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〈驚かせてすみません。テレパシーで貴女の頭の中に語りかけています〉


ラルトスの口は動いてないのに、頭の中に声が聞こえてくる、不思議な感じだ。普通の人はポケモンの声が聞こえないから、こうやって私に話しかけてくれてるんだ。もっと警戒してくるかもと思ったけど、話は出来そうで良かった。


「おはようラルトス。ちゃんと聞こえてるよ、ありがとう」
〈ああ、良かったです。貴女にはきちんと、こちらからお礼を言いたいと思っていましたから〉
「お礼なんていいの!それより体調は大丈夫?」
〈はい、おかげさまで良くなりました〉


そうは言っても、まだ体力は戻り切ってないだろうし、なるべく休んで欲しい。テレパシーも平気そうな顔をしてるけど、力を使ってることに変わりはないし。碧雅には他の人に言うなって言われてるけど……ポケモンなら、いいでしょ、うん。


「ラルトス、実は私ね、ポケモンの言葉がわかるの。だからテレパシー使わなくても大丈夫だよ」
『…………え?』


近くにあったイスに腰掛け、ご飯にしようとサンドイッチを取る。ラルトスにも差し出したところ、小さく会釈して受け取った。礼儀正しい子だなあ。


『……私の声が、聞こえてるんですか?』
「うん!理由はわかんないんだけどね」


ぱく、とサンドイッチを一口。昨日のお昼から何も食べてなかったのでお腹ペコペコだったのだ。


「美味しいー!紅眞のご飯も美味しいけどPCも負けてない!」
『……不思議な方ですね、貴女は』
「そうかな?ほら、ラルトスも食べよ!」


じゃないと私が食べちゃうよ!茶化す様に言えばはい、とラルトスは少し笑いゆっくりと食べ始めた。もぐもぐと噛み締めるように食べて、飲み込んだ。ほのかに頭の赤い突起が光った。


『…………。』


何も言わない。しばらくサンドイッチを見つめていたかと思うと、下を向いて動かなくなった。


「ラルトス?もしかしてお腹痛くなっちゃった?」


いいえ、と首を振るラルトス。その声は少し震えていた。


『あの、美味しくて……本当に、美味しいんです』


ようやく顔を上げたラルトス、隠れていても分かるくらいの涙がこぼれていた。本人もわからず困惑しているみたいだった。小さな手で拭ってもすぐに雫がまた流れる。

ジョーイさんからラルトスは外傷だけでなく、栄養失調にもなっていたということを聞いた。紅眞がラルトスを持ち上げた時に驚いた顔をしていたのを思い出した。あれは、想像より軽かったことに驚いてたんだ。

その様子から、ラルトスがギンガ団でどんな扱いを受けていたか想像するのは難しくなかった。


『す、すみません。嬉しいのに泣いてしまって。すぐに止めますので……』


なのにこの子はこんなに周りに気を使って、大丈夫と言わんばかりに泣きながら笑おうとする。今も私に気を使って涙を見せないようにしている。

私はベッドに座り、ラルトスの頭をそっと撫でた。


「優しいね、あなた」


赤ちゃんみたいに小さな体。今までどれだけ辛かったろう、苦しかったろう。

もういいんだよ。

そう伝えるために再び頭を撫でると、それがスイッチになったらしく、とめどめもなく雨が降るように泣いた。


(自分のポケモンなのに、こんなに追い詰めるまで酷いことするなんて)


ギンガ団に対する怒りが静かに湧き上がった。


そして数分後、ようやく落ち着いたらしいラルトスは恥ずかしそうに私から離れた。すき間から見えた目が赤く晴れちゃってるけど、少しスッキリしたかな。


『……あ、あの、……本当に、ありがとうございました』
「ううん、気にしないで!少しでもスッキリできたなら何より」


とは言ってもこの子の性格上気にしそうだな。元気なのも確認できたし、恥ずかしいだろうからそろそろ退散しよう。そう思った矢先、PCのアナウンスが鳴った。


「それじゃ、私はもう行くね。後はジョーイさんが診てくれるから大丈夫だよ。早く元気になってね!」


バイバイ、と手を振り私は部屋を後にした。野生に帰った後、今度はちゃんと幸せになれるといいなあ。




『…………。』


ラルトスがドアを見つめ、何を考えていたのか私は知る由もなかった。


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