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沈黙の時間が続く。璃珀さんは(一部残して)氷漬けなのにニコニコしてるし、碧雅は何故かご機嫌ななめだし。私が何か言ったところで余計な事を言いそうで、何が火種になるか分からないのが怖い。何だってこんなことに、現実逃避をしたくて遠い目で空を見上げた。


『さっきのは驚いたな!無事かお前たち』
『アニキ!全員無事ですぜ!』


静寂な空間を壊すように元気な声がした。どうやらムックルの群れがポケモン像に集まっているようだった。どこか興奮した様子で仲間の無事を確認している。


『それにしてもあれは、あのビルから出てきたヤツで間違いないようだな』
『あの赤いヤツ、大丈夫ですかねぇ』
「赤いヤツ?」


私の呟きが聞こえたのか、2人もムックルに気づいたようだった。


『オイラたちが飛び立った後、また別のポケモンが出てきたからな。2匹ならなんとかなるだろ』
『あのポケモンはなんでしたっけ?シンオウじゃあまり見かけないからわかんねぇや』
『たしか、ラルトスだったと思うぞ』


ラルトス、それにさっき言ってた赤いヤツ。まさか緋翠と人型の紅眞のこと……なのかな。思わずムックルに向かい話しかけた。


「ねえ、ムックルたち。その話詳しく聞かせてくれない?」
『ん?なんだ人間か……横にあるのはなんだアレ』
『氷像か?』
「あ、これは……」
「こいつを捕獲中」
『そ、そうなのか。お前たちポケモンなのか。オイラたちにこおり技は効果抜群だからこいつに同情するぜ……』
「そうかい?氷の中は意外に気持ち良いものだよ」
『ソ、ソーナノカ……』


引いてる。引いてるよムックルたち。完全に頭やばい人の集まりだと思われてるよ。この微妙な空気を遮るように大きな声を張り上げる。


「と、ところで!何があってこっちに来たの?」
『実はな、この先の公園で休んでいた時にバトルに遭遇したんだ。ただのバトルじゃないぞ、人型同士のだ』
「人型同士?」
『なんのためにやったのか分かったもんじゃないな。種族も分からないし、人間にはポケモンだとバレちまうのに』
『お前たちも程々にしろよー』
「は、はい。それで、ラルトスらしきポケモンが出たあとどうなったか分かる?」
『2匹とも捕まっちまったぜ。ここから見えるか?あそこのビルに連れてかれたはずだ』


翼で指差して教えてくれた。そろそろ行くからなーと飛び立つムックルたちにお礼と別れを告げ、碧雅にどうするか言葉を投げかける。


「一応PCに戻って確認しよう。それでいなかった場合は、ムックルの話の通りだろうしね」
「うん。そうと決まったら……の前に」


璃珀さんを覆う氷に“なんでもなおし”を振り掛ける。すると氷はあっという間に溶けてしまった。わあ、人型でも状態異常の“こおり”状態になるのかなと思って使ってみたけど、本当に効果があった。ようやく動けた璃珀さんは腕を軽く動かしている。うん、特に問題は無さそうだ。


「げ、なんで助けてるのそいつ」
「元々悪いのは私だよ。……璃珀さん、私たち行きますね。念の為、オレンのみも渡しておきます。
それと本当に、酷い態度を取ってしまってごめんなさい。そんな人じゃないの分かってたはずなのに、私……」


俯いた私の顔をそっと上げ、大丈夫だと言わんばかりに優しく微笑まれる。


「こちらこそ、手荒な真似をしてすまなかったね。……あのビルに行くのかい?」
「はい。仲間がひょっとしたら捕まったかもしれないから」


多分、いや十中八九。あのビルはギンガ団の所有物なんだろう。おそらくハンサムさんが教えてくれたアジト。結局、彼らと再び戦うことになるんだな。ギンガ団の件で喧嘩していたはずのなのに、碧雅はビルに向かうことに反対はしなかった。今はそれどころじゃないと判断したんだろう。彼の中でも、紅眞も緋翠も大事な仲間に変わりはないと思うから。


PCに戻り部屋を確認したところ誰もいない。もしかしたらという一縷の期待も崩れ、意を決した私たちはギンガハクタイビルの前にやって来た。この素朴な雰囲気の街並みには似合わない近未来的な建物だ。


「何処にいるのかな、紅眞たち。手当り次第に探す?」
「効率が悪すぎる。それに絶対にギンガ団が待ち伏せてるよ」
「こういう場合は大抵最上階にボスと一緒にいるというのが相場だろうね。上を目指すのはどうだい」
「なるほど……ってなんでいるんですか」


当たり前のように会話に混ざってきているけど、いやなんでここに居るの。その綺麗な顔からキラキラという効果音が似合う謎の輝きが放たれてる気がする。


「なーに、助けられた恩を返しに来ただけさ。それに戦力は少しでも多い方が良いだろう?」
「囮にも使えるしね」
「あのねえ碧雅……」
「はは、ご主人様を危険な目にはあわせないから安心してくれ」


前途多難な予感はするけれど、この先に待っているであろう2人を助けないと。深呼吸をして緊張をほぐし、スライド式のドアにそっと手を伸ばした。

空は、まだ曇っている。


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