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森の木々に光が覆われた一つの館。まだ昼間だというのにその空間だけ仄暗い。
この森全体が薄暗いのだが、明らかにその館だけ空気が違うのだ。廃れたそこにはじっとりとした湿気の多い空気が広がる。
それが本能で伝わるのか、この一帯にポケモンはおろか生き物の気配は感じられない。だが、その扉の前に佇む唯一の“生きているもの”がいた。

それは、人の形をしていた。


「よぉ、来てやったぞ」


ぶっきらぼうな口調。声からして少年だろうか。黒い外套を纏っているため顔はよく見えない。
誰に投げかけた言葉か、それは森の中に溶けて行った。


「……いねぇのか」


静かにぼやいた彼の背後に現れたのは、この館に住むゴーストタイプのポケモン。音も無く、気配も無く、まさに影のようにゆらりと近づく。
黒い手が少年のローブに、触れられる、


「──とでも思ったか?」


いつの間に移動していたのか。残念だな、と実体を持たないゴースの後ろに回り込み、その核に人差し指が触れた。その指はおよそこの世のものでは無いと言われる彼らよりも冷たく感じられた。
ピン、とそのまま核の球体にデコピンが一発入る。


『イテテ。イケルトオモッタンダケドナア、アハハ』
「お前俺の後ろに立った時舌出してただろ、モロバレだからな」
『ア、バレタ』


てへ、と茶目っ気のあるゴースに対しくだらねぇと悪態をつく。


『デモ、オマエノオカゲデココニクルヤツラ、タクサンオドロカセラレタンダ!オレ、ウレシイ!タノシイ!』
「そりゃ良かったな」


ここは森の洋館。
過去に何があったかは不明だが、ご覧のようにゴーストタイプのポケモンが住処にしており、時にはこの世のものでは無い何かが存在している場所。
このゴースもそこに住む一匹。肝試しに訪れるトレーナー達を驚かすのが趣味のポケモンだ。

陽気なゴースにそのまま付き合っていると自然の中に不釣り合いな機械音が鳴り響く。心の中で舌打ちをしながら少年は通信機を手に取った。


《どこで油を売っている。早く戻って来い》
「うるせーな、どこで何しようが俺の勝手だろうが」
《今日はお前にも仕事がある。マーズから我々に歯向かうトレーナーがいると報告が入った。よってもしもの時のため、護衛につけとの事だ》
「……俺が行く必要あるのかよ、過剰過ぎやしないか」
《場所はハクタイビルだ、ちゃんと来るように》


要件だけを言い残し、向こう側の者は電源を落とした。通信機を握りつぶして壊したい衝動に駆られながらも、ハクタイビルならここからも近いし、仕方ないかと息を吐いた。


『モウイクノカ』


まだ遊びたかったのに。そう訴える瞳を向けられたが少年は目を合わさず、目にも止まらぬ速さで木に飛び移る。その動きはとても人間のそれではなく、獣のような。
少年の速さに翻弄されたローブが風にめくれ、その顔を表した。


「悪ぃな、また今度な」


その目はこの空間で唯一眩く、星色の目をしていた。


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