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「ラルトス?もしかしてE-256かしら?」
〈……お久しぶりです〉


テレポートで現れたラルトスに一瞬驚いた様子のマーズだったけれど、紅眞を守るように立ちふさがる姿を見て合点がいったらしい。


「へぇ。あなたE-256も連れてたの。探す手間が省けてよかったわぁ」
「やっぱりこの子は、あなたたちのー」
「そうよ。失敗作だけどね」


……?今、なんて言ったの?


「失敗作……?」
「ええ。だってこの子、戦わせても力が出ないんだもの。だから部下に支給ポケモンとして使わせてたの」


あまりにも酷すぎる。何なんだ彼等は、どうしてこんなことが出来るの?


「でも流石に実験体が逃げ出すのはまずいから、回収のために探してたのよね。自分から戻ってくるなんていい子ね?E-256」
『……反吐が出るね』
「本当に、あなた達最低だよ」
「あらぁ、随分嫌われちゃったわね。あたし達はただ、今より素敵な世界を作りたいだけなのに」
「世界を作りたいとか知らないけど、命を弄ぶようなことする時点でロクな世界じゃないことは分かるよ」
「やっぱり理解されないのね、結構頑張ってるのに」
『っふっざけんなよ!』


ラルトス君が現れてから黙っていた紅眞が口を開いた。今までの元気で明るい雰囲気は消え、物凄く怒っている。奮い立ったその小さな背中は、どこか大きく見えた。


『頑張るって、何がだよ。ただラルトスみたいにポケモンを痛めつけたり、無理やり人から物を奪ってるだけだろ』

『お前ら、ラルトスがどれだけ苦しんだか知らないだろ、分からないだろ』

『満足に食べ物も食べられず、外にも出られずにいて、ボロボロになってもギリギリまで逃げなかったこいつのこと、どうしてそんな風に言えるんだよ』


ラルトスは、人間と共に成長をするポケモンだと知った。人の気持ちを敏感にキャッチするため人前に姿を現すことは滅多にない。
明るい感情を持つ人間と暮らし、信頼を築き強くなる。そして強くなった恩返しで、人間を護る。人間と共生するような生態を持つポケモンだ。


『こいつはどんな目に遭っても、あんたら人間のことが大好きなんだよ!だからお前らの元にいたんだよ、待ってたんだよ!いつか、自分のことを見てくれる日が来るって……』


それは紅眞の考えも入ってるかもしれない。でも、私もラルトス君は人間のことをあまり嫌ってはいないと思った。種族柄なのか、彼はあまりにも優しすぎる。

紅眞の言葉はマーズには伝わらない。人型になれば伝わるだろうけど、その考えが頭に浮かばないほど彼は怒っていた。

ラルトス君の前に立った紅眞。後ろ姿でも分かる。今の紅眞の目は、自分の意志を真っ直ぐ相手に向けている。


『こいつが怒らないなら、俺が代わりに怒る。あんたらは絶対に許さない』


そして紅眞の身体が今までの光とは比べ物にならないくらい眩いた。光る中、紅眞の小さな身体が少しずつ変化してるのがわかった。
光が収まり、姿を現した。そこにいたのはアチャモじゃなくて、


「……碧雅、何が起きたの?」
『進化した。ワカシャモになったんだよ』


これが、進化。
凛々しい表情を浮かべたワカシャモが私を見た。


『ユイ姉ちゃん、指示くれ!』


少し低くなった声。心身共に成長したのだと感じさせた。

ブニャットから受けたダメージが残ってるだろうに、それを感じさせないスピードで駆けだした。えっと、ワカシャモの使える技って……!確か進化した時に覚える技があった。以前より伸びた脚を使って繰り出す技が。
紅眞も分かっているみたいで、かそくのスピードを緩めずブニャットの大きな身体に、まずは一蹴り。


「ブニャット!?」
「紅眞、いくよ!」
『おう!任せとけ!』


次に、もう片方の脚で、もう一蹴り!


「にどげり!」
『くたばりやがれえぇ!!』


勢いよく蹴りあげられたブニャットは宙を舞い、ドスンと鈍い音を立て床に倒れたまま動かなかった。


ーー勝った!


『ど、どうだ……!俺だって、やればできる……んだ、……ぞ……』
「紅眞!」


流石に体力の限界だった紅眞も倒れてしまった。モンスターボールに戻し、ありがとうと両手でそっと抱き締めた。マーズを見れば、ブニャットを戻し労いの言葉をかけていた。


「約束です。ここから出て行ってください」
「あーらら、負けちゃった。まあいいか、あなたとのバトル割と面白かったし。進化も見られたしね」


すると今まで物陰で様子を見ていた小柄なおじいさんがやって来た。赤いサングラスが特徴的な、胡散臭さを感じさせる雰囲気だ。


「おやおや、子どもに負けるとはの。まあいいさ、電気はたっぷりいただいた。さあさマーズや、ここは退散するとしよう」
「ウルサイわね!アンタは黙ってなさいよ!あたしに命令していいのはこの世でボスただ一人よ!最近仲間になったくせに偉そうにしないでよね!」


マーズの機嫌が一気に悪くなった。どうやら二人の仲はそれほどよくないみたい。


「それに、アイツはどうしたのよ。アイツを使えばこんな子あっという間に倒せるじゃない」
「ふむぅ、アイツは扱いが難しいからの。それに今この段階で使うべきじゃない」
「ふん、まあいいわ。それじゃあ、あたし達は一先ずここでバイバイしちゃうから!」


そう言い残し、マーズたちは窓から飛び去っていった。
発電所での戦いは、私たちの勝利で幕を閉じたのだ。


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