも、旅を続けていくうちに新しい自分が芽生えるのを感じていた。ポケモンたちと絆を育むこと、ジムリーダーに挑戦していくこと、他のトレーナーとバトルをして、ポケモンについて勉強して。大変だけどとてもやり甲斐があって、楽しくて。危険なこともあるけど、共に戦いたくて。

紅眞たちが話を信じてくれて、着いてきてくれることを知ってしまったから。


“みんなともっと、一緒にいたい”


ダメだ。私は帰るんだ。ここにいては行けないんだから。祈りの手は形を変え、両手で身体を抱き込む。俯いた顔は月明かりで影になっている。


(部屋に戻ろう)


少し眠れば落ち着くはず。病室を出ようと夜空から目を離し振り向いたその時。


『…………ん……?』
「…………!」


ずっと眠っていた目が開いた。情けないくぐもった声が出た。くぁと欠伸をした碧雅は周りを見渡し、私を見つけると眠そうな声で『おはよ』と声をかけた。


「……み……」
『ふぁ〜……よく寝た……』
「碧雅ぃ〜!」


深夜にも関わらず大きな声をあげ勢いよくその青い身体を力いっぱい抱き締めた。カエルが潰れたような声を出した碧雅は寝起きのとろんとした顔から一転して何が起きたか分からない困惑したものに変わった。


『え、何』
「うわあぁ良かったよぉぉ!このまま目が覚めなかったらどうしようってずっと心配してたんだからぁぁ!」
『うるさい』


しっぽで頭をはたかれる。なんかデジャブだけど今は目が覚めてくれたことが嬉しいからなんでも許しちゃいそう。身体にどこか異常はないか至るところを触りながら確認している私に訝しげな視線を投げながら『どこも悪くないから離して暑苦しい』と言われたので渋々離れた。一息ついた碧雅は人型になり繋がれた点滴のチューブを自分で外した。え、大丈夫なのそれ。


「アイス」
「アイス?」
「食べたい」
「ほんっとアイス好きだね」


通常運転なのは安心だけどちゃんと後でジョーイさんに謝ろうね?仕方ないとばかりに心の中でため息をひとつ吐き、一つ思い出したことがあったので泊まっていた部屋に戻り、持ってきた“それ”を落とさないように運んでくる。紅眞が碧雅と仲直り兼目覚めた時の復活祝いに作っていたアイスだった。「もういつ起きてもいいようにバッチリだぜ!」と言ってたから味は問題無いだろう。なんたって紅眞お手製だし。小さな器にアイスをよそい、スプーンと一緒に手渡した。


「全部はダメだからね!」
「えぇ〜……分かった」
「聞き分けがいい……だと……」
「まあ一応、迷惑かけたみたいだし」


と言いつつあっという間に平らげてしまった。アイスに関しては底なしの胃袋だな。まだ口寂さは残るみたいでアイスをジーッと見つめている。無言で訴える猫か君は。でも冷凍庫に入れないと溶けちゃうし。


(……あ、これなら諦めるんじゃないかな)


スプーンでアイスを一口掬い、碧雅の口元に向ける。


「はい、あーん」


今の私はとてもにっこりスマイルを向けていることだろう。碧雅も呆気に取られたような顔をしていて、何が起きたか分からないような顔だ。どうだろう、これはかなり恥ずかしいだろうから流石のアイス好きな碧雅も諦めるんじゃないかな。
……というか、いくら諦めさせるとはいえ、やる側もかなり……私何をやってるんだろう。


「えっと、やっぱじょうだんですぅ!?」


深い青色の目がドアップに映る。ぱく、とスプーンに乗ったアイスを一口平らげる。舌を舐め、ようやく満足したのかその口元は少し微笑んだように見えた。目もいつもより優しいような、そんな錯覚を覚えた。


「……うん、ありがとう。ご馳走様」


寝るからと言われ欠伸をまたひとつ零しベッドへダイブ。規則正しい寝息が聞こえてきたところで私は唖然としていた意識を取り戻し溶けかかったアイスを零さないように部屋に持ち帰る。けれど先程のことが頭をよぎり、思い出す度に頭を思い切り振る。


(ほんとに、食べるとは思わなかった……)


顔が熱いのは、きっと慣れないことをしたせいだ。


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