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我が家の料理担当といえば紅眞。今日はサンドイッチをいっぱい作ってくれた。適当な芝生にレジャーシートを敷いて、ピクニック気分を味わうことにしよう。みんなでいただきますと食事前の挨拶をする。そういえば、緋翠も含めた全員で食べるのは初めてじゃないかな。
「こ、これは……なんと美味な……!」
うんうんだよね、感動するよね。初めて緋翠とご飯を食べたのもサンドイッチだったっけ。私が作ったわけじゃないけど鼻が高いぞ。碧雅も何も言わないけど黙々と食べてるから美味しいってことだよね、最近分かってきたよ。
「凄いです紅眞様。素材の味を活かした調理……是非教わりたいものです」
「姉ちゃんにも教えてるぜ。みんなで作った方が楽しいし、今度一緒にやろーぜ!」
「はい、よろしくお願いします」
「ていうか俺、まだあの時のお礼言えてなかったな。発電所の時は助けてくれてありがとうな!」
確かに、あの時タイミング良く緋翠が現れてリフレクターを張ってくれたおかげで紅眞はこうして元気でいる。エスパーならではの瞬間移動ーーテレポート。位置取りも完璧だったように思う。
「お役に立てて何よりです。あの時はギンガ団の気配を感じたので、気を辿り向かわせていただきましたから」
「へぇー……もしかして、この森もテレポートで抜けられてハクタイシティに行けちゃう、とか!?」
もしかしたら森を早めに抜けられるのではという淡い期待を寄せる。だが緋翠は眉を下げ申し訳なさそうに告げた。
「残念ですが、私が一度行ったことのある場所でなければイメージが難しく、仮にテレポートしたとしても違う場所に飛ばされる可能性の方が高いですね」
「楽できるかもと思ったのに残念だったね」
「うっ」
思惑がバレている。そう簡単に上手くいかないよね。その後も会話を混じえながらお昼を堪能していると、紅眞が腑に落ちない表情を浮かべながらソワソワしだした。
「どうしたの紅眞?」
「んーなんかモヤモヤして……」
モヤモヤ?
「如何なさいましたか、紅眞様?」
「それだ!」
緋翠が声をかけた次の瞬間、なにかに気づいたらしい紅眞がビシッと食べかけサンドイッチを掴んだままそれを緋翠に向ける。行儀が悪いよと碧雅の指摘が入った。向けられた意味がわからず緋翠はぱちくりと瞳をはためかせる。
「なあ緋翠、俺たちにも様付けとかしなくていいからな?姉ちゃんじゃないけど、なんかむず痒い」
「ですが……いいんでしょうか、私のような者が」
「“のような”じゃないだろ、緋翠」
射抜くように見つめる紅眞。その瞳は若干の怒りを感じた。自分を卑下するような言い方に怒りを感じるのは、らしいというか。
「今度そんなこと言ったら俺怒るからな」
「……分かりました。では、僭越ながら紅眞と呼ばせていただきますね。貴方も、碧雅と呼んで構いませんか?」
「別にどの呼び方でもいいけど……好きな方で呼んでいいよ」
「あ、なら俺もついでに兄ちゃん姉ちゃん呼び卒業するか!」
「確かに、同い歳くらいになったもんね。あと背は紅眞の方が伸びたし」
「最後の一言は余計かな」
「あ」
やばい、地雷を踏んでしまった。でもこればっかりはどうしようも無いじゃないか。
「小柄な方が威圧感なくて私好きなんだけど」
「そういう問題じゃないから」
どういう問題だよ。顔に出ていたのか碧雅も少しムッとした表情になる。
「まだ若いんだから伸びるでしょ!」
「ポケモンは進化くらいしか体格的な成長はしないの」
「え、そうなの?ということは、碧雅はもうこのままチビっちゃいまま」
「ほんっとユイっていい度胸してるよね」
そんな光景を見つめながら、楽しそうに笑う緋翠。
「皆さん仲良しですね」
「いやどこが!?」
もしかしたらこの子は天然なのかもしれない。
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