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突然のことに避けられなかったグレイシア君は、赤い光に包まれボールに入った。ボールはゆらゆらと揺れながら、ポンとはじけた音をひとつ奏でた。さっきまで無感情だった男性が初めて驚きという感情を見せた。
「は……?え、な……!?」
「これで、グレイシアは私のポケモンになりました。あなたなんかに渡しませんよ!」
グレイシア君が入ったボールを男性に向けて掲げる。ボール自体はギンガ団の人のだったけど、入れて取ったのは私だから私のってことでいいよね?多分。私が肌身離さず持っていれば向こうはグレイシア君に手が出せない、はず。
ギンガ団員は驚きの表情から、すぐに落ち着きを取り戻し無表情に戻った。
「お忘れですか?私がまだポケモンを出していることに。グレイシアを捕まえるのはあなたを倒してからという過程がひとつ増えただけでなんの支障もありませんよ」
「で、ですよね……」
『君ほんと何やってるの!?早くここから出しなっての!』
分かってましたそんな予感は!なんかほんのり怒ってるっぽい!命の危機だ!死ぬ!!
グレイシア君もご立腹だよごめんなさい!
「スカンプー!彼女に攻撃しなさい!」
「わ!ほんとにきた!?」
スカンプーは迷いなくこっちに爪を向けてきた。間違いなく当たったら皮膚が裂けて……うん、これ以上考えるのはやめよう。間一髪避けて走り出した。逃げ先は……あそこだ!
「冷たっ!」
「なっ、シンジ湖に入った……!?」
水の中なら向こうも泳がざるをえないから、攻撃までに時間がかかると踏んだ末の行動。もっといい考えもあっただろうけど、私の頭と咄嗟の状況判断ではこれしか出なかった。泳ぐことが出来た自分に心から感謝だ。できるだけ奥まで泳いで、あの小島に着いて体制を立て直せれば……。
『おい!向こうが1体だけしか持ってないって勘違いしてないよね!』
「え?」
グレイシア君の忠告も時すでに遅し。ギンガ団員の方を見れば開いたボールを持っていた。
「ズバット、ちょうおんぱ」
「いっ……いだぁああぁ!?」
頭が痛い……!片手で頭を抑えながら、もう片方の手でボールを自分の方に寄せる。空を見ればコウモリのようなポケモンがいた。空を飛べるポケモンを持ってるなんて、卑怯だ。
頭が痛くて、ちっとも進めない。ボールを見るとグレイシア君にもちょうおんぱが届いているようで、苦しそうだった。胸元に寄せて少しでも攻撃が届かないようにする。
私が甘かった、カッコつけるだけつけといて、何も出来やしない。ズバットが近づくとちょうおんぱの威力が増して、頭が割れそうになる。だんだん意識が薄れ、ボールを抱えてた手が、力を無くしていく。嫌な笑みを浮かべるギンガ団が目に入って、涙が出そうになった。
(ほんと、私って、ばか、だ)
視界が暗くなった、その時。
(いいものを見させてもらったお礼だよ)
ドゴォン!
誰かの声が頭に響いたのとズバットが吹き飛ばされたのは同時だった。ズバットは湖で浮かんだまま目を回してる。あれは、戦闘不能ってこと?倒されたことによりちょうおんぱの頭痛は消えていた。何が起こったか分からないまま、今度は私の体がふわりと浮いた。
(君の心の清らかさに免じ、ここは助けてあげる)
その声を最後に急激な眠気に襲われ、私は意識を手放した。
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