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そう言ってマーズが繰り出したのはズバット。初めてシンジ湖で襲われた時を思い出す。
「紅眞、行こう」
『おうよ!』
やる気に満ち溢れている紅眞を繰り出した。マーズは即座にかみつく指示をしてきた。
「ひのこで反撃して!」
『わかった!』
小さな火の玉がズバットに降りかかり、少しでも近づけさせないようにする作戦。ズバットがひのこを避けてバランスを整えてるうちに、こっちが攻撃する!
「ズバットに飛びかかってひっかく!」
勢いよくジャンプし足の爪でズバットを引っ掻いた。ただやっぱり幹部のポケモンは強い、すぐに体勢を戻し噛み付いて反撃してきた。
「あたしのポケモンに何するのさッ!」
(ヒィィ!)
ドスの効いた低い声に思わずビビってしまったけど、心の中で留まったので良しとしたい。というか、自分のポケモンに対しての愛着はあるのね。その気持ちを少しでも他のポケモンに向けてくれればいいのに。
「紅眞、もう一度ひのこ!」
『くらいやがれー!』
ひっかくのダメージがあったからか、今度の攻撃はしっかりと命中した。ふらふらと飛んでいたけど、直ぐに力尽き地面に倒れた。
「戻って。……思ったよりやるわね、あなた。それにグレイシアを連れてるってことは、もしかしてシンジ湖にいた下っ端の報告にあったトレーナーかしら?」
品定めをするように碧雅を見つめながら私の顔色を伺う。マーズの言葉に思わず息詰まり返答出来ずにいると、それを肯定と捉えた彼女は楽しげな表情に変わった。
「なるほどねぇ。なら、可愛い部下の仇でも撃たせてもらいましょうか。いくわよ、ブニャット」
『あらァ、お呼びなの?』
現れたのは大きな体格の猫の姿をしたポケモン。その目は鋭い眼光を帯びていて、ふくよかな体型と相まって威圧感が凄い。紅眞の方を見ればまだやる気は十分あるらしい、私の方を見てうなづいた。
『可愛い子ねェ、いじめがいがあるわァ』
『へっ、オバサンに言われたくないぜ』
『誰がオバサンですってガキンチョ!』
「煽るな煽るな」
ちょっと敵を怒らせてどうするの!ただでさえ怖いブニャットがさらに怖く見えるよ!さっきのズバットより強そうだし、早く終わらせないと。
「紅眞、つつく!」
嘴が鋭さを増し、光りながらブニャットに向かい走り出す。そのスピードはさっきよりも速い。特性のかそくが発動しているんだ。よし、時間が経てば経つほど速くなるなら相手も困惑するはず……!
けれど、マーズは不敵な笑みを浮かべた。関係ないと言わんばかりに。そして一つの指示を出した。
「……ブニャット、ねこだまし」
ねこ、だまし?
聞いたこともない技だ。嫌な予感がする。近づいてくる紅眞に臆することなくブニャットはタイミングを待った。そして、あと少しというところで物凄い音が鳴った。ブニャットが自身の前足を器用に使い音と衝撃波を立てたのだ。
『!?わっ!』
その音に紅眞も驚き思わず技を止め、目をつぶってしまった。まずい!
「だましうち!」
『っぐわぁぁ!』
追い打ちをかけるようにブニャットが紅眞に攻撃をしてきた。無防備だった紅眞は攻撃をモロに受け、私の前まで吹っ飛ばされてしまった。
「紅眞!」
『……ってぇ……』
「あら、もうおしまい?」
ブニャットは無傷だ。あんな技があったなんて、私の知識不足だ。ともかく、これ以上バトルを続ければ紅眞が危ない。ボールに戻そうとするが紅眞が引き止めた。
『まだ……やれる……!』
「紅眞!ボールに戻って!まだ碧雅もいるから!」
『いやだ!俺だって戦える!俺だってやれるんだ!』
もうボロボロなのに、立ち上がる。相手はギンガ団だ、容赦無しに攻撃するに違いない。紅眞の命を考えれば交代したい。
『……紅眞、代わりなよ。ここで無理することは無い』
『兄ちゃんに言われても断るぞ、俺だけで戦いたいんだ』
『紅眞、時と場合を考えてー』
『あらあら、頑張り屋さんねェ。残念、ここでおしまいなんて』
「トドメを指しなさい、ひっかく!」
鋭い爪を出し獲物に狙いを定めて襲いかかる。立つのがやっとな紅眞は避けられない。最悪の光景が頭に浮かぶ。やめて、やめて!
「やめてえぇぇ!!」
〈やめて下さい!〉
突如目の前が光ったかと思うと、紅眞の前に透明な壁が現れ、それに護られていた。ブニャットは壁を引っ掻く猫のように爪を立てている。あれは、リフレクターだ。
ボロボロでしゃがんでいる紅眞の前に立っているのは、あの子は、
「ラルトス、君?」
『……はい!』
私の方を振り向き返事をしたのは、あのラルトス君だった。
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