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「おお〜マイナスイオンを感じる……気がする」


あれから数日経ち、私たちは現在ハクタイの森にいた。ハクタイの森はシンオウでも有数の広大な森らしく、鬱蒼とした森の中はどこか清涼な空気を感じさせた。風に揺られる木の葉の音が耳を通り抜け、その音はどこか心地よくて気持ちいい。


「お疲れではありませんか、マスター?」


そして隣には私より少し年下の男の子が一緒に歩いている。この子はあの日の晩、仲間になりたいと申し出てくれたあのラルトス君だ。


「うん、大丈夫だよ緋翠(ひすい)」


サラサラの緑の髪。少し長めの前髪から覗くその目は綺麗な緋色。緑は安らぎを与え、心を穏やかにさせてくれる色だと聞いたことがある。なので、翡翠とかけて付けてみた。


(将来有望な顔立ちだよねぇ……それは手持ち全般に言えることだけど)


緋翠は人型になるとその性格に違わない優しい顔立ちの美少年だった。にこりと微笑む優しい笑みは見ていてこちらも穏やかになれる。ポケモンが人型になるとみんなジャンルは違えど、美形に分類されるのは気のせいでは無いと思うんだ、うん。
上を見上げれば沢山の木に覆われた隙間から覗く青空が見えた。


(緋翠が仲間になってから結構経ったよね)


森を歩きながらあの日の晩のことを思い返す。




◇◆◇




「えっと、お供させてくださいって……私たちと来てくれるの?」
『はい、ご迷惑でしたら断ってくださって構いません』
「迷惑なんてとんでもないし私は嬉しいけど……」
「……良いんじゃない?本人がそう言ってるなら」
「おふぇもー」


2人にも意見を求めたくて視線を送ると、どうやら意味を汲み取ってくれたみたいだ。紅眞は俺もーって言いたかったのかな。まだ口いっぱいにカレーを頬張ってる。
何はともあれ、2人とも反対はしないということだ。


「ということなので、私たちは大歓迎だよ!」
『……ええ、ありがとうございます。これからよろしくお願い致します、ユイ様』
「さ、様」


先程もそう呼ばれたけれど、やっぱり様付けは慣れない。一応私が主ではあるけど、そんなに気を遣われたくないし、あくまで仲間として対等に接していきたいと思っているから。


「ラルトス君。できればその〜、様はちょっと……」
『お気に召しませんでしたか。では……ご主人様はいかがでしょう?』
「ごっごごごしゅじんさま」


生まれてこの方16年、まさかご主人様と呼ばれる日が来るとは思わなかったよ。吃りながら復唱すると「はい」とにこやかに言われた。


「いやいや普通に!碧雅達みたいに名前で呼んで欲しいかな!は、恥ずかしいから!」
『名前で……いやでも主をそのように呼ぶのは……』


ブツブツと考え始めた。いやーそんな真面目に考えなくてもいいんだけどね。普通に気軽に接してくれればいいだけなんだけど。ラルトス君用のカレーとケーキを別のお皿に分けていると、呼び方を思いついたらしいラルトス君。では、と言葉を続けた。


『マスターとお呼びするのはいかがでしょう。これもお気に召しませんか……?』
「ぐっ…………い、いでしょう」


個人的にご主人様よりはマスターの呼びの方が恥ずかしさは薄い、かな。やっぱりちょっと恥ずかしいけどね。でもあまりダメダメ言いすぎるのも良くないし、呼び方問題はこれで解決にしよう!
ありがとうございますマスターと早速嬉しそうにお礼を言われた。よし、慣れろ自分。


(あ、名前も考えなきゃ)


ポケモン同士自己紹介を始めた3人を見守りながらぼんやりと名前を考え、祝勝会パーティーにラルトス君の歓迎会も加わり、その日の晩は終わりを告げたのだ。




◇◆◇




(それで次の日に名前を決めてからジョーイさんに緋翠のことを伝えて、完全に回復したのを確認したけど念の為、もう少し休んでから出発したんだよね)


そして今に至る。まだ仲間になって日も浅いので、交流を深める意味も兼ねて緋翠が同行してくれている。
太陽の光が木に遮られてて薄暗いから誰かがいると安心でそれは有難いんだけど……


「マスター、荷物をお持ち致しましょうか」

「マスター、足元に段差がございます。お気をつけください」

「マスター、前方にポケモンの気配が致します。今片付けて参りますのでこちらでお待ちをー」
「ストォォップ!」


流石に我慢の限界が来た。最後に至っては片付けなくてよろしい。見てごらん、興味を持って見に来たミミロルが緋翠の発言で逃げてったよ。
初めはきょとん、という顔をしていたが、すぐに申し訳無さそうな顔に変わった。


「申し訳ありません、マスター。野生ポケモンが近づいていたので危険かと思い……」
「気遣ってくれるのは嬉しいけど、そんなに張りつめなくてもいいんだよ?」


森の出口まで今の地点からどのくらい距離があるか分からないし、 体力が持つかどうか心配だ。


「いえ、マスターの安全を確保することの方が大事ですから」


緋翠は主関連に関しては結構頑固な気がする。これは彼の個性なのか種族柄なのか、はたまた両方か。
まだ仲間になって日も浅いし、少しずつお互いを理解していくしかないのかな。



ぐぅぅ〜



「……!」
「ああ、もうそんな時間でしたか」


お昼に致しましょう。
女の子らしからぬ腹の虫が鳴っても緋翠は特に何も反応することもなく、昼食の準備を始めようとしていた。

……笑われるのも恥ずかしいけど、これもなかなかダメージがあるぞ……?


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