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「……さっきから君、事態を悪化させてる気がするんだけど」
『こういう人たちには俺みたいなのはいいエサだからね』
「ズバット、すいとるだ!」


背後から羽音を立てて忍び寄るズバットをその長い尾で縛り付け、そのまま尾は水を纏いズバットを勢いよく床に叩き付ける。重力も足されたアクアテールに小さな体は耐えられず、見えない目を回し倒れてしまった。ちっと団員の誰かの舌打ちが聞こえた。


「えっぐ」
「こわい」
『2人とも酷いなぁ。バトルはこういうものだろうに』
「まだいくぞ、ニャルマー!」


その言葉に続きビッパ、スカンプー、グレッグルといったそれぞれの手持ちに指示を出し一斉に襲いかかる団員たち。バトルのルールなんてお構い無しだ。ふと先ほどのさいみんじゅつで眠っている団員たちに目が行く。あのままじゃ危ない。


『自分の仲間が近くで無防備に寝てるのに、困った人達だね』


その言葉の後に放たれた湯気を伴った水流はポケモンたちに向かい、ジュワッという音と共に白いモヤが巻かれた。ポケモンたちの『あちち!』という声が聞こえ、私は長い物に背中を押されている。ミロカロスの尾だ。


『ここは俺に任せて先に行っておいで。その方が効率がいい』
「で、でも……」


言葉には出さなかったけど、それでは本当に囮役を買ってでるようなものだ。一緒に残ることを伝えようとするが、そっと遮るように尾の先っぽを当てられた。


『元々そのつもりだったのさ。その方が彼も安心するだろうし』
「彼?」
『俺から言うと怒られちゃうから言わないでおこうかな』


今この場に当てはまりそうな“彼”は碧雅だけど……璃珀さんの放った技にダウンしてるポケモンたちを見て引きつった表情をしてる。あんな顔初めて見た。「ほんとえげつない技持ってるなこの海蛇」ってドン引きしてる。確かに碧雅に熱いものは人物問わず苦手そうだもんね。


『ほら、行ってらっしゃい。無事に仲間を助けられるといいね』
「は……はい!碧雅、行こう!」


急かされるまま碧雅を呼び、離れたと同時に今度はハイドロポンプが放たれ、注目は完全にそっちに移る。璃珀さんに夢中な団員たちに気づかれることなく階段を駆け上がった。
あれ、何の話をしてたんだっけ。




2階、3階とフロアを移るけれど人が誰もいない。如何にミロカロスというポケモンが珍しく、人間を惹き付けるのかがよく分かる。そして今、おそらく最上階であろう階段の前まで私たちは到達していた。この先に、紅眞と緋翠がいるはず。そしてジュピターという人もいるんだ。大人しく返してくれるとは思わない、バトルになることは見えている。戦闘が始まる前に伝えておきたいことがあった。
私より前に立つ碧雅に声をかける。何と振り向いたその顔は、いつも通りの平静な表情だ。


「紅眞たちを助けられたら、私がこの世界の人間じゃないことを伝えようと思う。帰るための手がかりとして旅をしていることも、私の世界ではポケモンはフィクションだったことも、全部」


それを聞いて2人がどう思って、もし仲間を抜けたいと言っても受け入れることも。

話を聞いた碧雅が階段にかけていた足を下ろし、私の方に向き合う。そうと一言だけ呟き、「ユイが決めたのなら僕は何も言わない」とだけ。碧雅は気休めの言葉をかけるような性格ではないから、かえってこの方が有難かった。
きっと2人のことだから話を聞いて、信じてくれるかもしれない。でも今までずっと事情を黙ってて、違う世界からやってきたなんて素っ頓狂なことを言う人と一緒に行きたいと誰が思うのか。


(いけない。今はこういうことを考えてる場合じゃない)


モヤモヤとした気持ちを振り払い、最上階の階段に足を踏み入れた。

最上階のフロアは広い一室となっていて、その真ん中に縄で縛られた紅眞と緋翠がいた。そして2人の前に立つ毒々しい紫色の髪を上下のお団子でまとめた大人の女性。あの人が“ジュピター様”なんだ。こちらが来ると分かっていたのか、落ち着き払った態度で私たちを迎えた。


「何か用かしら?……と聞くまでもないわね、あなたのポケモンを取り戻しに来たのよね」
「ええ、返しては……くれませんよね」
「よく分かってるじゃない。あなたには何回も邪魔をされてるから、この機会に始末しようと思ってたのよね」


紫のリップをつけた唇に弧を描く。すると何かが近づく気配を感じたと同時に碧雅のこおりのつぶてが炸裂する。先制攻撃で放たれたそれを避けたポケモンはスカタンク。やりなさいというジュピターの指示に応えるように臨戦態勢に入った。


「……碧雅、お願い」


フロアに上がる前にグレイシアに戻っていた碧雅が前に出る。どこか余裕そうなジュピターの様子に、嫌な予感を感じた。


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