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紅眞がなにか言いたそうにモゾモゾ動いているけど、残念ながら口元も塞がれてしまっているので声を聞くことが出来ない。下では璃珀さんも戦っているし、早くこの人を倒さないと。


「れいとうビーム!」
「かえんほうしゃで打ち消しなさい」
『分かってるわ』


嘘、あのスカタンクほのお技が使えるの!?避けることも考慮してか威力をいつもより弱めたれいとうビームはかえんほうしゃに相殺されこちらに襲いかかる。みずのはどうを咄嗟に出したから当たることは無かったけど、効果抜群技を持ってるのはかなり危ない。特に有効打を得られぬ中、遠距離攻撃でじわじわと攻めていくしか無かった。
けれど長期戦になることは初めてで、自分のフィールドでトレーナーとしての経験も豊富な向こうとは違い敵地の中。早く終わらせないとという気持ちが焦りを呼び、頭が上手く働かない。

それに敵はもちろん碧雅にも体力はあるわけで、ジャンプして着地した一瞬の隙をつかれスカタンクのつじぎりを避けきれずモロに喰らってしまった。名前を叫び駆け寄った私を見て、ジュピターは嘲笑を送る。


「そんなに怯えてるようじゃ勝てないわよ?マーズに勝ったと聞いていたけど……予想していたよりずっと弱そうな子ね」
「っ……」


悔しい。ジュピターに言われたこともそうだけど、“早く済ます”ことに囚われて焦って碧雅に上手く指示を出せなかった自分に腹が立つ。そんな悠長なことを言える相手ではないのに、ジムバッジを2つ手に入れられたことが自信に繋がったのかどこかで勝てると思っていた自分がいた。
『この……』とまだ立ち上がろうとする碧雅だが、流石にずっと攻撃を避け続けていた反動か、もう体力はほとんど残っていないようだった。アチャモだった頃の、ボロボロになった紅眞がフラッシュバックされる。


(碧雅の言う通りだったんだ。今までは、運が良かったんだ)


ごめん、ごめん。
目の前で疼くまる碧雅を抱え、スカタンクを睨みつける。とどめをさしなさいと冷たい声と共にスカタンクは鋭い爪を出した。何があっても離すもんか。来るであろう痛みを覚悟し、きつく目を瞑ったその時だった。


「おーおー。やってんじゃねぇか」


呑気な第三者の声。それはすぐ近くから聞こえてきた。恐る恐る目を開けると、見えたのは黒いブーツ。徐々に見上げると全身を黒い外套で覆った人が私とスカタンクの間に立って私を見下ろしていた。フードで見えない目で見られているのを感じ、ぞくりと背筋が震える。


「ステラ。待機していろと伝えていたはずだけど」
「あぁ?俺が何しようと俺の勝手だろうが。それより、コイツ誰」
「あなたが連れてきた2匹のトレーナーよ」


そう聞くとステラと呼ばれた人は訝しげに私を注視し、抱えられてる碧雅を見た。


「なんだよ、やられてんじゃん。やっぱり俺が来る必要なかったじゃねぇか」
「もしもの為、アカギ様の命令に従いなさい」
「ちぇ、くだらねぇ」
『姉ちゃん、逃げろ!その白髪やばいから!』


この様子から見るに、この人もギンガ団の仲間なんだ。下っ端……とは思えないし、ジュピターと対等に話してるのを見るに、相当の立場にいるのは容易に想像できる。
口の拘束を自力で解いた紅眞が原型のまま私に向かって叫ぶ。その声を聞いた途端、ステラという人は一瞬のうちに紅眞を片手で掴み、壁に叩き付けた。


「おい、その白髪って言うのはやめろ」
『……ぐ……っ……』
「ちょっと、やめてよ!」
「ハッ、これから殺られるのに何言ってんのお前」


そう言い掴んでいた紅眞と拘束されている緋翠を私目掛けて投げ込んできた。二人同時は無事にキャッチすることはできず、バランスを崩し床に倒れ込むように尻もちをつく。
先ほどいつの間にか私の前に現れた時といい、このパワーといい、何この人。人間じゃないみたいな……人間じゃ、ない?


(彼は、ポケモン?)


なぁジュピターと彼は私たちの方を向きながらジュピターに問いかける。


「もうこのビルは用済みなんだろ。なら、多少ブッ放してもいいよなぁ!?」


……なに、アレ。


言葉を失った。彼の手から現れたものは、禍々しい色をした球体。それは人の手に収まる大きさから膨らみを増していき、遂には彼より何倍も大きなものになった。ポケモンは人型だと技の威力が大きく下がると聞いたけど、原型でもあそこまで巨大なものを作り出せるものはいるのだろうか。
球体が発する風も徐々に勢いを増していき、吹き飛ばされないよう体全体に力を入れる。そして彼の被っていたフードも耐えられずめくれた。
紅眞が白髪と形容したくらい白に近い、雪のような銀髪が現れた。


(…………え、?)


その顔には見覚えがあった。いや、あるどころか、毎日見ていると言っても過言じゃないくらい見慣れた顔だった。


「……みや、び……?」


銀の髪に金の瞳を携えたその人は、私の相棒と同じ顔をしていた。


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