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声のする方に走り出せば紅眞から不思議そうに疑問を投げ掛けられた。


『姉ちゃん、どうしてこっち行ってんだ?』
「誰かの声が聞こえたの!2人には聞こえなかった?」
『……声?』


思い当たる節がないらしい。聞こえていないみたいだ。ポケモンのほうが人間より五感は優れてるみたいなのに。
……あれは、私の幻聴だったのかな。


「いや、確かに聞こえた。“助けて”って」


この世界は私のいた世界とは違う、ポケモンがいるんだから、こんな不思議なことが起きてもおかしくない。


『……まあ、確かめてみるに越したことはないんじゃない』
『俺も構わないぞ!』
「……!ありがと!」


仲間からの許可を貰え、奥へ奥へと進んでいく。


『うわっ、臭ッ!』
『なんだこの人間、特性悪臭なのか!?』
「誰が悪臭女よスプレーのせいだもん!」


全く見かけなかった野生ポケモン、というかズバットがちらほらいた。そして臭いで奥に逃げていく。散々な言われようだし、次からは使わないでおこう。碧雅、ボールの中で笑ったのを私は見逃さないよ。


しばらく走っていると少し広めの空間に出た。そこの真ん中に何者かが倒れてる。白くて小さな、子ども?


「き、君!大丈夫!?」
『!ユイ、伏せて』


白い子どもに気を取られていて碧雅の声でズバットが天井に張り付いてることに今気づいた。広範囲で放たれたこおりのつぶてはズバット達の横スレスレに当たり、飛んでバランスを整えている。


『何をする人間!……って臭ァ!』
『うっ……だ、ダメだ!とてもここにはいられない!』
『みんな、退散!たいさーーん!』


びゅーんという効果音が似合うくらいズバット達は一目散に逃げていった。ほんとこのスプレー効果抜群だね、言葉が通じる私には心のダメージが多い代物だけど。スプレーのせいと分かっていても、なんか、心にくる。

と、それよりも今は、


「この子も……ポケモン?」


子どもが倒れてる所へ近づくにつれ、その子は人ではなく、ポケモンなのだと分かった。赤ちゃんみたいに小さいけれど、おかっぱのような緑の頭に赤い突起が特徴的で、ミステリアスな雰囲気のポケモンだった。
所々に傷が見えて、浅い呼吸を繰り返す。


『ラルトスだね。だいぶ衰弱してるみたい』
「首元に何かついてる?」


碧雅が告げたラルトス、というポケモンの首に紐で結び付けられた小さな白いプレート。そこには“E-256”と書かれていた。


(もしかしてこの子が、ギンガ団の探してた……)
『うっ……』
「!ラルトス、大丈夫?」
『くっ……』
「く?」
『く、さい、で……す』


そう言い残しラルトスは動かなくなってしまった。こんな時にもスプレーの影響が!こうかは抜群だ!


「どっ、どどどどどうしよう!?」
『こういう時トレーナーが慌ててどうするの。とりあえずPCに連れてくよ』
「は、はい」


これ以上臭いでダメージを与えないように離れ、紅眞が擬人化してラルトスをそっと抱き上げた。抱き上げた時の驚いた顔が印象的だった。

洞窟から出ると、外はもう夜になっていた。道の端々に花が咲いており、進めば進むほど花の香りが濃くなっていく。花が描かれたアーチを抜けると、暗い夜でも分かるくらい花に囲まれた街が姿を現した。

ソノオタウンに着き、一目散にPC向かった。花の匂いでスプレーの効果が薄れたみたいなのでラルトスを私が運び、碧雅達はボールに戻って休んでもらう。


「ジョーイさん!!」


息を切らしてラルトスを抱えてきた私を見て、ジョーイさんは一目で容態を悟ったらしい。動かないラルトスを見てすぐに指示を出した。


「ラッキー!急いで集中治療室に!」
『はい!』
「あの、私」
「事情は後で伺います。大丈夫、必ず助けます」


そう言い残しすぐ治療室に入るジョーイさん。“手術中”の赤いライトが光った。

あっという間だった。傍にあった椅子に腰掛け、祈るように待った。こんな経験今までしたことなくて、果たして私は正解の行動を取れたのか分からない。

仲間も回復させてあげられなかった。様子を伺うと2匹とも目を瞑り眠っているようだった。自販機で売ってる飲み物も、ポケモン達には回復に使えると聞いたので奮発してミックスオレを買った。起きたら飲ませてあげよう。


そして私自身も疲れが出たのか、椅子で横になりそのまま眠ってしまった。


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